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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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初心者の迷宮(ダンジョン)にて、その6~封印の間~


「そっちはどうだった、ニア?」

「ダメだな、誰も耳を貸そうとしない」

「まあ、そりゃそうだろうな」


 ラインがさも当然のような顔をする。アルフィリースたちは傭兵たちにダンジョンを一度出るように呼びかけたのだが、誰も同意してくれなかった。


「何よ、自分の命より金が大切だっていうの?」

「そうでなくとも、お前たちの作戦だと疑う奴もいるだろう。俺たちに他意が無いことなんざ証明しようがないさ。傭兵なんて底意地の汚い奴らがほとんどだしよ」

「と、いうことは他に彼らが飛び付くような餌があればいいんですよね?」


 カザスが提案する。


「問題はその餌を何にするか、だな」

「アルフィの裸はどうかしら?」

「なんでいつもそういう話になるの?」

「そりゃアンタの裸が一番迫力あるからね。裸の一つや二つ惜しむんじゃないわよ、人の命がかかっているのよ⁉」

「私の大切な何かもかかっているわよ!」

「じゃあフェンナでいっとくか?」

「私でよければ頑張ります!」

「そこは頑張らなくていいから! そんなことを言うならミランダがやれば?」

「シスターが脱いだら洒落にならないっての。アルネリア教の評判を落とすわけにはいかないわ」

「普段の素行は棚に上げるんだ」

「何か言ったかい、アルフィ?」

「何下世話な話をしてやがりますか、このスットコドッコイ共。リサが脱ぐ案が出る気配がないというのはどういうことですか、ちきしょうめ」


 悪態とともに離れていたリサが戻ってきた。


「要は隠し階段の場所がわかれば一番早いのでしょう? 間違いなく全員喰いつきます」

「そんなに簡単にわかれば苦労ないっての」

「いえ、既にわかりました」

「「「「「「えええええええ!?」」」」」」


 全員が驚愕の声を上げる中、飄々としているリサ。


「長いこと見つからないわけですね。ダンジョン探索にはセンサーの同行が常識ですが、なぜ隠し階段ごとき見つからないのか不思議だったのです。全体にセンサー封じがしてあるダンジョンというわけでもなし。でもここが初心者用のダンジョンということを考えれば当然かもしれませんね。私でもなんとかわかる範囲の隠し扉の隙間を見つけました。初心者のセンサーではこれの発見は無理でしょう。しかも隠してある位置が何とも言えず性格が悪い。何せ地下2階にあるのですから」

「地下3階じゃないの?」

「ええ、違います。3階は侵入者を戸惑わせるための心理的な罠で、2階から直接降りるのでしょうね。これは見つからないでしょう」


 リサの解説を元にその場所にたどりつく。だがしかし。


「どうやったら開くの、リサ?」

「さあ?」

「さあって・・・」

「リサは万能ではありません。何を私に頼り切ってますか、アルフィ。胸にばっかり栄養を送ってないで、ちょっとは頭にも栄養を回したらどうですか?」

「好きで大きくなったんじゃないわよ!」

「まあそんな話は夜にでもゆっくりやるとして、この壁の開け方ならわかると思いますよ」


 カザスが発言する。っていうか、夜やるの?


「へえ、先生にわかるの?」

「私は遺跡のプロですからね。建築様式を見ればだいたいは。時代によって流行りの仕掛けとかもありましたから」

「で、ここの仕掛けは?」

「構造から察するに、およそ300年前のドワーフの様式・・・だとすると、1つだけ質量の違う石があって、それを押すと開くと思いますが・・・」

「1つって、この中から?」


 このダンジョンの壁自体が手のひらサイズの石を組み上げて出来ている遺跡である。その中から一つを探すなど、それこそ日が暮れる。


「時間がかかりそうだね・・・」

「でもやるしかないわ」

「皆さん、ちょっと待ってください」


 フェンナが壁に手を当てて何か呟いている。しばらくしてすたすたと歩いたフェンナは、


「これですね」


 とおもむろに1つの石を押した。するといくつかの石が反対に飛びだし、


ゴゴゴ・・・


 という低く何かが動く音と共に壁が2つに割れていく。


「フェンナ、どうしてわかったの?」

「私は土の魔術士ですから。このくらいなら」

「よし、俺は下に行って傭兵どもに声をかけてくる。アルフィリース達は先に降りて安全を確認していてくれ」


 言うが早いか走り去るライン。


「僕は史跡の調査を優先させてもらいましょう。大人数に来られると調査どころではなくなりそうですからね」


 そしてさっさと階段を下りるカザス。


「私達も下りましょう」


 カザスに続いてアルフィリース達も階段を下りる。


***


 階段は非常に長かった。まるで地の底にでも辿り着くのかと一行は思ったが、リサいわく、せいぜい100mも下っていないそうだ。地下というのは時間の感覚を失わせる。酸素も当然薄く空気も湿気を含んで澱んで重くなり、いかに自分達が普段暮らす地上が恵まれているのかをアルフィリースは痛感する。

 そして地下に着くと、そこは随分ひらけた空間であった。地下1階の広間よりも大きい。ここは天然の洞穴ではないだろうと、アルフィリースは推測した。今までと明らかに造りが違う。まず眼前にそびえる人工の赤い扉、というより門の大きさだ。明らかに人の背の倍はある。そしてその前には白骨がいくつも横たわっている。なんだか見ている者に不安を抱かせる光景であった。この扉は開けてはいけないのではと、誰もが無言で心の中に同じ言葉を浮かべていた。

 だがそんなアルフィリースの心配をよそに、扉を熱心に調べるカザス。


「どうやらこの空間を目指して掘ったようですね・・・なぜこんな所に空間があるのかはさておき、この扉の様式は不思議だ。色々な建築様式が混ざっている・・・おや、こんなところに文字が」


 カザスが扉の汚れを慎重にふき取り、読もうとする。


「・・・だめだ、私では読めませんね。現在使われている文字じゃない。誰か読めませんか?」


 カザスがアルフィリース達に声をかける。真っ先に反応したのはミランダ。


「どれどれ・・・これは一部は教会文字だね。アルネリア教会が外部に情報を漏らしたくないときに使うやつだ。司祭以上の身分にしか読めないやつだけど、なんでこんなとこに?」

「獣人の文字もあるぞ」

「エルフの文字もです」

「こっちの文字は・・・なんだこれ?」

「それは呪印を刻むときに使う古代語の1つと、竜言語文字よ」


 アルフィリースが答えたので一同はびっくりした。特に驚きが大きかったのはカザス。


「竜言語文字ですか・・・書籍では見ましたが、実際の物を見たのは初めてです。ということは、ここには竜も関わっている?」

「とは限らないわ、竜人の可能性もある。高位の竜が人の姿を取る時に使う文字の様だけど、竜人でもある程度以上知識があれば使えるそうよ」

「・・・それなら読めないかもしれませんね。教会文字と同じで、竜人の秘匿でしょうから。古代語も僕は読めませんし」

「私は全部読めるわよ」


 アルフィリースがしれっと言ったことに、さらに全員が驚いた。


「やっぱりアルフィって頭良いの?」

「頭いいかどうかはわかんないけど、魔術を使う上で言語知識は必須だからね。前言ったみたいに竜とも親交はあったし。ただ嫌な予感しかしないけど。どれどれ・・・・・・・・・・・・これは・・・・・・」


 目で字を追うごとにアルフィリースの顔が暗くなる。そして読み終えた彼女ははっきりと言いきった。


「引き返しましょう」

「な、なぜですか?」

「これは人間の、いえ、地上の生物の手に余るものかもしれない」

「なんて書いてあるのさ?」

「それは――」


 その時階段の方から大勢の声が聞こえてきた。どうやらラインが傭兵を連れてきたらしい。何とも間の悪い、とアルフィリースは内心思ったが、もはや手遅れだった。


「おお、開けた場所に出たぞ」

「先客がいるようだな」

「げっ、なんだこの白骨は」

「あの扉がお宝への道か!」


 傭兵たちががやがやと叫び出した。どうしたものかとミランダやニアはうろたえたが、アルフィリースの行動は早かった。


「全員聞きなさい!」


 凛とした声でその場を一喝する。よく通る張りのある声に、思わずその場の全員が動きを止めてしまった。


「この扉は開けてはいけないものです。この奥には宝などありません!」

「おいおい、俺達を煙に巻こうたってそうはいかねぇぞ?」

「どうせ宝を一人占めにするつもりなんだろ?」

「そうだそうだ!」


 逆に大騒ぎとなり、全員が文句を言いだした。すぐにでも暴動がおこりそうな雰囲気である。だがアルフィリースは一歩も引かないどころか、逆に剣をすらりと抜き放った。その行動に思わずどよめく傭兵達。ラインだけは「ヒュウ~♪」と感心した様子で口笛を吹いていたが。


「どうしてもというなら・・・私が相手になるわ! 宝が欲しいなら私を斬って行きなさい!!」

「ちょっと、アルフィ!?」

「何を言い出すのです??」


 ミランダやリサが止めにくるが、アルフィリースはどこ吹く風だ。顔にはかなりの決意が見てとれる。その様子にさすがに傭兵達も気が付いたのか、騒ぎがどよめきに代わって来ていた。傭兵達もバカではない。彼らに学のある者は少なかったが、金次第でどんなことでも請け負うことがある彼らは汚い人間など腐るように見てきている。今現在彼らの目の前で剣を抜いて立ちはだかる女剣士が、金に汚い人物には全く見えなかったのだ。

 それに彼らは自分の身の危険にも敏感だ。アルフィリースの様子を見て、自分達が取り返しのつかないことをしようとしていることを直感で悟った者も少なくなかった。


「どうする?」

「そこまで言うのなら本当にヤバい物かもな・・・あの女が嘘をついているようには見えん」

「むしろ本気で俺達を心配しているかもな」

「では、せめてこの扉を開けてはいけない理由だけでも教えていただけますか?」


 どよめきの中からひときわ通る声を発したのは、アルフィリースと集合時に目の合った少年であった。



続く


次回投稿は11/21(日)10:00です。



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