獣人の国で、その7~因縁~
「アムール、いつ戻ったんだ」
「たった今よ、ロッハちゃん。ヴァーゴちゃんもリュンカちゃんも元気そうね」
「テメェ、その気色悪い言葉遣いは直らねぇのか? 俺を『ちゃん』付けで呼ぶなと言ったろう」
「ごめんねぇ、ヴァーゴ『ちゃん』」
アムールが特に『ちゃん』を強調して言ったので、ヴァーゴは心底苛々したようである。そんな彼らのやりとりを、リュンカという女の獣人は非常に冷静な目で見ていた。
「そんなことはどうでもいいが、王への報告は終わったのか?」
「今からよぉ。一緒に聞きたい?」
「いらん。どうせお前と王の間の話は、我々には関係ないことが多いからな」
「今回仕入れたネタには、リュンカちゃんに関係あることもあるんだけどねぇ?」
アムールの意味深な言葉に、リュンカの耳がぴくりと反応する。
「・・・ミレイユのことか? まさか、居所がわかったのか?」
「居所じゃないけど、おおよその見当はついたわ。どうする、聞きたい?」
「無論だ!」
その瞬間、リュンカの前身の毛が逆立っていた。冷静に見えた彼女だが、その激情はやはり戦士のそれなのか。
ニアはリュンカを冷静な獣将として考えていた。彼女は獣将の中で唯一の女性であり、ニアにとっても目標とすべき軍人であった。その彼女が取り乱すなど、およそ初めて見たのである。ミレイユという名前にはニアも聞いたことがあるような気がしたが、どこで聞いたかは思い出せない。
そのリュンカの肩をロッハがぽんと叩き、彼女を宥めた。
「リュンカ。お前の気持ちはわかるが、あまり声を荒げるな。お前一人が背負うような問題でもあるまい」
「・・・それはそうだが」
「ならその辺にしておけ。ヴァーゴがビビッているだろう」
「誰がビビッてるってぇ?」
ヴァーゴが吠えたが、誰かが何かを言う前にカザスがくすりと笑ったので、そちらの方をヴァーゴは咎めた。
「おい小僧、何がおかしい?」
「これは失礼。天下に名高い獣将が、これほど楽しい方の集まりだったとは。あ、決して馬鹿にしているわけではありません。純粋な感想ですよ」
「ほーう? 俺達を前にそんな口をきくとは、根性だけは一流だな。見た目とはえらい違いだ」
「どうにも私はちんちくりんに見られますが、これでも護身術程度は身につけているので、その辺の町人よりはよっぽど強いんですけどね」
カザスも人並みに見えや男の意地はあるとみえて少しだけ反論したが、口をとがらせるあたりがまだまだ子供のような仕草といったところか。アムールに肩をたたかれ促されるように彼らは先に進んだ。そんなカザスをどことなくヴァーゴは興味深い目つきで見ていた。
アムールの行動は王によって擁護されたものであることは獣将の間では共通認識であり、彼の行動については深く追求しないことになっている。もちろんアムールが人間を連れていようが、何も問われることはない。だが獣将達の興味を引いたことは確かであった。なぜなら、アムールはグルーザルドの利益にならないことは決してしない獣人だからである。
アムールがカザスを案内したのは、一際大きな部屋だった。天井も高く、また削りだされた柱には細工や文様が施してあり、カザスはそこが特別な間だと気が付いたのだった。ニアは一礼をして部屋の外で待機しようとしたが、アムールの意向で部屋の中に入るように指示された。
彼らが見たのは、二段ほど段になったその上に腰かける獣人だった。その毛並は金。一際優雅でかつ、その威容を発している獣人を見てカザスは呆然と立ち尽くした。傍ではアムールとニアが膝をついている。
「ただいま帰りました、王よ」
「獣人のニア、拝謁の栄誉に賜りましてございます」
「ああ」
丁寧な二人の礼に対し、ドライアンはぶっきらぼうに返した。彼は玉座ではなく階段の上に座っており、なんと読書に耽っていたのである。
続く
今回短くてすみません。次回投稿は9/17(月)14:00です。