表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
555/2685

不帰(かえらず)の館、その7~行方不明になった調査員達~

 その前に、ミランダの作り上げた組織の話を少ししよう。ミランダの組織は既におおよその体系を作り上げている。アルフィリースが一から全てを作り上げる必要があったのに対し、ミランダは既に存在していた者達をかき集めて組織を編成した。そのため、ミランダの組織編成はアルフィリースに比べてはるかに楽であった。

 ただ、ミランダは口ではどうあれ、自分が組織の指導者であった場合にどうしたいか、という明確な構図を持っていたのだ。巡礼の任務に就いてから百年以上。その間、「ああすればよかった」「こうであればもっと上手くいくのに」と考えたことは一度や二度ではない。ミランダが作り上げた組織はそういった鬱積の積み上げを解消できるように組織された。

 これらの試みはもちろん巡礼の者達に快諾された。彼らもまたミランダと同様の不平、不満を持ったことがあるのだ。ミランダは彼らの理想を体現できるだけの資質を備えた指導者であった、と言ってもよいだろう。

 ミランダがまず行ったことは、自分の直の戦力となる巡礼の上位構成員の戦力把握であった。最初はミランダとしてもそこまで頼りにするつもりはなかったのだが、彼らの戦闘能力を知るにつけて、ミランダは恐ろしいと思うようになっていた。確かに巡礼としての業績は自分が上でも、戦闘能力は自分と比較にならないほど高い者達もいたのだ。ミランダが篩にかけたあの場で、彼らが強硬手段に出なくて本当によかったと思えるほどには。改めてあの場の行動はやはり賭けであったのだなと、ミランダは痛感していた。

 そしてミランダは現時点で使えると判断した者達以外の巡礼を、主たる人員の後方援護をさせることにした。雑用なども含め、手足となる人間達は必要だ。アルネリアの中にいる教団員達からも選出はされたが、周辺地方に派遣されている人間達からも使えそうな者達を選び、ここ白樹宮へと集めた。その数はおよそ千人。最終的にはまだまだ増えるだろうが、初期の人員としては十分すぎる程だった。

 彼らを使ってミランダが最初に始めたことは、周辺地域の情報収集。まずはアルネリアという組織全体を見直し、誰がミリアザールに対して反乱を企てているのかをあぶりだすつもりだった。黒の魔術士達に対抗しようにも、足元がおぼつかなければ抵抗もままならない。黒の魔術士達を含めた周辺諸国といった外部の対抗策はミリアザールが主に練っているであろうから、ミランダはまずアルネリアの周りから地固めをすることにしたのだ。もちろん、アルフィリースにとって有益になりそうな情報を得ることも忘れてはいない。


 その過程で、ミランダは一つの報告を得た。アルネリアから東に馬で10日ほど。かなりアルネリアに近く、またアルネリアの所有地に隣接した国であるパリオという国で、何名かの調査員が行方不明になったのだ。

 行方不明になった人員には特殊な調査を命じていない。ミランダは小さな町、村、集落まで含めて人員を派遣し、何か最近変化がないかを調べさせていただけだった。事件が起こったのはグリンドというほどほどに小さな町であった。人口が3000人程度のその町で、調査員6名は行方をくらました。

 その後、当然のようにさらに優秀な調査員が派遣された。今度は何が起こったのかを詳細に調べるように命じたが、返答は呆気ないほどに簡単に帰ってきた。以前訪れた調査員達は、全員がとある屋敷で消えたのだと。

 二回目に派遣された調査員達は町はずれにある、その屋敷の調査を開始した。元々は町の名士であった男が所有していた屋敷は、もう150年も前に打ち捨てられたままなのだと。その屋敷で何が起こったのかを調べるのにはまだ時間がかかりそうだということだったが、噂だけはまことしやかに町人に伝えられていた。その屋敷は、『不帰かえらずの館』と呼ばれているのだと。

 そして、やはりその屋敷に潜入した調査員達は、帰ってこなかった。


 事態は重く見られた。二回目の調査員は人数を分割して潜入したため、町に残った者達は当然無事であるはずだった。だが、彼らもまた宿から姿が消えたことが判明したのだ。アルネリアに連絡を寄越してきたのは、驚いた町人達だったのである。彼らはもう長いこと誰もその館に忍び込もうとしなかったため、まさか本当にアルネリアの人間達が行方不明になるとは、夢にも思ってもいなかったのと説明した。

 ミランダが見ているのは、まさにその案件についての報告書だった。いなくなったのは合計14名。立ちあげたばかりの新部署にとって、大きな損失であることは否めなかった。ミランダは報告書に目を通す。そこには『不帰かえらずの館』について、現時点でわかったことが羅列してあった。


その1、屋敷の所有者はランブレスと呼ばれた地元の名士。爵位は持っていなかったが、多数の小作人を抱え、積極的に町周辺の開発、開墾を行い住民たちの信頼を得た。敷地面積幅120m、奥行き200m、6階建てかつ全7棟にも及ぶ城のごとき大豪邸は、住民達が彼への感謝の念を込めて建てたものだとされる。


その2、ランブレスの一族は全員が死んでいる。彼には兄弟、妻と子供を含めて親族だけで20名を超える者達が住んでいたらしいが、同時期に全員が死んでいる。また彼が屋敷に住まわせていた使用人たち数十名も、同様に死んだという話であった。


その3、ランブレスの一族が死亡してから、屋敷には奇妙な噂が流れた。ランブレスの持ち物を横取りしようと屋敷に入った泥棒まがいの者が何人かいたが、誰も帰ってこなかった。また建物を取り壊そうとしても同様であり、責任者達は次々に悲惨な死に方をした。そして今現在誰もがあの屋敷に近づかない。


その4、生存者が一人だけ見つかった。10年前、友人6人とその屋敷でかくれんぼをし、ただ一人生き延びた子供であった。今もなおその子は生きているが、既に気が触れており話の要領を得ない。記憶を引き出すことのできる術者を求む。


 ミランダはその報告書をしまうと、楓に主たる人員を集めるように指示した。ただの屋敷ではない。対策を始めるのはもちろんだが、普通なら浄化の対象となるべきものが、なぜこれほど長期間に渡って放置されているのかミランダは調べねばならなかった。町人達そのものの信頼できるかどうかもわからない。

 ミランダにとって、初めての大きな案件になる予感がしていたのである。



続く

次回投稿は、10/8(月)13:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ