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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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復讐者達、その8~人心操作~

「ラーナ、一つ聞いておきたいんだがな、暗黒魔術ってのは何らかの代償を捧げるんじゃないのか?」

「ええ、おそらくはミューゼ女王陛下が身に着けていた宝石が魔術の代償でしょう。何度か使用するうちに、宝石は寿命を迎え、壊れるはずです。そういった類の魔術はありますね。確か宝石魔術とか言いますが、何を触媒に使うかだけの話なので、なんだったらその辺のグラスを使うこともできます。宝石のような多面体により、多くの魔力を充填しやすいのは事実ですが」

「なるほど。どうやればミューゼ王女の魔術を防げる? アルフィリースだけならともかく、俺達まで丸ごと女王陛下の言いなりになるようじゃどうしようもないからな」

「私がいればおそらくは防げます。だからこそアルフィリースは私を呼んだのでしょうから。今回の会食の結果、なんとなく嫌な予感がすることを彼女も感じていたのでしょう。自分が操られても、私がいればなんとかなると踏んだのではないでしょうか。

 それに洗脳の魔術など定期的に施していない限り、どれほど高位の魔術士でも解けてしまします。今回の依頼が終われば何の問題もないでしょう。ですが気を付けるべきは、王女の言葉かと」

「言葉?」


 ラインはラーナの言葉の意味が分からず聞き返す。


「言葉って、例えば?」

「そうですね。呪言使いなる者がいるように、言葉というものは元来口にするだけで魔力を持ちます。これは魔術の経験のない一般人でも同じく、だれかと口約束をすれば、それらを反故にすることに罪悪感を感じます。

 同じことを魔術士が行うと、約束を強制的に履行する、約束が破れると何らかの代償を捧げることになるなど、強制力が非常に強くなります。問題はどのような形で仕掛けるか。魔術の心得のある者同士だと、気づけば意識的に聞かないようにすることもできる。所詮は聴覚による縛りですので。わかりさえすれば、どうとでもできるのです」

「だが、アルフィリースは気が付かなかった」

「ええ。おそらくは言葉遊びのように、会話の中に混ぜたのでしょう。会話がかみ合わないと言っていました。アルフィリースの言葉尻をとって魔術に乗せたか、あるいは自分の言葉の中に隠したか。例えば言葉の最初を意図的に強調し、そこだけを頭の中に残します。このように」


 ラーナは手の中から突然粉を地面に巻き始めた。ラインはびっくりしたが、ラーナが粉を落とし終わると、思わずラーナの方を見たのだ。

 そのラインを見て、ラーナはにっこりとほほ笑んだ。


「どうです?」

「どうですって、何が?」

「今、貴方の意識は私の手と、そして粉を落とし終えた直後に反射的に私を見た。違いますか?」

「それはそうだが。だからどうした?」

「これは視線誘導ですが、同じようにして言葉を誘導することもできるでしょう。現に貴方は既に私の魔術にかかっています」

「んだと?」


 ラーナの言葉と同時にその姿がゆらりと揺れると、突如としてその姿がラインの横に出現した。ラインが驚いて飛びずさる。


「今――何を?」

「貴方の視線が集中することを利用して魔術をかけました。どうです、わからないでしょう?」

「う・・・確かに」


 ラインの背筋に冷や汗が一筋流れた。ラーナの笑顔は変わらなかったが、ラインは改めて魔術士の恐怖を感じた。知り合いに魔術士がいないわけでもないが、ラーナはやはり魔女に指導を受けた者なのだ。普通の魔術士よりは相当に使い手として上なのである。


「このように視線の誘導は簡単ですが、言葉の誘導は中々に難しい。ですので、やはり自分の言葉に混ぜたのでしょうね」

「そうか、そんなことができるのか」

「とっても簡単です。別にどうということではありません」


 その直後、ラインは一瞬意識がくらりとしたかと思うと、その場で地を蹴って飛んでいた。自分の行動が分からず、呆然とするライン。


「今のは・・・なんだ?」

「こういうことです。私の言葉、文の頭の言葉を思い出してつなげてください」

「と・・・べ?」


 ラインははっとした。ラーナは再びほほ笑む。


「他人の行動を制御するのは非常に難しい。ですので、私はまず貴方に視線誘導を使って簡単な暗示をかけ、その後言葉を用いた魔術を使用しました。二段階あっての魔術の使用です。それをミューゼ女王は自分の庭を使って行っているのでしょうね。庭そのものが第一段階。そうなれば、もはやあとは言葉を発するだけ。大方、『私の言うことを聞け』とでも言ったのでしょう。ですからアルフィリースの返事はしょうがないともいえます」

「わかった・・・わかったから俺の魔術は解いておいてくれよ? 今後もお前に意味もなく言うことを聞かされちゃかなわん」

「あら、面白かったのに。残念です」


 ラーナは心底残念そうに、ぱちんと指を鳴らした。するとラインの頭の中はすっきりとし、なんとなく気だるいような重みも消えた。

 ラインは今さながら、ラーナが味方でよかったと思うのであった。



続く

次回投稿は、8/19(日)15:00です。

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