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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第二章~手を取り合う者達~
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冬の訪れ、その3~来訪者~


***


 アルフィリースはとぼとぼとアルネリアの街並みを歩いていた。仕事は多いし、気分転換しようとしたらミランダに拒絶された。沈み込んだ気分でアルフィリースは街を歩く。その足取りは重く、帰ればエクラの鬼の形相が待っていると思うと、憂鬱な気分になるのだった。こういう時に気分転換や落ち着ける場所を、街の中に確保していないのは失敗だと思う。


「はぁ。私ってやっぱり団長とか向いてないのかな」


 アルフィリースは早くも先行き不安になった。誰か団の中に経験豊富な相談役が欲しい。ロゼッタは経験豊富だが、団長としてはかなり適当に傭兵団を運営していた。まあ元の性格がああだから、やむを得ない。そういう意味では、団の運営に関して最も頼りになるのは実際エクラなのである。その彼女も騎士団との違いに、四苦八苦しながら仕事を行ってはいる。

 そんなアルフィリースは街を歩きながら、ふとジェイクに出会った。まだこの時間は学校があるはず。アルフィリースは何度かリサと一緒にいるジェイクを見ているので、既に顔見知り程度の間にはなっていた。


「あら、ジェイクじゃない」

「ああ、アルフィリースの姉ちゃんか」


 ジェイクは遠慮のない物言いで彼女に話しかけてきた。アルフィリースにすればやや生意気な少年だが、彼の瞳には嘘が無い分付き合っていて気楽ではある。それに年の割には妙に大人びていて、アルフィリースも遠慮のない意見を出せる少年ではあった。まあまだ「ませている」ことに違いはないだろうが、それでも目線のはっきりした人間はこのようなものだろうかと、アルフィリースは内心では感心していたの。


「ジェイク、学校は? まさかサボり?」

「そっちこそどうなんだよ」

「ぎくっ」


 ジェイクの指摘にアルフィリースの目が泳ぐ。その彼女を見てジェイクはため息をついた。


「しょうがない団長だな。そんなんで大丈夫か?」

「う、うるさいわねぇ。大人には色々あるのよ!」

「どうせ書類が多くて嫌になって脱走したけど、ミランダも忙しくて構ってくれなくて、帰ったらエクラに怒られる運命なんだろ?」

「な、なぜそれを・・・」

「情報は筒抜けなんだよ」


 ふふん、とジェイクが得意がる。リサの傍にもっともいるであろう彼だから当然ある程度は知られているだろうとアルフィリースは思っていたが、それにしても彼の勘の良さも相まって、本当にやりにくい少年だとアルフィリースは舌打ちしたくなった。

 そんなジェイクがアルフィリースをじっと見ていたが、やがて小馬鹿にしたような目をしてそのまま去って行こうとする。それをアルフィリースは後ろからやや怒り気味に呼び止めた。


「ちょっと、待ちなさい! そういうあなたはどこに行くの?」

「ミリアザールに呼び出された。多分、外部遠征の話だと思う」

「遠征? まだ学生なのに?」

「ああ。グローリアの学生は、神殿騎士団志望なら卒業までに何度か遠征に同行するんだ。それ以外でも希望すればできるけどな。まあ戦闘はあまりしないらしいけど、腕に覚えのある連中は戦闘にも参加してる。俺も既に一回は遠征に同行したよ」

「戦闘はしてないんでしょ?」

「いや、ゴブリンを5体くらい斬ったかな」

「うそ」


 アルフィリースは驚いてしまった。アルフィリースが初めて戦闘を経験したのは、魔術協会を除けば14歳の時が初めてである。それもアルドリュースが傍にいてのことで、相手は小さな森オオカミだった。それでも足がすくんだし、魔獣相手の初戦を行う歳としては早かったと後で知ったものだ。だがゴブリンは武器も使うし、魔獣と違って明確に人間に敵対する魔物だ。森オオカミよりは難易度の高い相手だろう。それを11歳になるかならないかの少年が五体倒す。これは非常に驚異的なことだとアルフィリースは考えた。実際に実戦を経験するのはグローリアの学生といえど、5年以上がほとんどだったのだ。


「よくやれたわね。怖くなかったの?」

「怖いよ。でも怖いから、足が前に出る。俺がやらないと、誰かが代わりにやらなくちゃいけないんだ。そんなことはさせたくない。そういうのが騎士じゃないのか?」

「私は騎士じゃないから、そういう事を聞くのはお門違いよ。でも、きっと騎士ってそういう人達なのね」

「そう、俺は信じてる」

「じゃあ将来は神殿騎士になるの?」


 アルフィリースの問いかけに、ジェイクは即答した。


「いや、将来はリサの騎士になる」

「よくもまた、そんな事を臆面もなく・・・」

「だって、俺はそのために騎士になるんだから。別に恥ずかしいことじゃないだろ」

「はいはい、ごちそうさま。聞いた私が馬鹿だったわ」

「ようやく自覚したな」

「なんですってぇ!?」


 アルフィリースが怒りかけたので、ジェイクは足早に逃げて行った。だが去り際に手を振るあたり、やはりまだ少年なのだとアルフィリースは微笑ましかった。そして振り返ろうとしたその瞬間。


「あの子はとても強い騎士になるよ。だが、そう単純に物事が進むかねぇ」

「そうよね。そんな誰かの騎士だなんて、そうそう上手くいきやしな・・・って、誰?」

「ふぇふぇふぇ」


 アルフィリースの正面には、白髪の老婆がいつの間にか立っていた。何歳ともしれぬその皺だらけの容姿、だがそれでいて気品を損なわぬ雰囲気に、アルフィリースは不思議な懐かしさを覚えるような気がした。



続く

次回投稿は、1/15(日)20:00です。

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