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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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少年達、その5~適切な人事~

「ここスラスムンドの担当者、グラスライブという者はかなり位が高く、次にアルネリアに戻る時は大司教補佐になるであろうと言われています」

「なるほど。だったらもしかすると――」

「ええ、私の補佐に任命される可能性もあるということです」


 エルザはアルフィリースと語る。彼女達は歩きながら語るが、周囲に人影はそれほどない。国の首都だというのに、活気は全くなかった。露店もほとんどありはしない。見るのは道端に倒れる乞食だけ。ほとんど死の街と化したビュンスネルなら、彼女達の話を聞きとる者もそうそういはしないだろうということだった。


「前任のミナールの補佐であったエスピス、リネラは大司教補佐ではあったものの、ミナール個人の人事により抜擢された者達。大司教が変わればその補佐も変わるのが当然です。少なくとも周囲はそう思っています。彼らをそのまま採用するという手もありましたが、私がそこまで人事権を行使すれば、教会内の反発も大きいでしょう」

「なるほど、アルネリアも単純な組織じゃないわけか。次の人事を巡っての権力争いなるものもあるんだな。なら、次の人事を巡って一悶着あっても不思議じゃない」


 ラインが口をはさむ。だが彼の指摘は正しかった。


「ええ、実際既に教会内ではちょっとした騒動になっています。私は決して上司達に受けのいいシスターではありませんでしたから。部下にはともかくとしてね」

「なんで?」

「それは、どこの馬の骨ともしれぬ浮浪児だった者を由緒正しきアルネリアの大司教にするなど、納得のいかない者も多いのです。我々は広く貴族からも人材を募っているので、そういった差別主義が発生するのも致し方ない事なのですよ。現に貴族出身にもかかわらず、そのままアルネリア教会に仕えている者もいるのですから。

 おかしな話ですよね。彼らはアルネリアに仕えた段階で既に貴族であることを半ば放棄したはずなのに、意識だけは変わらず貴族のままなのですから。アルネリア教会は実力主義、ということをすっかり忘れているようです。現在他の大司教、マナディルやドライドが元々それなりの身分の出自ということも作用するのかもしれません。彼らにそういった貴族的な考えは皆無にも等しいのですが、周囲はそうではないようで。慈愛と救済を趣旨とするアルネリアでも、所詮人の集団。俗事や欲望とは無縁でないという事でしょう」


 いつもより饒舌なエルザは、彼女なりに思うところがあるのだろう。エルザも卑しい身分の出で苦労した人間である。アルネリアの体制に疑問を持ったことも一度や二度ではなかった。

 少し愚痴のような内容にアルフィリースが返答に困ると、察したエルザが言葉を継ぎたす。


「ああ、すみません。アルフィリースを困らせるつもりはなかったのですが。これはこちらの事情ですからね」

「ううん、私は困ってないけど。偉くなるのも大変なのね」

「お前もすぐに味わうさ。この傭兵団がでかくなりゃ、嫌でもな」


 ラインの言葉をアルフィリースは流したが、それは彼の事が嫌いだからではなく、自分がそう大勢の人間を率いることが想像できなかったからである。アルフィリースの考えでは、傭兵団は多くて500人程度だった。だが、それは彼女が自分は世間知らずだという事を考慮に入れていない上での勘定だったのであるが・・・。

 とにかく、アルフィリースの今回の任務は、盗賊団の征伐にかこつけスラスムンドに潜入し、エルザの任務を手伝う事であった。これは傭兵団の他の人間には知らされていない。少なくとも隊長達と、今回ビュンスネル内に同行した仲間以外は。エルザが正面切って訪れれば証拠は隠滅されるだろうし、ミランダが相手を手ごわしと見ての隠密作戦である。


「それでエルザの今後の作戦は?」

「既に先に潜入した人間達から、いくつかの情報を聞いています。グラスライブはスラスムンドの軍高官と結託している可能性がある。それだけでも、彼は内政不干渉のアルネリアの教義に反している可能性があります。その証拠さえ掴めれば・・・」

「それさ、時間がかからない? 私達は盗賊団征伐の報告をここのギルドでするっていう名目で来たのだから、あんまり長時間の滞在はしたくないわ。治安も悪いし」

「わかっています。だからこそ、リサ殿の出番なのです」


 エルザがちらりとリサの方を見ると、リサが忍び笑いを始める。


「ふっふっふ、よくわかっているじゃないですかエルザ。このデキる女リサの価値に気が付くとは、そこら辺のデカ女とはわけが違うのです」

「いや、私も頼りにしているんだけど?」

「む、ここで褒め殺しにくるとは少しは成長しましたね、アルフィ」

「何を言っているんだか・・・」


 アルフィリースが半ばリサの発言に呆れた所に、彼女にどんとぶつかるものがある。アルフィリースがよそ見をしていたせいかとぶつかったものを見ると、それは少女だった。歳は12歳くらいだろうか。アルフィリースの胸くらいまでしかまだ背のない少女は、埃にまみれた顔と髪をしながらも、その強く輝く青い瞳が印象的だった。髪だって、きれいに洗い流せば美しい金髪になるのではないかと思う。短く切った髪はいささか少年的だが、この荒れた土地に似合わぬ風貌の少女ではある。

 アルフィリースが慌てて少女に謝ろうとすると、先に少女が口を開いた。


「よそ見すんな、デカ女!」

「な、なんですっ・・・」

「フン!」


 アルフィリースに怒らせる暇すら与えずに、少女はその場を足早に去って行った。その後ろ姿を見ながら、怒りどころを失ったアルフィリース。その傍ではエルザもまた少女の後ろ姿を追っていた。


「あの子・・・イライザ?」

「はい」

「後を追って」


 エルザの指示にイライザはこくりと頷くと、少女の後をかけて行った。きょとんとする他の仲間だったが、ルナティカがアルフィリースの袖をくいくいと引く。



続く

次回投稿は、3/10(土)14:00です。

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