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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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少年達、その46~人を喰らう霊、再び~

「まずは本体を引きずり出して、その後魔術で仕留めます。霊体は物理干渉を受けませんが、精霊や素子などの干渉は受けますので、魔術は比較的効果的です。幸いここにはアルネリア教会の大司教までいますし、消滅方法には事欠かないでしょう」


 ラーナのさらに後ろに控えるエルザとイライザに注目が集まる。エルザは本来ここに来る必要はなかったのだが、彼女が自主的についてきたのだ。それは役目上、この町に何が起こったかを確かめる必要があるからであり、決してアルフィリース達を手伝おうとかそういった意図があったわけではない。だが、悪霊の類が認められた以上、アルネリアの大司祭として手伝わないわけにはいかなかった。それが神聖系の魔術を独占しているアルネリア教の社会的責務、というものである。

 エルザに許可を求めるように顔色をうかがうイライザに、エルザは小さく頷いた。


「仕方ありません。こうなった以上我々も協力には吝かではない。イライザ、許可します。アルフィリース殿達に協力して、悪霊を即、滅しなさい」

「了解しました」


 イライザが双剣の布を取り払い、新調した剣を取り出した。そしてその剣に手を這わせ、詠唱する。


【その手に光あり。邪なる者を打ち払うため、我に力を】

神聖シャインなる双剣セーバー


 辺りが一瞬光に包まれ、イライザの武器が光り輝き始める。アルネリア教会が悪霊などの闇属性の敵を相手にする時に使用する、神聖系の魔術。詠唱自体は簡単であり魔力もさほど消費しないため、深緑宮勤めの神殿騎士団なら誰でも使用できる(使用できることが最低条件)だが、習得までにはいくつもの手順を踏む必要があり、習得までに時間がかかる。その手順をアルネリア教は公開しておらず、また準備も多くが必要なため、事実上アルネリア教会の独占状態となっているということだ。

 それだけに威力は十分。弱い霊体なら、光に近づくだけでもその姿を保てなくなる。その剣を構えるイライザに、エルザがそっと耳打ちする。


「(イライザ、そのまま聞きなさい。あの霊体、どう見る?)」

「(相当高位の悪霊・・・アルネリアで確認された歴史上、最大の悪霊イネイブラーを五段階の最上位として、その三段階目というところでしょうか)」

「(そうね、実体に乗り移り自由に行動する段階で、三段階目の要件は満たすわ。でも、もし周囲の異形がこの悪霊の生み出したものだとしたら、周囲に増殖する悪霊ということで四段階目に相当するわ。そうなるとアルネリアの優先討伐対象となって、軍隊の出動が必要になる。現状のこの大陸の状況ではそんな余裕はないし、そんな面倒な事になる前に、この場でアルフィリース達の協力をもらって倒してしまいましょう)」

「(わかりました。必ずや倒して見せましょう)」


 イライザが双剣を構え、アルフィリース達の先頭に出る。そしてその横にロゼッタが並ぶ。


「おっと、アルネリアの騎士さんよ。この団の斬り込み隊長はアタイって決まってんだ。譲れねぇな」

「なるほど。ですが私も相手が悪霊ならば、役目として譲れません。どうでしょう、ここは先を競うという形にしては?」

「へっへへ、アタイと勝負しようってのかい? 上品そうな顔して言うねぇ。アルフィ、いいかい?」

「お好きにどうぞ」


 楽しそうに笑うロゼッタを見て、アルフィリースが「しょうがないな」とばかりに許可を出した。団長の許可を得て大剣を構えるロゼッタと、その横に並ぶイライザを先頭に各員が剣を構える。

 そして戦闘態勢に入ったアルフィリース達を見て警戒したのか、マンイーターが奇声を発した。


「キィイイイイイイ!」

「いくぜぇ!」

「参ります」


 走りはじめる先頭の二人だが、その眼前に大量の召喚陣が発動する。マンイーターが使用したのだ。


「召喚?」

「なるほど、これはもはや、魔王と認定した方がいいでしょうね」


 エルザの一言にアルフィリースがエアリアルを促し、エアリアルは鏑矢を打ち上げた。それは外で控える仲間達への合図。中での緊急事態につき、増援を要請したのだ。

 同時にアルフィリースが号令を発する。


「各員! 隣の者と三人または四人と一組になり、共同して戦うように。負傷者が出た場合、同じ仲間が離脱させること。かかれ!」


 その声と共に戦闘が本格的に開始される。召喚陣からは次々にオークやゴブリンといった、アノーマリーが捕獲している魔物達が出現する。そして彼らに混じってヘカトンケイルや、なかにはサイクロプスといった大型の魔物も出現していた。

 だがそれらの多くは、召喚されて周囲の状況を確認する前にロゼッタが潰しに走ったのだ。


「おらぁ!」


 ロゼッタの剣で召喚されたばかりの魔物達が次々と切り伏せられる。サイクロプスでさえ、無防備な首にロゼッタの大剣を振り下ろされてはたまったものではない。

 その戦い方を見ていた仲間達は反則的なロゼッタの方法に最初こそ驚いたが、それは上手い手段だと次々に彼女に習い始めた。


「ずるくない、ロゼッタ?」

「魔物相手に、おきれいな戦いなんぞやってられるかよ! 勝ちゃあいいんだよ!」


 返り血を浴びながら特攻するロゼッタに、引きずられるように仲間達は続いた。その一方で、冷静にイライザはマンイーターのみを捕えていた。彼女は最短距離で敵を切り伏せると、マンイーターの首達の前に立ったのである。

 炎が映す赤い光景に、冷静なはずのイライザの表情もやや紅潮して見える。


「邪悪なる霊よ、去れ」

「どうしてぇ?」

「私はお腹が空いただけだよ」

「ちょっとくらい、いいじゃない」


 マンイーターのそれぞれにの訴えにも、イライザは動じない。彼女は改めて双剣を構えると、一つ軽く蹴り上げ頭の上で回転を始めた。その声に気迫がこもる。


「人を食らうなど、たとえ容姿が子どもとて人として許せると思うな!」


 気合一閃、振り下ろされる双剣にマンイーターの首のうち一本が切り落とされる。それを合図に、壮絶な戦いが始まった。残る首は6本。イライザは再び剣を頭上で回しながらその全てを牽制する。そしてにらみ合いというにはあまりに短い時間でマンイーターは動いた。元々堪え性もない少女の霊。待ちの戦法などありえない。

 マンイーターの首が一本迫り、イライザは先ほどと同様に袈裟懸けに斬り下した。直後、がら空きとなったイライザの背後に二本目の首が迫るが、イライザは振り下ろして地面に刺さった剣を上に蹴り上げると、その反動を利用して自分の体を軸にし、斜め上から首を斬り落としたのだ。

 だが二本の首を落とされようが、マンイーターの食欲を止めるほどではない。背後からさらに迫る二本の首にイライザは気が付くと、剣を逆に地面に突き立て一歩強く地面を蹴った。そのまま剣に駆けあがり、まるで棒高跳びをするように高く彼女は飛んだのだ。マンイーターの首はイライザの下を通過し、そのまま飛び上がる時に抜いた剣をイライザは二つの首の振り下ろし、とどめを刺したのだった。

 そしてイライザが振り返る頃には、残る二本はロゼッタが片付けた所だった。地面に落ちた首にも、他の仲間がとどめを刺している。ロゼッタは剣についた血糊を振り払いがてら、大剣を肩に乗せながら上機嫌そうにイライザに話しかけた。


「アルネリアの姉ちゃん、やるじゃねぇの」

「どうも。あと私の名前は『姉ちゃん』ではなく、イライザです」

「そうかよ。じゃあイライザの姉ちゃん」


 悪びれもなくそういうロゼッタを見て、イライザはロゼッタの性格を理解した。真面目な人間ほどからかって遊ぶ種類の人間なのだ。ミリアザールにもそういうところがあるから、なんとなくイライザは理解できた。真面目に相手にすると疲れるだけだと。

 それでも、ロゼッタはお構いなくイライザに話しかけるが。


「ところでイライザちゃんよぉ」

「・・・なんですか?」

「ズボンが多少きついんじゃねぇか? 下着が食い込んで形が透けちまってるぜ?」


 その言葉に、イライザがばっとお尻を隠した。それに顔も赤くなっている。その可愛らしい反応を見て、ロゼッタはにたりと笑みをこぼした。


「お、可愛い反応だねぇ。だけどかわいい顔に見合わず、エグイのはいてるじゃねぇの」

「べ、別にそんなことはありませんっ」

「趣味か?」

「何か問題でも!?」

「ふざけるのもそこまでにしておきなさい」


 顔を真っ赤にして反論するイライザとそれをからかうロゼッタを止めるように、エルザがずいと前に出てきた。いつの間にか自分も戦闘用の服装、つまり短い袖とショートパンツのような服装に手甲、膝当てを準備している。そしてその隣にはエアリアルもいた。


「ロゼッタもだ。来るぞ」

「何が来るってぇ?」


 既に首を叩き落として半ばだらけかけたロゼッタだったが、エアリアルの視線の先にある物を見て、再び真剣な顔に戻った。



続く

次回投稿は、5/7(月)7:00です。このシリーズが終わるまで、一気にいきましょう。

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