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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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少年達、その12~恐怖の対象~


「ううう、私はお腹が空いてるのに~」

「どうして邪魔するの?」

「少し食べるくらい、いいじゃない」


 首達は同じ声で口々に語る。そして四つ目の首が言葉を放とうとしたところで、ルナティカが投げた刀が、その額に直撃した。


「ぎゃっ!」

「うるさい、黙れ」


 それを皮切りに、一斉に首がルナティカに向けて伸び、ルナティカも飛び出した。一つ、二つ、三つ。ルナティカがあっさりと首の攻撃をかわす。そして八方から回り込むように攻撃してきた首を、ルナティカは伸びた首を足台にして飛んだ。その瞬間、一閃。ルナティカが手に持ったマチェットには鮮血がいつの間にかついており、首のうち三つは地上に転げまわる事となった。


「あああぁああ!」

「痛い~痛いよう」

「なんでこんなことするのぉ?」


 地に落ちた首が口々にルナティカに抗議するが、それらの頭をルナティカは無慈悲に踏み抜きながら他の首を睨んだ。


「残り四つ」


 ルナティカの殺気に、首達が怯える。その時、アルフィリース達が到着したのだ。


「あれは何?」

「とんだ化け物のようですね。ルナは無事のようですが」

「いくら裏路地とはいえ町中に化け物とは、穏やかなじゃないわね」


 アルフィリース達が驚きながらも戦闘準備を始める中、少し遅れてラインが到着した。彼は周囲を素早く確認すると、アルフィリースの肩に手をかける。


「アルフィ、少し待て」

「何よ、怖気づいたの」

「周りをよく見ろ。人気がない」


 ラインの言葉に従い、アルフィリースは周りの様子を観察した。すると、確かにラインの忠告通り周囲一帯には人気がないのだ。いかに人気のない裏路地とはいえ、これほど巨大な魔物が暴れているのだ。誰も気づかないはずがない。ルナティカもその事に気が付いたのか、訝しがっているようだ。

 ラインはリサにも確認を取る。


「リサ、周囲や建物の中に人はいるか?」

「人・・・いえ、これは」

「どうしたの、リサ?」


 リサの普段と違う狼狽ぶりに、アルフィリースも心配になってリサの方を見る。


「センサーそのものが働きません。まるで全身の毛孔を無理矢理塞がれたみたいに。これは一体――」

「マンイーター、そこまでよ」


 センサーが効かない原因を探るリサが感じたのは、突如として現れた少女だった。リサは少女の気配を感じると、その身が凍りついたように体の芯が冷え行くのを感じた。

 同様に。アルフィリースも赤いドレスの少女を見て、寒気が止まらなかった。背中をつたうのは冷たい汗。本能的に自分を怯えさせる何かがあると、アルフィリースは感じ取った。

 そのくだんの少女はアルフィリース達の方を見もせずに、マンイーターに話しかける。


「そろそろ引き上げるわ。いかにこんな町でも、さすがに目につくから。私の結界も即席じゃ、そう長くは持たないの」

「でもまだ食べたりないよ、オシリア」

「我慢なさい。それとも私の言うことが聞けないのかしら?」


 オシリアの漆黒の瞳に睨まれると、マンイーターはすごすごと黙るしかないようだった。それだけの威圧感をオシリアは備えている。実際、無防備極まりないはずの彼女に、ルナティカですら襲い掛かろうとしない。

 オシリアはアルフィリース達の事など気にかけていないのか、彼女達の方を見もしなかった。だが何かに気がついたように、路地の一画を見る。


「マンイーター、後片付けはしっかりしなさい。食べ残しはよくないわ」

「ごめんなさい、ごめんなさいオシリア」

「今日は特別よ、私がやるわ」


 オシリアがすうっと先ほどの死体の方を指さすと、突然何かに踏みつぶされたように地面が円形に凹んだ。潰されたゴミか血か。それらがアルフィリース達の足元に飛び散る。


「うっ」

「一体何を・・・」


 アルフィリース達が慌てて後ろに飛びのくが、そこにきて初めてオシリアはアルフィリース達に気が付いたように彼女達の方を見たのだった。白い部分のない漆黒の瞳が、アルフィリースを吸い込むように見つめる。


「そう・・・あなたがそうなの」

「え?」

「また来るわ」


 オシリアはマンイーターと共に路地裏の闇に姿を消した。その後をルナティカが追った時には、既に彼女達は影も形もなかったのだ。

 だが後に残る血の塊だけは、彼女達が確かに存在したことを物語っていた。そしてルナティカが追おうとした先にの路地裏に残された血痕は、10をゆうに超えていた。

 ルナティカが引き揚げながら、その不快感をぶつける。


「さっきのは一体何? 私がやったことのない相手の手ごたえ」

「私達と因縁のある相手ですよ、ルナ。彼女達を相手にして勝てそうですか?」

「わからない。生きてる奴なら、どんなものでも殺してみせる。だけど、既に死んでいる者を殺すことは試したことがない」

「そうですか。あの魔物、迷宮でやりあった時と確かに気配は同じなのに、全く別の生物と化していました。彼らは一体――」


 リサとルナティカが検討をする中、アルフィリースの肩を叩く者がいる。


「ライン」

「冴えない顔だな。どうかしたか?」

「ううん。だけどさっきの少女は――」

「危なそうな奴だったな。だがそれがどうかしたか?」

「自分でもよくわからないけど・・・」


 アルフィリースは歯切れが悪そうに答えたのだった。ラインはアルフィリースを心配するようにしばし後ろにいたが、やがて残りの者達に命令を出すために彼女の傍を離れた。だが、アルフィリースには不思議な違和感がぬぐえなかった。どうしてアルフィリースはあんなにオシリアに怯えなくてはいけなかったのか。また、どうして同時にオシリアを身近に感じてしまったのか。オーランゼブルに感じた怯えとはまた別の恐怖。アルフィリースにはわからないことだらけだった。


***


「ただいま、オブレス兄さん」

「お帰り、エルシア。それにレイヤーも」

「・・・」


 レイヤーは軽く会釈だけすると、ふいっとその姿を消した。それを見たオブレスは少し困った顔をしたが、その彼にエルシアはぎゅっと抱きついた。


「レイヤーは相変わらず無愛想ね! やっぱり兄さんが一番だわ」

「何かあったのか、エルシア」


 笑顔を顔に浮かべ幸せそうに抱きつくエルシアだったが、その彼女を見てオブレスは鋭く指摘した。するとエルシアの顔が一転、仏頂面に変化する。


「別に何もないわよぅ」

「嘘だね。エルシアが俺の胸に飛び込んでくるときは、必ず悪いことをした後だ」

「むー」


 エルシアはふくれっ面をしながら、腰に手を当てオブレスを睨んだ。だがオブレスは、そのエルシアの手がかすかに震えていることに気が付いた。オブレスはそっとの彼女の手をつかみ、優しく問いかける。



続く

次回投稿は3/20(火)12:00です。祝日なので連日投稿します。

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