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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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不帰(かえらず)の館、その3~決意の言葉~

「見るのだけならばもう見ておる。後は本人の意思次第よな?」

「は、いかようにでも」

「話が見えない。何のことだよ?」


 ジェイクはたまりかねて言葉を発した。ミリアザールが頭を下げるような状況に、我慢が出来なかったのだ。そして不気味なシュテルヴェーゼの圧力にも、耐え難かった。

 シュテルヴェーゼはジェイクを見据えると、ただじっと一直線に見据えながら声を発した。


「童よ、妾の質問に答えよ。口応えは許さぬ」

「・・・」


 ジェイクは黙って聞いていた。余計なひと言は無用と、本能で察したのである。


「童、貴様の人生において何を望む?」

「・・・最強の騎士となること」

「何のために?」

「大切な人を守るために!」


 ジェイクの声は力強かった。シュテルヴェーゼの持つ圧力をはねのけるために出したような声でもある。その返事を聞いて、シュテルヴェーゼは表情を変えず、そしてミリアザールは少し悲しそうな表情になった。

 やがてシュテルヴェーゼは一つため息をつくと、ジェイクに向けて語りだした。


「童よ、最強になると言うは簡単なことぞ。どれほどの覚悟で臨むのか」

「俺は大陸最強の騎士になるためなら何でもするつもりだ。どんな苦境や試練にも耐えて見せる!」

「よかろう。しかとその言葉、忘れるな。今から貴様を試す。命を懸ける覚悟はあるか?」

「当然!」


 ジェイクは何の躊躇いもなく言い放った。最強の騎士という言葉を口にするたび、力が湧く気がする。そんなジェイクをミリアザールは少し悲しそうに後ろから見つめ、だが何も口はださなかった。

 シュテルヴェーゼはゆっくりとその身を起こすと、自然体のままジェイクと対峙した。対してジェイクは剣の柄に手をかけ、今にも抜かんばかりの構えである。

 二人の間の空気がぴんと張り詰め前に、シュテルヴェーゼが口を開いた。


「童よ、一つ教えておこう。かつてお前の横にいるミリアザールも、お前と同じ目標を口にした。この大陸で最強の存在になりたいとな。だがそれは叶わなかった。千年を生き、数々の試練と苦境を乗り越えた彼女でさえな。理由がわかるか?」

「・・・あんたがいるからだ」


 ジェイクは意識して答えたわけではない。だが明確に、その理由は分かっている。ミリアザールはジェイクの答えにはっとして顔を上げた。

 ジェイクはなおも続ける。まるで自分のものではないみたいに、その口が動くのだ。


「あんたは強い。アルベルトよりも、ミリアザールよりもきっとそうだ。俺にはどのくらい強いのかまだわからないけど、きっとそうなんだ」

「・・・左様、妾は強い。どのくらい強いかというと、おそらくこの大陸では最強の生き物だ」


 シュテルヴェーゼが自らをあおいでいた扇子をしまう。その直後、彼女から徐々に抑えてられていた圧力が漏れ出し始めていた。


「多くの者が大陸最強を願い、そしてその夢が適わない場面を妾は何度も見てきた。ミリアザールの場合その限りではないがな。だがこの大陸で最強となるということは、妾を超えるということ。その覚悟があるか?」

「・・・それが必要なら、やってやるさ」


 今まさに抑えていたシュテルヴェーゼの圧力に膝が笑っていても、ジェイクの信念は一部たりとも動かなかった。ジェイクの覚悟を見届けると、シュテルヴェーゼ一度目を瞑った。


「その言葉しかと覚えておけ・・・ならば、こんなことで死んでくれるなよ!?」


 その瞬間、シュテルヴェーゼが抑えていた殺気を全て放ったのだった。隠し部屋の中に一瞬にして嵐が出現したようにすべての空気が吹き飛び、まるで真空状態のようにジェイクは肺に吸う空気を奪われた。ミリアザールでさえその場に片膝をついたのだが、果たしてジェイクは微動だにせず立ったまま耐えていた。

 そしてほんの一瞬の後、シュテルヴェーゼの表情は穏やかになっていた。ジェイクの方はいまだ剣の柄に手をかけたままだったが、長らくの時をかけてその手を徐々にほどいていった。そして手を剣から放しきったところで、ジェイクは大量の汗をかきながら気絶したのだった。

 倒れ伏すジェイクをミリアザールが受けとめ、介抱する。


「最後まで抜かなんだか・・・抜けば収まらぬことを知っての行動。見どころのある童よ。引き際、戦い際をこの年にして心得るか」

「シュテルヴェーゼ様、この場で試すとはやりすぎではありませんか? あなたの殺気にあてられれば、並みの人間では死んでしまいますよ?」

「何、これしき。その童が口にした願望よりは、余程優しき出来事よな」


 シュテルヴェーゼは扇子を広げるようにして、口元を隠しながら語った。


「ではジェイクにはそれだけの才能があると?」

「ある。部屋に入るなり見せた反応がその証拠であろう。確かにこの童は大陸最強の騎士となるだけの資質を備えておる。妾を超えることも、もしかしたらあるやもな。その可能性があるからこそ、お主もここに少年を連れてきたのであろうが?」

「そこまでとは考えてはいませんでしたが・・・ですが、真竜である貴方を超えるなど・・・」

「真竜とて生き物よ。殺すことはできる。どんな強大なものでも、一見不死身に思える者でもな。この世に存在するからには、いずれ滅びるが定め。どんな生き物でも逃れることはできん。そういった意味で、どんな生き物でも最強たる資格はあるのだよ。ただそこに至るためには、資質と、覚悟と、運の全てが必要になる。

 この童は資質と覚悟は備えておった。またそなたに出会ったこと、いや、その前にリサなる少女に出会ったことでこの少年は運も得ておる。後は歩む道だけじゃったが、この童は今ここで自らの進む道を決めた――非情、という言葉で一括りにできぬほど困難を伴うことは間違いないがな」


 シュテルヴェーゼは気絶したジェイクの額にはりつく前髪をどかしながら語った。その仕草には慈愛が見て取れる。同時に瞳は憐みが浮かんでいた。



続く

次回投稿は、9/30(日)13:00です。日曜ですが、投稿はいつも通りの時間です。

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