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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第二章~手を取り合う者達~
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冬の訪れ、その8~相性の悪い二人~

「(こ、これは・・・)」

「やるかい、姉ちゃん」

「・・・いや、やめとく」


 ロゼッタがその瞬間構えを解いたので、観衆はキツネにつままれたような気分だった。何が起きたかわからずざわめく者もいる。

 対してロゼッタは完全に冷静になっていた。いや、強制的にならされたのか。元々青い体色だが、顔はさらに青ざめていた。


「アンタ、名前は?」

「ラインだ」

「本名か?」

「いや、偽名だ」

「だろうね」


 ロゼッタはそれだけ言うと、剣を収めてその場を去ろうとする。そして去り際にアルフィリースに一言。


「アルフィ。あんた、とんでもないのが知り合いにいるね」

「・・・そうなの?」

「気づいてなかったのかい?」


 アルフィリースのぽかんとした表情に、逆にロゼッタが困惑する。


「あいつ、相当強いよ。対峙した時、底が全然見えなかった。やりあったら負けてたと思う。そう思える相手は、ローマンズランドの将軍とやりあった時以来だ」

「そんなに?」

「そんなにだよ。構えもしっかりしてたし、きっと名のある騎士だったんじゃないか? あれくらい腕が立てば、アタイも名前くらい聞いたことがあるかもしれない。アルフィは気が付いてなかったのかい?」

「いえ・・・正直、只者じゃないとはなんとなく思っていたけど」


 アルフィリースはなんとなく、ラインとこなしたいくつかの仕事を思い出す。気が付けば、自分達の仕掛けた罠にかかって全滅していた山賊達。警戒が一番厳しい時に、わざわざ忍び込んできた盗賊。眠っているところを一網打尽にされた魔獣達。その依頼は実にあっけないものばかりだった。


「(全部、彼の仕込みだったのかしら)」


 アルフィリースがふとラインの方を見たが、ラインはアルフィリースに向けて小さく手を振るのみだった。アルフィリースはそれを見てふいと顔をそらしたが、よく思い出せば自分に用があると言ってラインはここに来たのだった。

 アルフィリースはつかつかとラインの方に歩み寄る。


「それで、用事は?」

「こんなとこで話すのか? 腹が減ったんだが。なあ、ダンサーもそうだろ?」

「まあな。そういうことにしておこう」


 もちろんダンススレイブに腹の虫など無縁であるが、彼女は一応話を合わせておいた。

 そしてアルフィリースもまたお腹が空いていたので、彼を促して晩御飯を食べるべく食堂に歩き出した。他の傭兵達には一旦ラインの事はあずかり、どうするかは自分が決めると言ったうえで、その場は解散とした。

 そして食堂に戻ったアルフィリース達は、適当に食堂の当番であるラックという若い料理人に食事を頼むと、料理を出したら彼にも下がるように言いつけた。後にはアルフィリース、エクラ、エアリアル、ダロン、ラーナなど主要の面々のみがいる。いない面子と言えば、リサは今日ジェイクの所行くのも兼ねて深緑宮にまだいるし、ロゼッタは酒瓶片手に自分の部屋に引き払ってしまったくらいである。

 彼らを前に、ラインはがつがつと飯を食べ始めた。


「いけるな、ここの料理」

「食堂の料理人も面接を厳しくしたから。中々の腕前の人間が集まったと思うわ」

「いい傭兵団だな。拠点もしっかりしてるし、練兵場もあるみたいだしな」

「まあね」

「ああ、あの金髪のネェちゃんはどこ行った?」

「ミランダの事? 彼女はアルネリアのシスターだから、当然教会の中で仕事をしているわ」

「生意気な嬢ちゃんは?」

「席をはずしているわ」

「シーカーの美人は?」

「アルネリアにいるわ。諸事情あってね」

「ネコのツンデレは?」

「なんでツンデレって知ってるのよ!」

「見りゃあわかるじゃねぇか!」


 それからもラインは他愛のない話をし始めた。これぞアルフィリースの知るラインその人である。先ほどまでのロゼッタとのやりとりが嘘のようである。アルフィリースは先ほどの戦いを見た後でも、まだ目の前の男が強いと信じられなかった。


「(強い人間は気配でわかるんだけどね。この人からも只者じゃない雰囲気は流れていたんだけど、普段の態度に実感が湧かなかったわ)」

「なんだ、じろじろ人の事見やがって。さては、惚れたな?」


 ラインを胡散臭そうにみつめるアルフィリースの目線を何と勘違いしたのか、ラインがにやにやしながらアルフィリースを見ていた。そのラインの顔を見てかっときたのか、アルフィリースが机の上の料理がひっくり返らんばかりの勢いで叩く。


「誰があんたなんかに!」

「まあまあ隠すなって。それにしても成長したじゃねぇか、アルフィもよ」

「な、何がよ」


 珍しくラインに褒められて戸惑うアルフィリースに、ラインがじっとアルフィリースの目を見つめながら、その目線が徐々に下にさがって行く。


「主に、胸が」

「~~~~」


 アルフィリースはその言葉に顔を真っ赤にしながらその場を出て行った。アルフィリースがいなくなった事で、それぞれの面々もその場にいる意味を失くしたのか、徐々に去って行く。ラインはいつの間に確保したのか、酒瓶片手に一杯旨そうにやり始めた。そして酔っ払って机に突っ伏すように寝始める。

 食堂は明りも落ち、ついにその場にはラインとダンススレイブが残るのみとなった。アルフィリースが何も言わなかったので、エクラが二人の泊る部屋の手配をしたが、ダンススレイブはラインが潰れたので適当に部屋に戻すと言って鍵だけ受け取ったのである。

 そしてしばらくの後。



続く

次回投稿は、1/22(日)19:00です。

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