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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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シフクの時、その3~兵は神速を尊ぶ~

 狐の獣人の商人、ジェシアが愛嬌のある声で返事をしてみせた。彼女は目配せをしながら今日も露出度が高めの衣装で皆の前に出現した。まだ冬の寒さが厳し眼のこの時期にそのような薄着で出てくるとは見ている方が寒いのだが、彼女は自分の流儀だと頑として譲らない。だが彼女が人前以外では少し寒さに震え、くしゃみをしていると皆が知っているのは、彼女には内緒である。

 そのジェシアが手にある書簡を開いて見せる。そこには何やら目録と署名がいくつも書いてあった。


「アルフィの要求通り、ここには沢山の町長、市長からの食糧・武器などの援助誓約があるわ。もちろん私達のフェニクス商会が各都市に貸し付けた金額を元に作成されているから、上限はあるんだけどね」

「これからスラスムンドに向かうまでに通る都市のものはあるのかしら」

「そうねぇ・・・ぱっと見、最低10はあるかな。まあ私達が活動している都市なら、ほとんどからいくらかの援助を受けることができるわよ? 獣人は生活圏としては東側ではあまり浸透していないかもしれないけど。商人は比較的出入りしているからね。大陸の南には変わった特産物も多いし、需要は高いのよ」

「わかったわ。必要な物資の量をエクラと計算して、どこでどのくらい受け取ればいいかを提案して頂戴。あと移動用の竜の手配は?」

「そっちもバッチリよ」


 エクラが手で丸を作って見せたので、アルフィリースは満足げに頷いて見せた。


「よし、ならば今回の出撃は200人としましょう。人員の選出はロゼッタ、エアリアル、ロイド、ラインに任せるわ。シーカー達も含めた適切な人材を選んで頂戴。その内歩兵は天馬騎士と共に、竜で先行。何名かの部隊に分かれ、各都市、関所で騎兵が楽に通れるように、予め宿や食料の手配を先に済ませて。

 現地での先行はターシャとエメラルド、それにリサ。スラスムンドに就き次第、敵の情報を収集し、偵察まで終える事。ラインとロイド、ロゼッタは陣容を整え、偵察が終わり次第戦場の選定を行って。私はアルネリア教との話し合いを終えてから向かうから、少し遅れる。私と騎兵が到着し次第、すぐにでも戦を始められるようにね。留守はエクラに任せるわ」

「それで、出発はいつだ?」


 ラインの質問に、アルフィリースはにやりとした。


「兵は神速を尊ぶわ。今すぐにでも半数の人間を出撃させて」


***


 イェーガーの中は騒然とし始めた。アルフィリース達の会議が終わるやいなや、各隊長達が出撃を命じたのだ。面喰った傭兵達だが、ほとんどがそのまま簡単な装備と食料を持たされ、高所での防寒着を着ると、ちょうどジェシアが手配した竜達が傭兵団の近くの広場に舞い降りる所だった。

 そしてエクラとジェシアの打ち合わせ通り、各隊長達にはそれぞれがどこで泊り、どこを目的に飛ぶのかを指示し、彼らは飛び立っていった。アルフィリース達の会議が終わってから一刻後の事である。その頃には傭兵団の三分の一が出撃していたのだった。

 その後残りの百人は、夜前の出撃となった。彼らは初日は夜を徹して空を飛び、交代で竜の背で仮眠をとりつつ先行した傭兵達に追いつく算段となった。また先行した面々が足らない物を検討し、多少の物資を持っていくため竜も大型、速度は多少遅めなのを考慮してのことである。

 エアリアルだけは単騎で出撃し、竜と同速で地上から追いつくことになった。彼女の愛馬シルフィードは普通の馬と性能が違う。空を飛ぶ竜と同じ距離を走行できるシルフィードは、他の騎馬とは併走できなかったのだ。

 アルフィリースは先陣とエアリアルの出撃を確認すると、自分は後陣より少し遅れて出撃する事を伝え、書簡をしたためてアルネリア教会に赴いた。ミリアザールに会えるとは限らないため、今回の出撃の要点をしたためて彼女の元に向かったのである。完全に無断で出撃すると、各関所で何らかの面倒事が発生した時にアルネリア教会の庇護を受けることができない。各関所でアルネリア教会の通行証を使用してよいとは言われたアルフィリース達だったが、彼女は念のためにミリアザールには連絡する事にしていたのだった。

 それにもしアルフィリースがアルネリア教にて手間取ろうとも、彼女にはラキアがいる。ラキアさえいれば、彼女は一日以内に大陸中のほぼすべての場所へ行くことが可能であったのだ。アルフィリースは自分の傭兵団の売り込むための戦略として、その行動力を武器にしようと考えていたのである。行動力ならば準備次第では、傭兵団の練度にそこまで左右されないと考えたのだった。


続く


次回投稿は、2/28(火)15:00です。

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