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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第二章~手を取り合う者達~
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冬の訪れ、その16~悲報~

「グウェンドルフ様、私にも教えていただけませんか?」

「なぜだ。この氷原を守るだけの魔女には、必要のない知識ではないのか?」

「は。しかし私は・・・」


 クローゼスの戸惑いに、グウェンドルフは彼女の事情を察した。彼女は心の中でなんとかアルフィリースの力になりたいと思っているのだ。彼女とアルフィリースのやりとりを見ていたグウェンドルフには、クローゼスの心情がなんとなく想像できた。本当はこの地の事よりも、徐々にアルフィリースの方がクローゼスにとって大切になりつつあるのだ。

 そんな彼女を、少し愛しいと思うグウェンドルフである。


「ふむ。まだ私の説は想像の段階だ。これといった根拠を持たぬ。だがもし当たっていれば、オーランゼブルのやろうとしている事は、最善にして最悪の行動だ。私も迂闊な事は言えん」

「そう、ですか。では今後貴方はどうなさるおつもりで?」

「私は先代の真竜達、『古竜』に相談に行く」

「ええ!? 古竜はまだ存命なのですか?」


 クローゼスですら驚いた声を上げる。だがグウェンドルフはゆっくりと頷いた。


「うむ、私の呼び掛けにしか応えぬがな。だが存命とは言えるかどうか・・・彼らに会うには私とて時節を考えねばならぬ。ゆえにその時が来るまで、私は世界の現状を見て回らねばならぬが・・・」


 グウェンドルフがちらりと北の大地を見る。するとクローゼスがその意図を察したのか、その場に平伏した。


「グウェンドルフ様。重ね重ね無礼を承知で申し上げます。北の大地の事は我々に何卒お任せを」

「正規の魔女はおらぬ。それでもやれると?」

「やります、いえ、やってみせます。ですから何卒・・・」

「・・・そこまで言われて私が北の地に行けば、私は完全に悪者だな。それに事情も知らぬ。ここはお主に任せるとしよう。だが」


 グウェンドルフはくわっと口を開いた後、優しい声でクローゼスに話しかけた。


「力及ばぬ時は素直に誰かに助けを求めるがよい。自分の非力を知り、なおかつ助けを求められぬのは愚か者と思え」

「承知いたしました。御温情、感謝いたします」


 そのやりとりを最後に、グウェンドルフは再び天空高く飛び去って行った。そして残されたクローゼスは真剣な表情に戻ると、


「私が行かねばならないか。だがしかし・・・いや、今は失敗した時の事は考えてはなるまい。原因も、アルフィリースの事も後だ」


 そして彼女は北の土地へと足を向ける。その胸に一つの決意を抱いて。


***


「ミランダ~」

「ぐー」


 アルフィリースが新しく深緑宮内に構えられたミランダの執務室に訪れると、彼女は机に突っ伏して寝ている所だった。傍には処理された大量の書類の山。そして彼女の部屋にはもう一人。彼女と少し離れた場所にある机では、エルザが自分の仕事をしている最中だった。そういえば、外ではイライザが新調したらしき双剣を振っているところである。比較的のどかな深緑宮のひと時。アルフィリースはしばしイライザの剣技を見ていたが、彼女の剣技はいつ見ても美しいと秘かに感動するのだった。

 そして部屋にこっそり入ったアルフィリースだったが、エルザに「しー」と指先で示されて、アルフィイリースは大人しく部屋の片隅の椅子に座り、ミランダが目を覚ますのを待とうと試みた。そう、試みたのだ。思ったよりも睡魔が強かったというだけで。


***


「アルフィ~」

「ふなっ?」


 アルフィリースが再び目を覚ました時は、ミランダに頬をつつかれていた。目の前にはミランダの笑顔。昨日忙しい時に訪れた時の事は怒っていないようで、アルフィリースはほっとしたのだった。

 そしてアルフィリースに向けてミランダから意外な言葉が紡がれる。


「アルフィ、昨日はごめんね」

「え、何が?」

「いや、冷たくあしらっちゃったって」


 ミランダが手を顔の前で合わせて、「ごめん」の姿勢を取る。アルフィリースはそれを見て優しく笑う。


「いいよ、私も無神経な事を言ったし。訪れた時間も悪かったわ」

「そう言ってくれると助かるわ」

「そういえばエルザは?」


 アルフィリースはエルザの机を見るが、そこにはまだ書類の山が積まれていた。仕事の途中で出ていったらしい。


「わかんない。梓がエルザを呼びに来たの。彼女にしては慌てていたから、アタシも思わず起きちゃったんだけど」

「そうか。なんだろうね」


 アルフィリース達は事情がわからず首をかしげたが、答えがでるわけでもなし。やがて話はミランダの仕事に移って行く。


「そういえば、仕事はいいの?」

「まあ昨日は徹夜だったけど、なんとか目途はついたわ。後はエルザと相談しながら現場でお試しってところかな」

「なるほどねぇ。じゃあ人員の選定は済んだのね」

「運用法まで含めて、とりあえずの方針はね。マスターへの報告書類も作り終えたし。で、あんたの方は?」

「ぎくっ」


 ミランダの問いにアルフィリースが焦り始めたので、ミランダはため息をついた。


「しょうがない子ねぇ、本当に。まーたエクラに怒られるわよ?」

「でも、でもね。あまりにも仕事が多すぎて・・・」

「何言ってんの、エクラが相当肩代わりしてるのよ? 本当なら今エクラがやっている資金借り入れの相談や返済の交渉も、あんたの仕事なんだからね? あんたの仕事はほとんど最終決定だけになるようにエクラが書類をまとめているのに、エクラの有能さに感謝しこそすれ、文句を言ったら罰が当たるわよ?」

「う、うう」


 アルフィリースは口応えもできずしょんぼりとしてしまった。指を体の前でこねくり回す仕草がどうにも可愛らしく、ミランダはくすくすと笑っているのだった。ライフレスとやり合っていた時とはまるで別人である。


「(まったく、しょうがない子ねぇ・・・少し大人になったと思ったけど、まだまだ私の力は必要かな?)」


 ミランダがそう言って立ち上がろうとした時、彼女は手に持っていたお茶の入ったカップを落としてしまった。その音でアルフィリースがはっとする。


「ミランダ?」

「ああ、ごめんね。疲れているのかな?」

「大丈夫?」

「うん、平気。アタシも書類仕事よりはメイスをぶん回している方が性に合っているからね。ちょっと暴れたい気分かも」

「物騒なシスターね」


 そういって二人は笑い合うのだった。


***


「ミリアザール様、お呼びでしょうか?」


 ミリアザールの部屋に入って来たのはエルザ。ミリアザールの急な呼び出しで梓に伴われて、ミリアザールの部屋に来たのだった。

 エルザを案内すると、梓は一礼して下がって行く。イライザの同行も許されなかったという事は、自分にのみ関する急な要件なのだろうとエルザは身を引き締める。

 その彼女にミリアザールは、普段と変わらぬ表情で話しかける。だがそれが逆にミリアザールの心遣いだと悟り、エルザは心した。


「うむ、他でもない。お主に伝えることがあってだな」

「前置きは結構です。要件だけ、手短に」

「そうか。なら心して聞け・・・ミナールが死んだ」



続く

次回投稿は、2/3(金)19:00です。

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