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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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不帰(かえらず)の館、その15~死者の招待~

「分断されたか」

「いかがいたしますか」


 一方で中に入ったラファティ達は、鋼鉄の扉が落とされたことにより分断されたことに気が付いたが、どうやっても扉はびくともしなかった。もとより不思議な力で守られた館の壁はびくともせず、ラファティ達は先に進むしかない状態であることに気が付いたばかりであった。ラファティがあたりを見回すと、そこはバルコニーである。二階に続く階段と、右、左、正面に三つの廊下。二階への階段はさらに左右に分かれ、それぞれが二つに分岐していた。バルコニーには数々の絵画と活けた花が飾られ、さらに壁には多くの若い男性の彫刻が飛び出していたのである。

 周囲は薄暗く、突入前の晴天はどこへやらといった天候である。どうやら『城』の中は完全に異世界であるようだと、ラファティは書物で読んだ『城』の情報を身を持って体感している所である。彼の戦闘経験をもっても、『城』の中での戦闘は初めてであった。

 気分の晴れない曇天はますます光を遮断し、人間の気分を落ち込ませるように暗鬱たる雰囲気を醸し出すために貢献しているようにも見える。


「あまり良い趣味ではないな」


 彫刻の顔は見ようによっては苦悶の表情に見えなくもなく、お世辞にも気持ちの良い物ではない。それでもラファティは冷静である。中にいるのは主にラーナ、クルーダス、ミルトレ、マリオンといった顔ぶれに、部下の4割程度だった。ラファティはベリアーチェがいないことが少し気になったが、さしもの愛妻家である彼も任務中に私情は挟まない。

 ラファティは素早く現状を把握すると、冷静に指示を飛ばした。


「私を中心とし円陣を組め。外周はクルーダスとイアンに任せる」

「「はっ」」

「ラーナ殿、こちらへ」

「ええ」


 ラーナが安全地帯に呼ばれて、ラファティと話し合いを始める。


「分断された面々と合流はできませんか?」

「現時点ではなんとも。この扉を強引に開けたところで、元の場所につながっているとは限りません。ここは相手の結界内。結界の基盤となるのは現実の建物とはいえ、結界内は非現実。何が起きても不思議はないのですから」

「ではどうするのが最善だと?」

「私も『城』の中に踏み込むのは初めての経験です。私の知識も全て私の師匠から伝え聞いたものですが、『城』の中では相手にとって都合の良い展開がなされます。まずは的確な陣形を組み、ゆるゆると進むのがよろしかろうかと。罠があれば私ができる限り見破りますので、慎重に事を運びましょう」

「なるほど。ではそのように」

「隊長、そうも言ってはいられないようです」


 ラーナの言葉に納得しかけたラファティだったが、否定したのはクルーダスだった。彼は円陣の一番外周にいることで、何らかの危険を察知したようだった。彼は先にある三つの廊下の闇をじっと見つめると、そのうち一つから突如飛んできた何かを剣で叩き落とした。


「これは・・・果物ナイフか?」


 飛んできたのがクルーダスの方向だったからよかったようなものの、そうでなければ負傷者が出ていたかもしれない。クルーダスは素早く自分の手甲の中に仕込んだ匕首あいくちを闇に向かって投げつけると、闇からはぎゃっと叫ぶ声が聞こえたのだ。

 クルーダスは反射的に追撃に移ろうとするが、それをマリオンが止めた。


「駄目だ。行くな、クルーダス」

「だがしかし」

「そのような命令は出ていない。ここは専守防衛だ、そうでしょう隊長?」

「そうだ。まだこちらを脅かすほどの攻撃ではない。冷静になれ」

「む・・・」


 兄でもある隊長の言葉に、クルーダスは剣を構えつつも攻撃の気を鎮めた。そうして敵の殺気が消えたかと思うと、ちりーんという鈴の音の後に、闇からまさに幽鬼のごとく姿を現した者がいたのだ。その男は顔に無表情の仮面をつけ、さながら仮面舞踏会のように礼装に身をつつんでいた。場違いな者の出現だったが、騎士達の警戒は最大に上がっていた。

 再びクルーダスが問いかける。


「何者!」

「怪しい者ではございませぬ」


 見るからに怪しい者に堂々とそう言われて、クルーダスは逆にどう次の言葉を言うべきか悩んでしまった。

 仮面の男は続ける。


「私はこの館の主人、ランブレスの執事でございます。この度は私の主人めの遣いでまいりました」

「ランブレスの?」


 騎士達は顔を見合わせる。


「左様にございます。今のこの状況はわが主人も望んではおりませぬ。そしてこの状況を打開すべく時をうかがっておりました。今がその時ということで、私はここに来たのでございます」

「つまりは、我々に協力する、と?」

「おっしゃる通りでございます」


 執事を名乗る男は恭しく礼をしたが、ラファティは半信半疑であった。何よりランブレスはとうに死んでいるはずの男である。それは誰しもが同じことを考えたらしく、一様に横目でラファティの判断を待った。だが当のラファティとて判断材料があるわけではなく、ラーナにこれまた目線で意見を仰いだが、彼女はゆっくりと首を横に振るだけだった。ラーナにも確たることは何も言えないようだったのだ。

 ラファティは困惑しながらも、ランブレスの執事を名乗る者に質問した。


「用向きはわかった。その上でいくつか問いたい」

「どうぞ。ただし時間があまりありませぬ」

「時間がないと?」

「はい。そら、あちらの方から」


 執事が指さしたのは、廊下の一つ。執事が現れたのとは反対の廊下では、空間がぼやけていたのだった。その空間の歪みとでもいうべき部分は、徐々にラファティ達に近づいてきているように見える。



続く

次回投稿は、10/24(水)12:00です。

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