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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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不帰(かえらず)の館、その20~ランブレスの真実~

「事件が起こったと」

「はい。ある日の夕方、半狂乱になった町娘が館にまいりました。私の夫になるはずだった男を返せと、泣き喚くのです。私は何のことかわからず困りましたが、まさかと思い娘を幽閉した一画に向かったのです。ところが娘の姿はどこにもなく、私は困惑しました。

 私は屋敷の者に娘の行動をひそかに見張らせました。そして娘の寝室から、娘が独自に作り出した一室を見つけたのです。どうやったのかはわかりません。レンガ造りの家をどうやって掘り進んだのかも。

 私は一計を案じました。私は娘を商人に合わせている間、私とさきほどの執事でその部屋に侵入たのです。しばらく部屋を探していると、なんと隠し部屋が見つかり、そこには確かに娘の婚約者であった男がいたのです。それだけではありません。他に、5人」

「5人も?」

「はい、全員まだ生きておりました。彼らはいつぞやの猫のように、その四肢を切断され、あらゆる場所に釘を打ちこまれ、それでもなおかつ生きておりました。私と執事はあまりのおぞましさに嗚咽しました。私達は衝撃のあまり、どうすることもできませんでした。

 私と執事は悩みました。この後処理をどうするべきかと。誰にも相談できず、ついに私達は悩んだ挙句一つの決断をしました。私達は娘がその隠し部屋に入った瞬間を狙い、その場所を封印したのです。外から重しで蓋をし、壁を塗りこめて中から出られないようにしました。部屋は完全に密室となっており、また防音も完璧でした。それはそうでしょう。屋敷の中の誰も、拷問そのものに気が付かなかったのですから。

 そして1年ほどは普通に暮らしました。妻には娘は旅芸人の一座に紛れて出て行ったと言いましたが、彼女はどこかほっとした様子でした。他の家の者にも詳細は伏せて娘の失踪のみを話しましたが、誰も娘の事に触れようともしませんでした。また以後町の者達に何を聞かれても、全員が知らぬ存ぜぬで通しました。

 ですが私達の心の平穏は徐々になくなっていきました。妻はやはり娘の結末になんとなく気が付いていたのか、おどろくほどあっさりと病気で死にました。晩年は病気で脳が侵されたのか、『娘がこっちに手招きをしている、娘の髪が私を引きずって連れて行こうとする』などとうわごとを呟きながら。使用人たちも妙な夢を見ると言って、ひとり、またひとりと辞めていきました。

 3年以上経ったある日、屋敷の者は既に20数名程度しかおりませんでした。そのどれもかれもが、体調不良を訴えながら。驚くことに私の屋敷から暇を出した者さえ、体調不良で次々と死んでいるようでした。そして私と執事は相談したのです。封印を開けて、供養をするべきではないかと。既に使用人は私と執事の他私と執事は部屋の入口であった場所を掘りました。

 そして・・・」


 ランブレスの口が重くなった。今度はクルーダスが促す。


「そして、何ですか?」

「わかりません。気が付いたら私はここにいました。既に実体はなく、私は死んだことを悟りました。ですが死んだことがわかっても成仏ができない。この屋敷を離れることもできない。

 最後の記憶は、闇が私に向けて迫ってきたところだけ。執事も、他の屋敷の者も似たようなものです」

「それで、我々に何をどうしろと? そのために呼んだのだろう?」


 ラファティの言葉に、ランブレスは頷いた。


「アルネリアの騎士とお見受けして、たっての願いがあります。私の娘がまだこの世にいるのなら、どうか成仏させてやってくれませんか? 我々がここに縛られているのも、娘のせいなのだと思います」

「そのつもりでここに出向いたのだ。言われずともやるさ、貴方の許可が得られなくともな。だが言うからには協力をしてもらう」

「もちろんでございます」


 その後ランブレスは自ら執事と共に娘の部屋まで案内することに申し出た。執事とランブレスがまるで生前のように出かける支度を整える。そういった一連の行為は生前の記憶が強く作用することが多いので、黙ってラファティ達も見守ることにしたが、その合間にクルーダスがラファティを捕まえて質問した。


「あの霊の言うことを信じるのですか?」

「いや、そのつもりはない。だが打開策がないのも事実。それならばあえてここは相手の誘いに乗ってみるのも手だ」

「危険では?」

「もちろんだ。だがここは既に相手の『城』の中だ。どこにいても危険は変わらない。一つ気になることがあるとすれば、私はランブレスに『成仏』ではなく、『消滅』という手段を取ることになるだろうとは説明しなかったな。私も嫌な人間だな」


 ラファティの言い分に反論する術を持たぬクルーダスは黙ったが、いいようのない危機感はあった。だが霊が相手ではアルネリア付きのセンサーもあまり役には立たない。心音や発汗がわからない相手では、いまいち嘘も見抜けないからだ。リサがいたとしても、あまり変わるまいとラファティは思う。


「(不安はある。だが今は前に進むしかあるまい。この程度、罠ごと打ち破れなくてどうするか)」


 ラファティは不安を抱えながら、傍にいるクルーダス、ラーナと共にランブレスの後に続くのだった。



続く

次回投稿は、11/1(木)11:00です。連日投稿です。

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