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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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魔女の団欒、その12~因縁~

「・・・あたしたちをどうするつもり?」

「殺しはしない。だけど、ちょっとした出来事に付き合ってもらおうかな。きっと、とても面白い展開になるよ」

「は、どうせろくでもない事しか考えていないのでしょう?」

「まあその通りだ。きっと君は気に入らないだろうし、僕にとっての良いは、キミ達にとっては悪い、だろうからねぇ。ただ面白いことになるのだけは間違いない。きっと世界はもっと混沌とするんだ。そう、オーランゼブルの思い通りになんて、させるものか」


 ドゥームはくっと笑うと、ドゥームの言葉の意味をつかみかねるフェアトゥーセを放置し、転移の影響範囲の外に出た。転移が発動する直前、ドゥームはアノーマリーを見る。


「そういえばアノーマリー、一つ聞きたいんだけど。これだけ多くの魔王、ヘカトンケイルをどうやってここまで運んだんだ? ブラディマリアやライフレスでも一時には無理だと思うんだけど」

「それは企業秘密ってやつさ。まあ転移についてはボクもかなり詳しくてね。やり方はいかようにでもあるということを教えておくよ」


 アノーマリーがお世辞にも気持ち良いとは言えない笑顔と共に姿を消した。残されたのはドゥーム、オシリア、マンイーターだけである。

 オシリアはそっとドゥームの隣に近づいた。


「これで一歩、近づいたわね」

「・・・ああ、そうだね。不確定要素はまだ多いけど。時に、あのアノーマリーは本物だと思う?」

「おそらくはね。今まで見た個体の中では最も魔力が大きかったわ。そこいらの魔女よりは、それこそずっと。あれでまだ分身だとしたら・・・」

「だよねぇ。下手すりゃライフレスに近くなっていくじゃないの。全く、もう少し僕が強くなってから行動を起こしたかったけども、時間が待ってくれそうにないね」


 ドゥームはかぶりを振ると、彼もまた転移の魔術を起動させる。ドゥームは時間をかけて大陸のいたるところに転移の起動する魔方陣を仕掛けている。ドゥームもまた魔術の研究をしているのだ。


「ところで導師の方はどうなったの、ドゥーム?」

「ああ、彼らは原則今回の戦いには関与しないってさ。本当に世捨て人みないな連中だよ、あれは。別に一致した意見を出す会があるわけではなし、互いに交流があるわけでもなし、どうにも行動が読みにくい。まあ実力としてそんなに大したことはないだろうから、ヒドゥンも放置しているんじゃないのかな?」

「そうかしら? ならいいけど」


 オシリアはドゥームの言葉にどこか満足できないようだったが、確かに今回の魔女の危機にも誰も反応してないようだし、魔女の団欒がいかに魔女だけの会合とはいえ、各勢力が注目していないはずがないのだ。ドゥーム達が団欒の開催から三か月も襲撃の時期を待つほど慎重に行ったのも、魔女達そのものよりもその他の勢力の動きに慎重になったからだった。

 特に導師に関しては謎が多く、その勢力は魔女と同等かそれ以上とも言われているが、統一された組織が存在せず人間達との関わりもほとんどないため、その全容はヒドゥンですらまともにつかんでいないと言っていた。話によれば人間の世界に魔術を広めた導師はまだ生きているとかなんとか言うが、人間がそもそもそれほど長く生きているわけがないと、完全にドゥームは信じていなかった。

 ヒドゥンですら掴んでいない相手の実態がドゥームも気にはなったが、表に出てこない以上対応するべきではないとドゥームも考える。事実、オーランゼブルからの指示も何も出ていないようだ。


「(気にはなるけど、どうしようもないからね・・・不確定要素が多いのは嫌だけど。それはそれで楽しめるけども、中々どうして計画を練るというのは難しいね。オーランゼブルみたいに準備期間がもっとあればよかったのかな)」

「ドゥーム、何を考えているのかしら?」


 気が付けばオシリアが下からドゥームを覗き込んでいた。いつにない可愛らしいその仕草に、オシリアの機嫌が非常に良いとドゥームは気が付いた。


「オシリア、機嫌がとてもいいね」

「そうね、魔女達を一網打尽にしたことで溜飲は少し下がったわ。だけどドゥーム、私の最大の目的を忘れないでほしいのよ」

「ああ、わかっているよ。オーランゼブルは何としても苦しめるさ。それにアルフィリースだね?」

「わかっているならいいのよ。あの二人はどうしても許せない」

「まあオーランゼブルは僕もだけど。それより僕としてはリサちゃんを何とかしたいねぇ」

「あなた」


 オシリアがずいとドゥームの目をにらみつける。その目の闇は深くなり、魔眼が発動直前であることを告げていた。


「どうしてリサとかいう少女にこだわるの? 私というものがありながら」

「あれ、嫉妬? 珍しいな――」

「フン!」


 オシリアはドゥームに向けて全力で魔眼を発動させると、その場から消えた。後には地面にめりこんだドゥームと、彼を引き上げるマンイーターが残された。

 マンイーターがドゥームを引き上げながら、無表情に問いかける。


「どうーむ、おしりあをからかうのはよして」

「マンイーターも最近随分と会話がまともになってきたねぇ。これも人間を食べ続けた影響かなぁ」

「はなし、はぐらかさない」


 マンイーターがドゥームの頭をぺしりと叩いたが、ドゥームはその手を優しくどけながら、逆にマンイーターの頭を撫でた。マンイーターは変わらず表情の無いままドゥームに撫でられており、ドゥームはマンイーターの問いかけに独り言のように答えていた。


「別にはぐらかしているわけじゃないんだけどねぇ・・・なんでかな、どうにもリサちゃんの事は頭から離れない。ボクのパートナーは間違いなくオシリアだし、それ以外はどうでもいいはずなんだけどな・・・」

「わたしもどうでもいい?」

「ああ、ごめんごめん。そんなわけないじゃないか!」


 ドゥームが取り繕うようにマンイーターをなだめたが、マンイーターはふくれっ面をしてドゥームに反抗するのだった。

 だが一見平和なやりとりも、周囲の折れ曲がり、吹き飛んだ森の惨劇を起こした張本人達は彼らであり、紛れもなく邪悪そのものの体現であることを、ただこの森だけは知っていた。



続く

次回投稿は、8/1(水)17:00です。

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