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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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復讐者達、その9~護衛任務①~


***


 アルフィリース達がミューゼ女王陛下の護衛に向かったのは、三日後の事である。女王陛下は影武者を残し城を後にした。フィネガン公爵の別荘を訪れるためである。

 貴族はほぼその全てがベグラードの王宮近辺に住むこの国であり、当然フィネガン公爵の私邸もこの王宮の最も近い場所にある。だがフィネガン公爵は病気の静養を理由に離れた静養地へと移っていた。だがこの日からベグラード近くの別邸に戻ってきているとの連絡があったのだ。当然この機を逃さずミューゼは行動に出た。静養地までは馬車などで進めば下手をすると一月もかからんばかりの距離だったが、別邸までなら馬を飛ばして片道一日の距離である。説得に一日かけても、三日あれば戻ってこれる。

 アルフィリース達は指定された場所まで移動すると、そこにはローブに身を包んだ数名の人物が馬に乗っていた。アルフィリース達はその者達の前まで進み出ると、問いかける。


「約束通り来たわ。それで、肝心のミューゼ王女はどこかしら?」

「ここにいますわ」


 一人がローブをはずすと、その下には確かにミューゼ王女の顔があった。王女は豊かな髪を結いあげ止め、また身には甲冑を付けてまるで戦装束のような格好をしていたのだった。

 王女が自ら馬に乗るとは思っていなかったアルフィリース達は、ミューゼの予想外の行動に驚いた。


「王女、馬車は?」

「そんなものを使ったら目立ってしょうがないでしょう? それに足も遅くなります。私がその昔、やんちゃをしていた話は聞いていらっしゃらない?」

「あ、いえ。そのような」


 アルフィリースは慌てて言い訳をしたが、ミューゼはくすりと笑うだけだった。


「私は直接武器を取って戦うようなものではありませんが、馬も使えない女ではなくてよ? 貴女達ほど慣れていないかもしれないけど、ここから目的地まで一日で駆け通すくらいはできます。どうかお気遣いなさらず」

「いや、気遣うなという方が無理なような」


 アルフィリースの言い訳もそこそこに、ミューゼは自ら馬を出発させてしまった。その姿は鮮やかであり、馬を扱うのがそれほど熟達していると言えるような手綱さばきではないものの、それでも絵になるのはなぜだろうかとアルフィリースは考えていた。高貴な者は何をしても違うのか、それともミューゼが特別なのか。

 目的地について庭で案内役を務めた女騎士ラーレは今回も同行している。彼女が簡易に段取りを説明すると、アルフィリース達もミューゼに続く。ラーレはやはり事務的に今回の依頼について説明と確認をすると、これまた前回と同様に口を閉ざしてしまった。無愛想な女性だとアルフィリースは考えるが、元来騎士や貴族とはこのような態度が当たり前だとも思っていた。

 そんなアルフィリースの心中を察してか、ミューゼが話しかけてくる。


「ごめんなさいね。ラーレは今回の依頼に反対だったの。私の安全が保障できないってね」

「それは私も同意見です。私が彼女の立場なら、同じことを言います」

「あらあら、手厳しいのね。でも怒っている理由はそれだけじゃないのよ」

「ええ。私達傭兵が同行しているからでしょう?」


 アルフィリースは特に表情を変えずに言った。別段アルフィリース自身が傭兵と貴族の間に差別が存在することを何とも思っていなかったし、そういった意識の違いは当然この世界にかくあるものとして知っている。アルフィリースはそういった意識の違い、差別とも呼ばれるものについて納得はしていなかったが、同時に存在を受け入れがたいものとして認容していないわけでもなかった。

 そのアルフィリースを見てミューゼはどう思ったのか。特にアルフィリースの言葉を否定するわけでもなかった。


「ええ、そうね。彼女は貴族意識の強い家柄の出身だわ。本人もとても立派な子だし、自慢の部下の一人よ。別段平民に対する差別というより、この場で傭兵の力を借りねばならない自分に対する不甲斐なさに怒っているのだと思うわ。どうか仲良くしてあげてね?」

「仲良くするも何も、依頼に対しては全力を尽くす。ただそれだけです。こう見えて、私も依頼に対する誇りはあります。受けた仕事はきちんとやり遂げます。条件はともかく提示された報酬は十分ですし、必要とあらば協力は惜しみません。向こうにその気があれば、の話ですが」

「まあ、頼もしいのね」


 ミューゼはアルフィリースの言葉をどれほど真摯に受け取ったかはわからないが、それ以上は何も言わずに再び馬を走らせた。

 そうしてアルフィリース一行は馬を走らせる。リサが最大限に警戒し、ラインとラーレが先頭を務め、アルフィリースとエクラはミューゼの傍を走っていた。殿はヴェンである。ラキアは同行していないが、万一に備えて上空に待機しているそうだった。それにルナティカもどこかに隠れるようにしてついてきているのだろう。馬と同速で走れる彼女である。移動に馬を必要としないという強みがあった。

 加えて。


「(おそらくいるのよね・・・ライフレス。気配は相変わらず感じないけど)」


 アルフィリースは自分の監視をしているはずの者の事を考えながら、馬を走らせるのだった。



続く

次回投稿は、8/21(火)15:00です。

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