深くに住まう者達、その6~邂逅③~
「グウェンドルフの言葉もあるし、一番強いのはあの小さな女の子かなぁ・・・次にライフレスくらいかしら?」
「ふむ。一番強いのは私も同意見だが、私の中では黒髪の女剣士が同格だと思うがな」
「え、そうなの?」
「あくまで私の見立ての話だ。その次はあのデカイ男、次にライフレスというところか。後は同じくらいだな」
「うそ!? デカイ男はライフレスより強いの?」
「多分な。少なくとも、あの男はライフレスより頑丈だ」
「じゃあ不死身なの?」
「死なない生物などこの世にはいない。だが、限りなくそれに近いのは事実だ。ライフレスとて不死身ではない。アルフィリースもその事には気が付いているのだろう?」
ユグドラシルの言葉に、アルフィリースははっとした。ライフレスの半分砕けた姿を見た時、一瞬不死身かと思ったのは事実。だが、よくよく考えれば不死身の生物などいるはずもない。いや、もしもそのような生物がいるならば、その生物がとっくにこの世の頂点に既に立っているはずだとアルフィリースは考えた。
だが同時に、ライフレスをどうやれば倒せるのかも見当がつかない事もまた事実。アルフィリースは目の前のユグドラシルをちらりと見るが、アルフィリースの目線の意味に気が付いたのか、ユグドラシルはアルフィリースの言葉を遮った。
「駄目だ、俺に聞いても答えはしないぞ?」
「えー、どうしても?」
「一応、彼らの側にいるものでな」
「またデートしてあげるって言ってもダメ?」
「ぶふっ!」
アルフィリースの言葉に、ユグドラシルが口に含みかけた果実酒を軽く吹いた。慌てて彼は口を吹きながら、アルフィリースの方を目を丸くして見ている。
「まったく・・・突拍子もない事をいう女だ」
「そうかな? もしかして私に気があるとか思ったんだけど」
「調子に乗るな。まったく、悪ふざけも大概にしてほしいものだな」
「そうふざけてもないけどなぁ。ただ身長がね」
アルフィリースが自分の頭の上に手を水平に当て、ユグドラシルとの身長差を示してみる。ユグドラシルの身長はアルフィリースの胸のあたりだろうか。もちろん彼が見た目通りの年齢でないことはアルフィリースもわかってはいるが、見た目というのはどうしても気になる。
だが同時にユグドラシルはアルフィリースが出会った男性の中で一番知的で、冷静な男性ではないかと思い始めていた。もちろんアルドリュースもそうだったが、彼はアルフィリースにとっては完全な保護者であり。またグウェンドルフは真竜である。種族を気にするアルフィリースではないが、グウェンドルフもまたアルドリュースと似たような印象を抱いていた。
たいしてユグドラシルは確かに無表情だが、けっして冷酷でもないことがわかってきた。でなければ、生物が死に絶える事を「最悪」などと表現するわけがない。アルフィリースは久しぶりに対等に話せる人物に出会ったのである。状況がこうでなければ、最低良き友人にはなれるのになと、アルフィリースは思うのだ。
一方でユグドラシルはやや仏頂面になったようにも見えた。それでも彼はアルフィリースとの会話を続けたいのか、次の口火を切る機会を考えているようだった。
「身長は高い方が好みか?」
「まあ私以上ではあって欲しいかな。だけど人間の価値ってそれだけじゃないから、そんなに極端に低くなければ気にしないけどね。でも不思議。なぜ貴方はオーランゼブルに協力しているの?」
「先ほども言ったが、協力ではなく制御役。さらに言うなら監視にも近い。もっとも、余程の事が無い限りは奴のやることを止める気もないがな」
「余程・・・生物の死滅ってことね」
「理解が早くて助かる」
ユグドラシルがにっと笑う。だがアルフィリースはまだ疑問に思う事が沢山あるのだ。
「オーランゼブルは何を狙っているの? 事情によっては私だって彼に協力できるかも・・・」
「柔軟な思考は結構だが、それはありえないな。お前はいかに奴が正しかろうと、虐殺にも近い奴の手段に手を貸せるか?」
「それは・・・無理だわ」
「だろう? そんなことを強制できないし、また誰の理解も得られない事を奴自身もわかっているからこそ、強引な手段に出たのだ。グウェンドルフから聞いたかもしれないが、奴は生来温厚で平和を望む人物だ。それがあれほどの強引な手段にでるのだから、余程の覚悟だろう。もう奴は自分が死ぬまで何があっても止まらんよ。そして奴の前に立ちはだかるのなら、それ相応の覚悟が必要になる」
「目的がわからない以上、私としても彼に対してどうしようもないんだけど」
「奴の目的は直にわかるだろう。その時お前がどのような決断をするか知らんが、それ次第では私も立場を明確にしなければならんかもな」
ユグドラシルが飲み物を茶に変えた事を見て、アルフィリースは彼がこれ以上何も語る気が無い事を悟った。結局肝心な事はわからないまま。ユグドラシルが語らないと言う事は、アルフィリースが今知る必要はない、もしくは知ってもどうしようもないという事なのだろうと彼女は想像する。
ならばやれる事をやるしかないと、アルフィリースは頭を切り替えた。この辺の切り替えはアルフィリースは早い。自分にも用意されたお茶を一気に飲み干すと、アルフィリースは席を立った。
「ごちそうさま。悪いんだけど、元の場所まで送ってくれるかしら?」
「せっかちだな。もう少しゆっくりしてもいいだろうに」
「思ったより冗談が好きなのね、これ以上何も話すつもりもないくせに。それに、そういうわけにもいかないわ。帰ってやることが山のようにあるもの。皆を心配させたくもないしね。こう見えてもモテるの、私」
「女限定だろう?」
ユグドラシルの言葉にアルフィリースむっとしたので、ユグドラシルは反射的に両手を挙げて降参の意志を表示した。そして慌てて話題を切り替える。
「失言だったな。そういうことなら仕方ない。すぐに送るとしよう」
「そうして。でも、また転移?」
「そういうことだ」
ユグドラシルがパチンと指を鳴らすと、二人の足元には魔法陣が出現し、一瞬で彼らだけの姿を消した。驚いたアルフィリースが何が起きたか気付く頃には、彼らはべグラードが遠くに見える場所にまで移動していたのである。
続く
次回投稿は、12/15(木)10:00です。




