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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第二章~手を取り合う者達~
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深くに住まう者達、その3~少年~


***


 時は今に戻り。アルフィリース達はトリュフォンの部屋を後にし、ハウゼンの屋敷に戻ろうとしていた。緊張のほぐれたはずのアルフィリースだが、まだ何やら考え事をしているようだった。


「アルフィ、これからどうする?」


 エアリアルが傍らにいるアルフィリースに話しかける。彼女はアルフィリースの表情がいまいち浮かないので、心配していた。

 だがそんなエアリアルの事には気が付かないのか。アルフィリースは前を向いたまま、無表情に答えた。


「そうね・・・もうべグラードでやることもないし、アルネリアに戻ろうか。傭兵団の募集をするにしても、この土地じゃ遠いしね」

「じゃあラキアにまた頼むのだな」

「ええ、エクラの準備が終わり次第ね」


 そのエクラは、自分の仕事の引き継ぎに東奔西走していた。まだ年若いとはいえ、それなりに地位も仕事もある彼女である。準備には数日かかると彼女は言っていたのだが・・・


「アルフィリース!」


 噂をすれば影、エクラが馬に乗ってアルフィリース達の前に現れたのだった。


「あれ、エクラ。どうしたの?」

「ふう、ふう・・・急いで仕事を終わらせてきたのです!」

「早いわねっ」


 アルフィリースが思うより、エクラははるかに有能であるらしい。彼女は取り急ぎ終わらせるべきものだけ手筈を整え、後は全て文面で指示を出したのだった。もっとも彼女の上司は父親のハウゼンであるわけだから、それほどまでに彼女が準備を整えなくてもなんとかなるのだった。

 それにしてもエクラが慌ててアルフィリースの元にかけてくる姿は可愛くもあり、エクラが着くなりアルフィリースは思わず頭を撫でてしまったのだった。エクラは突然の事に、激しく動揺した。


「な、何をするんですか?」

「え、可愛いなぁと思って」

「忠犬エクラね」

「誰がイヌかっ!」


 ユーティの言葉にエクラが彼女につかみかかるが、ユーティは飛んで逃げた。普段エアリアルやミランダなどの剛の者と渡り合う彼女であるから、エクラくらいの速度であれば問題なく回避できる。

 そのままユーティがエクラをからかいながら、あさっての方向に飛んで行った。その姿をほほえましく見つめるアルフィリース達。

 穏やかな時間が流れたその刹那。アルフィリースの全身に、まとわりつくような魔力が走った。はっとしたアルフィリースがエアリアルに声をかけ、周囲を警戒する。


「エアリー、今・・・」


 アルフィリースが思わずエアリアルと背中合わせに周囲を警戒した時、既に異変は起こっていた。背中にいるエアリアルが、岩のように動かない。アルフィリースは思わず彼女の肩をつかむが、それでもエアリアルはびくとも動かなかった。


「エアリー? エアリー、どうし・・・」

「その子は動かないよ」


 アルフィリースが静かな声のした方に振り返ると、そこには黒のローブに身を包んだ少年が立っていた。少年は無表情でその眼差しをアルフィリースに向けながら、悠然と歩いてきていた。一見、少年にはおかしなところはどこにもない。顔も整っているし、攻撃性はどこにも見当たらない。アルフィリースに敵意がないのは明らかだった。

強いて言えば、彼は無表情すぎることがおかしな印象だった。それに、別段そこまでの美男子というわけでもないのに、顔立ちがあまりに整いすぎていることも。

それに周囲をアルフィリースが見渡せば、全てが停止していた。エアリアルだけではない。エクラも、ラキアも、ターシャも、飛んでいるユーティまで。水まきをしている水すら止まっているではないか。アルフィリースはこれが時間停止の魔術だと気が付いたが、これほど大規模なものは見たことも聞いた事も無かった。時間操作の魔術は使い手も滅多にいないが、アルフィリースは一応初歩的な物は使える。だからこそ、この状態はどのくらい異常かもはっきりわかる。目の前の魔術は、ほとんど魔法の領域の出来事である。少なくともアルフィリースの視界の全てが、その時を止めているのだから。

 その少年は気が付けばアルフィリースの正面に立っていた。アルフィリースの胸の辺までしか身長のない彼は、しかしながらアルフィリースを威圧するように彼女の前に佇むのだった。


「あなたは・・・」

「私が誰かは問題ではない」


 少年は静かな、しかし毅然とした声でアルフィリースの発言を遮った。有無を言わせない。そういった確たる空気を少年は纏っていた。さしものアルフィリースも少年の威圧感に、一歩後ずさりそうになる。アルフィリースが、こうもたやすく会話の主導権を手放すのは珍しいことかもしれない。

 そんなアルフィリースを見て、少年がアルフィリースに声をかける。


「アルフィリース、君に話があって来た」

「何? 新手のナンパってやつ?」

「この状況で冗談を言えるとはたいしたものだ。だがこちらも時間と機会が惜しい。多少強引にでも付き合ってもらおう。ライフレスの意識が、ノーティスのおかげで逸れているからな。こんな機会は滅多とあるまいよ」

「!?」


 そう言った少年の姿が一瞬消え、次のアルフィリースの目の前に現れた時にその手を掴むと、二人の姿はべグラードから跡形もなく消え去った。その直後、凍った時が動きだすように全てが元通りとなったが、その場にアルフィリースがいないことだけが先ほどと違っていた。


「アルフィ・・・?」


 エアリアルが隣にいたはずのアルフィリースが忽然と消えたことに気が付き、大騒ぎするほんの数瞬前の出来事だった。



続く


次回投稿は、12/9(金)11:00です。

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