表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
549/2685

不帰(かえらず)の館、その1~昇格~

***


 聖都アルネリアの時間は穏やかに流れていた。行き交う人々の顔には笑顔があり、また市は今日も賑わいを見せていた。その賑わいは中央街道のそれには及ばないものの、遠方から来た商人達は我先にと自慢の商品を掲げて商売をしていた。道行く人々に声がかけられ、見知らぬ者同士も楽しそうに会話をする。そんな普段通りの、またここにアルネリアが誕生してから変わらぬ光景がそこにあった。

 世界一平和な都市――それがアルネリアの世間的な評価であり、また事実でもあった。大陸最強の騎士団の一つ神殿騎士団を背景に、その周辺の騎士団が警備をし、アルネリアの僧侶、シスター達が癒しを施す堅固な城壁に守られた都市は、確かに大陸で最も安全な都市であったろう。

 大戦期より多くの戦いに疲れた者達がこの都市を訪れ、また力を蓄えて外の世界に飛び出していった。また大陸最初のれっきとした教育機関であるグローリアを持つアルネリアからは多数の優秀な人材が輩出され、彼らはまた諸国の貴族でもあることが多く、アルネリアは東の諸国において強い発言権を持っていた。

 世の中が安全になるにつれ避難場所としてのアルネリアの意義は薄れ、また学問の都メイヤーなどの諸都市も発達したことから一時期ほどの隆盛は誇っていないものの、やはりアルネリアが聖都であることには変わりがなかった。

 だがそのアルネリアにも少しずつ不穏な影は忍び寄っていた。ドゥームの襲来はいかに情報統制をしようとも町人に噂されるところとなり、形のない噂として流布されていた。その噂を流布し不安を煽る者がアルネリアに潜んでいることを、まだ誰も気がついてはいない。また町の警備が最近前にもまして厳しくなったことは、街の住人だけでなく世間的にも知れるところになっている。

 まだ誰も口にこそ出さないものの、少しずつ、だが確実に不安を感じる心は波紋のように広がっているのだった。


 そんな中、明るい知らせも最近もたらされた。魔獣討伐や数々の任務で出撃していた兵士達が続々と帰還していたのだ。彼らはほとんど被害を出さず、また戦果は大きかった。連日届けられる吉報に、街の住人達はアルネリアの健在ぶりを喜ぶのだった。

 そして帰還する中にはもちろんジェイクも含まれていた。クルムスでの任務を無事成し遂げ帰還したジェイクは、もはやいつも通りの生活に戻っている。以前と違うことと言えば、彼は今回の戦功を持って、正規の神殿騎士に昇格したのである。ただし、扱いはまだ従騎士という騎士見習いだったのだが。

 ただ従騎士とはいえ正規の神殿騎士団に選抜されたジェイクは、もはや周辺騎士団の雑用は行っていない。朝から晩まで神殿騎士団の中で、騎士としての訓練を受けているのである。馬術、武術、騎士としての心構え、そして神聖魔術まで。グローリアでも多くの友人に囲まれるジェイクの日々は充実していた。学問が相変わらず苦手なことを除けば、だが。

 なお本日はミリアザールが帰還する日となっている。ジェイクが帰還した時にはミリアザール自身がアルネリアを空けていたため、簡単な報告書だけをまとめ上げてそのままであった。ミリアザールからの連絡では、自分の帰還に合わせてもう一度直接報告をするようにとのことだったのだ。ジェイクももちろん了解してはいるが、彼は日中にミリアザールに呼び出されたのである。

 ジェイクにはグローリアで授業の最中だったが、既に騎士であるジェイクには騎士としての任務の方が優先される。それでも日中は学問や日常を大切にするようにとのミリアザールの配慮で呼び出されることのないジェイクだが、それゆえに一大事なのかとジェイクは気持ちを引き締めてミリアザールの元に向かったのだった。

 そしてジェイクが向かったミリアザールの私室では、遠征の疲れも見せずミリアザールが書類仕事を片付けていた。いつもなら不平不満を言うはずの彼女が猛烈な勢いで仕事をしているのを見て、ジェイクもまた軽口を叩くのをやめた。彼は部屋に入るなり騎士として頭を垂れて、ただミリアザールの言葉を待ったのである。



続く

今回は短めです。次回投稿は、9/26(水)13;00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ