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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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少年達、その29~通告~

「それに伴い、グラスライブ司祭付きの神殿騎士は、この国にて復旧活動を手伝っていただきます。司祭の身柄は、私が国境に待機させている神殿騎士達が安全に聖都アルネリアにまで護衛することでしょう。彼らが到着し次第、司祭殿はアルネリアに戻られますよう」

「・・・は?」


 グラスライブは我が耳を疑った。今、自分の部下は全て取り上げられると言わなかったか。


「大司祭、申し訳ありませんが今の言葉の意味がわからず・・・私は一人でアルネリアに戻る事になるので?」

「いえいえ、ちゃんと優秀な護衛をつけますよ。私が深緑宮の神殿騎士より選んだ精鋭です。きっと御身の安全を保障するでしょう。なにせ、これから大事な身となるのですから」


 その言葉を聞いてグラスライブはぞくりとした。国境に神殿騎士を待機させているということは、最初から目の前の若き大司祭は自分をアルネリアに連行するつもりであったのだと、グラスライブは今さらになって気が付いたのだ。これは帰都ではない、帰都という名目の逮捕だと。アルネリアに帰れば、新しい部下という名目で監視がつくのだろう。それを暗に匂わせるだけの迫力がエルザの言葉にはあった。

 グラスライブはエルザについてある程度の情報を持っていた。若きシスターや騎士達の間で人気の高い、巡礼にしては珍しく名の通ったシスター。貧民街上がりであるが、その功績の高さで有名なシスターであると。アルネリアに入ってからの経歴、功績を見てもかなりの切れ者である事はうかがえたが、まさかいきなり自分を逮捕しにくるとは思わなかったのだ。何かあるにしても、もう少し様子を見るだろうと思っていた。

 だがグラスライブの読みは甘かった。確かに年季こそグラスライブに遠く及ばないエルザだが、そのくぐってきた修羅場の数がグラスライブよりもはるかに上であることを、彼は今悟ったのだ。

 エルザはただ淡々と自分の述べるべき事を告げた。


「私はこれから宿に戻り、取るべき手続きを済ませます。早ければ数日で迎えの神殿騎士は到着するでしょう。司祭もまた今日中にでも取るべき手続きを済ませ、戻る準備を整え待機をしてください」

「い、いやしかし・・・この国における私の仕事をまとめるのには、数日ではとても無理です。せめて一月はいただかないと、後任の者が困るでしょう」


 グラスライブは必死で時間を稼ぐための言い訳をしたが、エルザには無駄だった。


「その必要はありません。後任の者が到着するまで、私が司祭の代役を務めましょう。確かに御身の任務は非常に難解。私は御身の任務の困難さを私なりに理解するからこそ、自ら出向いたのです。下調べも全て完了しておりますし、最後の心配事項であったこの国での活動記録にも先ほど目を通しました。ですから何も心配することはございません」

「は・・・ですが」

「これは決定事項です。私はこの案件に関する全権を、最高教主より委任されています。何かこれ以上の良案があれば今ここで承りますが、いかがか?」


 グラスライブは突然の提案とエルザの強引な言葉に、思わず黙ってしまった。だが何かを言おうとした矢先、エルザは既に身をひるがえしていたのだ。


「何も異論はないようなので、私はこれで失礼します。こう見えてやることは山ほどあるので。またこちらから、具体的にいつの迎えになるかの連絡を寄越します。何かあればその時の使者に連絡をしてください。隠密の身ゆえ、そちらからの連絡は控えるように。では失礼」

「あ・・・」


 グラスライブが引き留める暇も与えず、エルザとイライザはさっさとその場を出て行った。そしてビュンスネルの教会を後にすると、アルフィリース達を伴いその場を離れたのだ。後には呆然としたグラスライブが残されるのみ。彼は見送りに教会の外まで出てきたものの、エルザになんと言えばいいのかもわからず、ただその後ろ姿を見送った。

 その帰り道、イライザがエルザに問いかける。


「エルザ様、最初からこれが狙いだったのですか?」

「ええ、敵を倒すにはまず相手の事を良く知らないと。幸いにもあの司祭は、怪しまれないためか生来のまめな性格なのか、アルネリア教会本部にも詳細な報告があったわ。先ほど確認したけど、アルネリアの本部にあるものと全く同じ。報告そのものには信憑性があるわね。

 確かにこの国は援助する分にはもうどうしようもないけど、我々が仕切ってしまえばなんとでもなるわ。あの司祭がアルネリアに帰りたがっているのはわかっていたし、これを機会にこの国の腐敗を一掃する。そうでもしないと、こんな壊れた国はどうしようもないもの。国が壊れるのは勝手だけど、困るのは民よ。そんなことは私がさせないわ。

 あの司祭本人に関しては、アルネリアに到着してからゆっくりと調べればよいこと。まずは、おそらく私兵と化している部下達と切り離し、その様子を観察する必要があるでしょう」


 エルザの言葉にはやや熱がこもる。エルザには貧民出身として、国や町が人を顧みない運営をすればどうなるかという事の実感がある。

 そして同時にエルザには狙いがあった。それは、



続く

次回投稿は、4/15(日)10:00です。

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