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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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魔女の団欒、その2~三人の魔女~


***


 何日か明けて。魔女達の話は尽きない。彼女達は普段が自然としか話さない分、その遅れを取り返すかのように人間と喋る。元々は彼女達も人間の女性。女が三人寄ればかしましいと言うが、ここにいる魔女は現在50名を超えていた。もはやかしましいどころの騒ぎではないのは想像に易いだろう。

 だが主催となった三人の魔女の表情は、この数日で徐々に渋いものへと転じていた。彼女達にしてみれば、これが通常の魔女の団欒であれば大盛況として受け入れただろう。だが、今回の魔女の団欒は目的が違うのだ。今回の団欒の目的はただの旧交を温めるだけではなく、増加し続ける魔王への対策、そしてその背後にいるオーランゼブルに対してどうするかという意見を出し合う場であった。そしてその話し合いでは、森の魔女であるアンシェーレンの意見が何としても聞きたかった。

 アンシェーレンは魔女の中でも最長老に近い歳である。かつて存在したと言われる伝説の魔法使いミーシャトレスの弟子の一人であり魔女でもある彼女は、近い未来を占うことのできる能力を持っていた。だがある日ミーシャトレスはその能力を使うことを彼女に禁じ、突如としてこの世界から姿を消した。アンシェーレン達ミーシャトレスの弟子達は、ミーシャトレスの子ども達を盛り上げる者や、それぞれの思うがままに野に下った者へと別れることとなる。

 だがアンシェーレンはその能力の一部のみを解放し、その力を持って魔女のご意見番とでもいうべき存在となり、度々行くべき道を見失った魔女達が彼女の元を訪れていた。フェアトゥーセは直接彼女の世話になったことはないが、何の見返りも求めないその噂は知っているし、アンシェーレンの人柄は十分に信頼できると思っていた。だから今回の行動に際し、フェアトゥーセはアンシェーレンの意見を聞いてみたかったのだ。

 そう、フェアトウーセの目的とは魔女達が魔術教会、導師、アルネリア教会、さらにはオリュンパス教会とまで協力し、オーランゼブル達黒の魔術士の脅威に対抗することが今回の目的であり、その結果といわずとも、過程において何が最善の手なのかを話し合いたかったのだ。

 現時点でこの事実を知るのはまだフェアトゥーセ、イングバル、ドラファネラに過ぎない。後の魔女達は多くがただの団欒だと思っているし、勘の良い者も何か裏があるくらいにしか思っていないだろう。フェアトゥーセはそう思っている。

 そんな彼女の元に、イングバルがつかつかと歩み寄ってきた。


「フェア」

「イングバル。どうしたのかしら」


 フェアトゥーセは内心の苛立ちや不安を押し殺して笑顔でイングバルに振り返る。だがそんなフェアトゥーセの額を、イングバルは小突いたのだ。


「いたっ。何するのよ」

「私の前でまで強がらなくていい。あとドラファネラとな。肝心のアンシェーレンが来ないから焦ってるんだろう?」

「・・・やっぱあんたには隠せないわね」

「当然だ、何年来の付き合いだと思っている」


 イングバルは腰に手を当て、少し誇らしげにフェアトゥーセに主張した。顔が半分隠れる彼女の前髪から、黒い瞳が少し覗く。


「300年・・・は、経ったかしら」

「そうだ。まだまだ我々は互いがひよっこの頃から知っている。対極の属性に坐す我々は、何かと会う機会が多かった。属性が対極だからと、互いをいがみあわないようにとな」

「そうそう。結果として私達って一番仲良しよね。対極だけに気が合うっていうか」

「確かにな。私達はほとんど全てが反対だ。私が大人しく本を読むのが好きならば、フェアは体を動かして実地で魔術を学ぶのが得意だった。私が慎重にいけばよいと言うと、フェアは必ず大胆な行動に出た」

「あ、もしかしてまだお師匠様からの課題の事を根に持っているの?」

「さあ、どうかな?」


 イングバルがくすりと笑う頃に、ドラファネラが二人のいる場所に歩いてきた。その傍らには氷の魔女、スウェードがいた。彼女は青白の髪をかき上げ、ほつれた髪を一度振り払ってフェアトゥーセ達の元に近づいてきた。

 スウェードを伴うドラファネラがフェアトゥーセ達に話しかける。


「二人とも、いいかしら? スウェードは話があるそうよ」

「それは構わないが・・・」

「穏やかな話し合いの中、すまぬが」


 一つ詫びの言葉を入れたスウェードの表情は厳しいものだった。元々氷原の魔女である彼女の表情は氷そのものとも言われるが、それにしても今回はただ冷たいだけではなく、何か緊急性を感じさせるだけの緊迫感を伴っていた。


「アンシェーレンは来ないな」

「ええ、そうね。でも彼女がどこにいるかわからないし、手間取っているのかも」

「それはないだろう。私は既に魔女になって700年経つ。アンシェーレンとはお前達以上に長い付き合いだが、あの女は必要とされれば必ず呼ばずとも現れる女だ。それが影も形もないとは、はっきり言って異常だ。この周辺には、アイヤードが広域にセンサー代わりの結界を鳥を使って張っているし、そう思ってアイヤードの使い魔にアンシェーレンの元に行かせたのだがな。もう一月近くにもなるか」


 スウェードが苦々しい表情をしたので、フェアトゥーセは身を固くした。フェアトゥーセの中にある不安が、言葉になって告げられるとはっきりわかったからだ。

 スウェードはいつものように、淡々とした口調で告げる。


「だが、アイヤードの使い魔たちは帰ってきてしまった。その意味するところがわかるか?」

「ええ・・・つまりアンシェーレンは既に死んでいる。もしくは使い魔がその場所を見つけられないような場所に囚われている」

「まあそんなところだろうな。つまりはこの魔女の団欒の情報はもう誰かに漏れていて、アンシェーレンの生死は確かではない。と、なると、この団欒自体が既に意味を消失しかけている。このままここにとどまるのは、非常に危険ではないのか? 魔女達にはそれぞれの領地があり、また常に何らかの相談事を抱えている。そろそろ各地で問題が発生する頃だろう」


 スウェードの指摘はもっともであった。だが、スウェードが全てを知っているわけではあるまい。それに、現実に迫る危機は、ここの魔女の全生命をかけてもいいほどの物だとフェアトゥーセは思っていた。そうなると、この団欒を解散するわけにもいかないが、スウェードの言うとおりもはやこれ以上漫然と開催するわけにもいかなかった。

 フェアトゥーセはイングバルとドラファネラに目線を送り、彼女達の無言の了解を得たうえで話し始めた。



続く

次回投稿は、7/12(木)18:00です。

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