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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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復讐者達、その7~魔術使いの王女~

「随分とあっさり認めたものです。臣下として、不忠になるのでは?」

「確かに言葉面だけとればな。だが忠義とは主の意のままに動くことだけが忠義ではない。私は確かにミューゼ女王陛下に忠誠を誓っているが、同時に彼女の友人でもある。私は友人としても彼女の幸せと平穏を願っているのだ」

「言っている意味が抽象的すぎてわかりません。もっと具体的にどうぞ」

「そうだな。一言でいうと、ミューゼ女王陛下は寂しい方なのだ。それとは別に、彼女がアルドリュースと恋仲であった話は以前したな? 魔術はその時アルドリュースに手ほどきをうけたものだ。もちろん彼女の魔術士としての才能はそこまででもない。だがあのお方は非常に賢く勤勉であった。独学で研鑽を積み、かなりの種類の魔術を収めた。だがその方向性はかなり偏っている。その特性とは――」

「人心操作、ですね」


 ラーナの言葉にハウゼンは頷いた。


「その通りだ。ミューゼ女王陛下は元々人気のある方ではあったが、それと指導者として信頼されるかは全く別物だ。先王が死に、彼女が王位に就くにつけ、未婚の女性が王位に就くことに反対がなかったわけではない。だが彼女はそれらの反対意見を、魔術をもって押さえつけた。一人ずつ会食に呼び、説得という形で彼らに洗脳を施した。彼女の衣装、庭の作りは魔術効果を高めるためにミューゼ女王が自ら設計されたものだ」

「なるほど、今回の会食もその一つだと。魔術の知識を持つアルフィリースが違和感を覚えるのも納得がいきます。できれば気が付いてほしいところでしたが」

「う・・・ごめんなさい」


 ラーナの非難に、アルフィリースは軽く肩をすくめた。ハウゼン続けた。


「しょうがあるまい。ミューゼ女王陛下はかなりその類の魔術については詳しい。どの程度詳しいか一度王宮の魔術士達が気付くかどうか試してみたが、誰も疑いもしなかった。王宮お抱えの魔術士がどれほど優秀かはわからんが、ミューゼ女王の庭もそれだけ特殊な構造をしているのだろう」

「なるほど。まさに結界、もしくは城といった構造になっているのですね。ひょっとして、他国との会談までもあの女王宮で行うのでは?」

「状況によっては」


 ハウゼンの言葉にエクラが叫んだ。


「馬鹿な! それでは我々は魔術の力によって国政を行っているのですか? そんなのは邪道だ! 父上も知っておきながら――」

「政治とは正義感だけで行えるものではない、エクラよ。お前はまっすぐに育ったからまだわからないだろうが、我々はアルドリュースに頼りすぎたせいで、彼が抜けた後に失策を重ねていた。お前が生まれる前後の時期では国政が傾きかけたこともある。

 それに大なり小なり、他国も何らかの魔術を行っていることだ。むろん、お前達の団でもそうだろうな」

「確かに、そうかもしれませんが」


 エクラはそこまで言って口をつぐんだ。代わりにアルフィリースが口を開く。


「でも私がその会食に向かうことをハウゼン宰相は止めなかったわね。どういうつもりかしら? 以前貴方は私の協力者でありたいというような言葉を発したように思うのだけども?」

「だが結果として大事にはなっていない。私はアルドリュースの友人でもある君をできる限り援助すると約束したが、同時にイーディオドの宰相であり、またミューゼ殿下の友人でもあるのだよ。君がエクラをもし部下にしていなければ、私が今日ここに君の様子を見に来ることもなかったろう。

 それに話を聞けば、今度は女王の護衛をするそうだな。以前君は私に対する交換条件として、女王陛下の護衛を提案した。君としても望んだ展開の一つではないのかね?」

「うーん・・・普通ならそうだけど・・・」


 アルフィリースは以前見た夢を思い出していた。ミューゼとこれ以上関わることに、妙な不安を覚えていることに変わりはない。

 明確な返事ができないアルフィリースに代わり、今度はラインが質問する。


「護衛の話、どのくらい信憑性がある?」

「確かにミューゼ殿下の叔父であるフィネガン公爵と、その息子であるベンメル殿と女王は非常に不仲だ。最近では王宮に滅多に姿を見せていない。だが彼らは非常に有能な将軍でもある。今度の援軍にて、彼らが大将として選出されるのは非常に妥当な選択だ。ダレイドル公爵はフィネガン公爵の弟でもあるしな。フィネガン公爵ならばダレイドル公爵も言うことを聞かざるをえまい。

 だが会議は揉めた。女王に対して責任を果たさぬ者を援軍の大将とすることにな。若い将軍達は自らの手柄を立てたい。出陣の機会を逃したくはないのだ。ゆえに議論の方向としては、強引に若手の将軍達が援軍として名乗りをあげそうになっているのだ」

「なるほど、そんな状況なら多少説得力があるな。わざわざ女王が説得に向かうとのことだったが、議論にはっきりとした結論が出る前に、フィネガン公爵が名乗りを上げちまえば誰もが黙らざるをえない。女王と公爵が一致団結すれば、そうそう逆らえる者はいないものな。宰相もこの案に賛成なんだろ?」

「一応は。最悪私の出陣も考えたが、私はダレイドル公爵には嫌われていてな。私が行っては、前線はまとまらぬだろう」

「気苦労が絶えませんね、宰相も」


 リサの言葉に、ハウゼンは少し困ったように笑顔で答えた。


「宰相とはそのようなものだと諦めているよ。もしこんなに大変な職業だと知っていれば、私も宰相にはなっていなかったかもね」

「するまじきは宮仕え、ですね。さて、問題の依頼ですが、今更口にした言葉は消せないでしょう。聞けば既に契約書もあるとか。不本意とはいえこの依頼を受けざるをえない以上、あとはどうやって上手くこなすかです。早速情報収集を始めますが、女王相手に弓や剣を向けそうな連中に対して、心当たりを宰相には話してもらいたいのですが」

「いいだろう。私としてもこのような展開になった以上、全てを丸く収めるには依頼を完璧にこなすことだと考えている。エクラを守るためにも、情報提供は惜しまないよ」

「では別の部屋で話し合いましょう。あまりおおっぴらに話あえることではないでしょうから。よろしいですね、アルフィリース?」


 リサが許可を求めるようにアルフィリースの方を見たが、アルフィリースは別の事を考えていたのか返事はなかった。だがまず情報を収集し、その内容をまとめて提出するのはリサの仕事なので、アルフィリースの返事を待たずリサはハウゼンとルナティカを伴って部屋を出た。アルフィリースが返事もしないほど没頭する思考を妨げるのは、あまり得策とはいえないからだ。

 そしてそれぞれが部屋を出た後、ラインとラーナは部屋に残った。ラキアも部屋の壁にもたれかかるようにして立っている。もっとも、ここはアルフィリースと共有の部屋なので、ラキアに出ていく理由はなかったのだ。

 アルフィリースは相変わらず考え事をしていたが、ラインがラーナに話しかけた。



続く

次回投稿は、8/17(金)16:00です。

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