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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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新たな仲間、その7~竜との会話~

「ぶくくく・・・ハハハハハ! お、お主・・・よかったのう、可愛らしい彼氏ができて!」

「黙りやがれです、このペチャパイ」


 ついに我慢の限界を迎えたミリアザールが大爆笑を始めた。その横で顔を真っ赤にしながら悪態をつくリサ。そのリサの肩を、腹を抱えながらぽんとミリアザールは叩く。


「まぁ、実際ああいうのは良い男になるぞ? ワシがしっかり育ててやろう」

「あなたに任せておくと、とんでもない方向に成長しそうですが」

「いや、その辺はしっかりやるわい。それでも、お主の要求全てを満たすのは無理かもしれんが」

「あれは口実です。まさか全てに即答して、上乗せまでされるとは思いませんでしたが。凄まじくデカイ賭けに勝った気分です」

「賭けた物は人生・・・というところかの?」

「まあそうですね。でも予想以上の結果が返ってきましたね」


 そう語るリサの顔はとても幸せそうだ。ミリアザールもそんなリサの表情に満足だった。


「(・・・いつみても、人間のこういう顔は良い。ワシは人のこういう顔を沢山見たいのだ。どうやら、まだワシの心は錆びついておらぬらしい)」


 ミリアザールも笑顔になる。だが、リサはそんなミリアザールを放っておいて幸せに浸っていた。リサにとって彼女の両親がいなくなってから、実に8年ぶりに感じる心からの幸せだった。


***


 そして翌朝、リサがいなくなるということを聞きやはりミルチェが少しぐずったが、子ども達が皆して慰めてやっていた。子ども達はそれぞれ悲しそうな顔をするものの、誰も文句は言わなかった。ジェイクの言う通り、可能性の一つとして考えていたことなのだろう。そしてリサが1人1人に別れを告げる。


「それではシスター、皆を頼みます」

「任せるがよい。確かに預かった」

「皆もちゃんとシスターに挨拶なさい?」


 リサに促されて子ども達が一列に並び、揃ってお辞儀をする。


「「「「「よろしくお願いします、ペッタンコシスター!」」」」」


 リサと子ども達がニヤリとする。


「リ、リサ・・・やりよったな!」

「フフフ、その子たちの世話は大変ですよ。それはもう、とてもね」

「・・・フ」

「他人ごとか、アルベルト!?」


 そうやってリサが旅立っていった。まぁ湿っぽいのよりは余程いいだろうと、ミリアザールは納得することにした。子ども達はリサが通りを曲がり、その姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。


***


 一方こちらはアルフィリース達。結局竜を使いフェンナが示す森の近くまで行くことになった。馬などを使ってフェンナを人目にさらすより余程良いのでは、とミランダが提案したのだ。幸いミリアザールが報酬に色をつけてくれたおかげで、随分金銭的には余裕がある。5人で乗れる大型の竜も幸いなことに確保できたので、貸し竜屋が準備をしてくれている所だ。

 アルフィリースはその竜と早速コミュニケーションを取っている。というより、散々舐め回されていると言った方がいいかもしれない。もはや二度目にもなると慣れた面々には感動もないのだろうが、ニアとフェンナは目を丸くしてその光景を見ていた。


「そういえばニアってほとんど荷物ないね。戦う時はどうするのさ?」

「私は武器は使わん、素手でやる。まぁ戦場では手甲や、すね当てくらいは装備するがな」

「素手って・・・危なくない?」

「武器の方が私には危ない。だいたい刃物は敵を斬れば欠ける、折れる。ましてや鎧を着た人間を2~3人切れば、並の剣はダメになる。圧倒的な剣速を持って斬れば脂や血糊もつかないというが、そんな使い手はめったにいまい」

「うーん、そうかも」


 アルベルトなら当てはまるかもしれないが、確かにあれほどの使い手はそうそういないだろうと、ミランダも納得する。


「でも、拳で相手を仕留めるのは難しいんじゃ?」

「いや、私は軍人だからな。戦争において、相手を一撃で仕留めることができればそれは良いが、むしろ重症にして、相手を戦闘不能に追い込む方が重要だ。明らかに死んだ者は見捨てられるが、瀕死の者は周囲の者が助けようとする。そうすれば1人を助けるのに5人の手を必要とする。そうすれば一撃で6人を撤退させるのと同じ効果を持つ」

「なるほど・・・」

「もっと言えば、戦場において一般の兵士はわざと切れ味の鈍い剣を使うこともある。肥溜めの中に刃先を一日浸しておくと、即席の毒の剣の出来上がりだ。これで敵を傷つけるとほぼ確実に熱を出す。そうすれば敵陣に帰った後で、多くの者の手を煩わすだろう」

「そう言われればそうね・・・」


 ミランダも自分では経験豊富なつもりでいたが、良く考えれば自分は魔物相手の戦争に参加したことはあっても、人間同士の戦争には参加したことがない。ニアの話を聞いていると、人間同士の戦争の方が対魔物よりも残酷なのではないかと思えてきた。「う~ん、なるほど」とミランダが唸っていると、くいくいとフェンナがミランダの裾を引いてくる。


「あの~、アルフィリースさんを放っておいていいんですか・・・?」

「へ? そういえばアルフィどうなって・・・って、アルフィが半分くらい竜の口の中に収まってるんですけど―?」


 アルフィリースの上半身が竜の口の中にすっぽり収まり、小刻みな痙攣を繰り返していた。慌てて助けだすミランダ達。まさかの危機であった。


***


「もう、信じられない! 傷になったらどう責任とってくれるのよ!?」

「グ、グアッ!」

「ごまかそうったって、そうはいかないんだからね!」

「ググ・・・」


 そして既にダルカスに向かう空の上である。あの後アルフィを引っ張りだすのに一同はおおわらわだった。少しアルフィリースは死にかけていたようで、綺麗なお城かお花畑が見えたと言っていた。

 竜にしてみればアルフィリースが気に入ったようで親愛の情を示す甘噛みだったのだろうが、大人数を乗せる15m級の竜の甘噛みである。犬や猫とはわけが違うのだ。それでもう竜に乗ってから2刻くらい、アルフィリースがぷりぷりと竜に文句を言っている、というわけだ。

 飼い慣らされた竜が人間に自ら好意を示すことなどあまりないはずなのだが、余程アルフィリースは竜と相性がいいようだ。そんなアルフィリースが不思議なのか、竜の背中に備え付けられた座席からフェンナがアルフィリースに声をかける。


「アルフィリースさん、竜と話せるんですか?」

「え? うん、言ってることはだいたいわかるよ。シーカーってわからないの? 人間とかよりよっぽど竜に近いと思うんだけど」

「森の属性を持つ樹竜とかならあるいは大丈夫かもしれませんが、アルフィリースさんは飛竜の言葉がわかるのですか?」


 フェンナが余計に不思議だといった顔をした。アルフィリースの方はさも当然のことのように話を続ける。


「飛竜の言葉がわかるようになったのは2日ほど前だよ? 以前私が住んでた山の近くに人間の言葉を話せる竜がいたから、その竜に言葉を教えてもらったの。一応竜にも共通言語みたいなのがあるんだって。それがわかったら、後は種族による方言みたいなものだから、とりあえずコミュニケーションには困らないぞって言われたことはあるよ」

「それは初耳です。と、いうより人間の言葉を話すなら、相当に立派な竜では?」

「あー・・・言ってもいいかな? 確か名前はグウェンドルフって言ってた」


 その名前を聞いてフェンナがぽかーんとしている。そんなにすごいことなのだろうか。翼事情の飲み込めないミランダがフェンナの袖を引いた。


「ねぇ、それってすごい竜なのかい?」

「すごいもなにも、エルフの中ですら伝説に謳われるような竜です。おとぎ話だとばかり私も思っていましたが、本当に存在したなんて・・・」

「そんなにすごかったの?」

「ええ、魔術の使い方をエルフに教えた竜とさえ言われます。元々魔術は竜が固有に使うものだったとか」


 その言葉にアルフィリースが反応した。自分でもそこまですごい竜と接していたとは思っていなかったらしい。


「う~ん。いっつも『グウェンおじちゃん』って呼んでたからな・・・よく頭の上に乗って遊んでたし。まずかったかな?」

「ふう・・・恐れ多くて、私にはとてもできません」


 気のせいか、アルフィリースはフェンナに尊敬の眼差しで見られているような感じを受けた。


「そういえばアルフィの小手って最初に見た時から傷一つなく変わらないけど、まさかその竜にもらったとか言わないよね?」

「え、もらったよ? お守り代わりだって。師匠に加工・細工はしてもらってるけど」


 今度は全員のあいた口がふさがらない。そして全員でひそひそ話を始めた。


「(リサさ、あれって売ったらどのくらいすると思う?)」

「(通常の飛竜の爪や鱗の加工でも15000ペントくらいします。武器を一本仕上げるとなれば飼い竜の素材でも最低50000からかかります。ですがそれほどの竜なら間違いなく伝説の防具級の加護があるでしょうから、鑑定がついたら下手したら小さな町一個買えるかもしれません。リサならまず売ろうとすら思いませんが)」

「(私に譲って欲しいくらいだ。100年は欠けも錆びもしないと言われる防具だぞ? 魔術耐性を持つとも言われるし)」

「(というか、持ってるだけでも相当な加護があると私は思いますけど)」


 全員が陰でひそひそと話すのをそっちのけに、まだアルフィリースは竜に文句を言っている。


「(アタシはすごい子と友達になったんだろうか?)」


 ミランダが腕組みをして考え込むのも、無理はなかった。


***


 今回はさすがに一日で行けるような距離ではないので、一行は途中で野宿をした。町に泊らなかったのは、これほど大きな竜を休ませる設備が町の中に滅多にないのと、やはりフェンナを気遣ってのことだった。フェンナは申し訳なさそうにしていたが、別に一日程度の野宿に文句を言うような面々ではない。リサに至っては野宿など経験が無いらしく、興奮して珍しく饒舌になっていた。寝る前にニアに素手で稽古をつけてもらおうとアルフィリースやミランダは挑んでみたが、一歩踏み込もうとすると体が宙に飛んでいた。ニアいわく、初動が一番仕掛けやすいのだそうだ。


「だからというわけではないのだが、人間達がネコ族と呼ぶ我々は初動、瞬発力に優れた種属でな。特に20mまでの動きならどの種にもひけをとらん。だから刀や武器を構えればそれだけ無駄が大きくなり、私達の長所が生かされないんだよ。わかるか?」

「確かに・・・それだけ目の前で早く動かれたら対応できないかも」

「まぁ逆に持久戦は苦手だし、腕力は人間のそれと大差ないがな。そこは技術で補うことにしている」

「そっか、ちなみにニアってグルーザルドでは隊長とかなの?」

「いいや、ただの平隊員だ」


 このレベルで平隊員なら、どうやって人間は獣人と戦争をしていたのか。獣人と戦争するような時代に生まれなくて、心底よかったと思うアルフィリース達であった。


「フェンナは何か武芸が出来るの?」

「私は主に土系統の魔術使いですが・・・私の魔術はちょっと特殊なので。武器でしたら弓ができます。武芸と呼べるレベルかどうかわかりませんが」

「じゃあこれ射ってみてよ」


 不意にミランダがククスの実をぽいっと空中に投げる。瞬間、フェンナは地面に置いていた弓矢を手に取り射かける。見事にククスの実を空中で射抜いた。


「充分すごいよね・・・」

「いえ、私は戦士ではありませんので・・・弓も人間の物ですし、精度がまだまだです。20m以内で誤差が5cmも発生してしまいます」


 それは十分達人級と、世間一般では言っても良いだろう。


「エルフの弓を使えば40mで誤差2cmまではいけると思うのですが・・・私ではその程度です」

「いやいや。普通弓って、20mくらいしか殺傷能力ないはずだよ」

「エルフの弓ですと、男性が射れば60mまでは殺傷能力が保てます。当てるだけなら100mは大丈夫ですが。以前誰が弓が一番うまいか集落で比べた時に、100m先の的に当て続けて、一度でも外れたら失格にするルールでやったのですが、1刻経過して5人が当て続けたので、皆飽きて辞めてしまいました」

「ちなみに的の大きさは?」

「最初はククスの実から初めて、あまりにも皆外さないので、最後は親指の先くらいの木の実になりました」

「・・・エルフともケンカできないわね、これは」


 アルフィリースの感想も尤もである。


 そして尽きない話をしながら夜は更けていく。リサがネコじゃらしでニアをからかっていたが、アルフィリースは放ってくことにした。まさか翌日、2人とも寝不足になるほど熱中したとは想像だにしなかったが。


***


 翌日の昼過ぎにはダルカスの森の玄関口に着いた。普通の人間が竜を駆るより倍以上早いペースである。

 ダーヴの町。人口3万人に届かないくらいの、ミーシアに比べれば小さな町だが、そこそこに活気はる。ダルカス自体が辺境にあるものの、森の資源(材木、木の実、薬草など)が豊富であるため、人口は辺境の割に多い方だ。

 また森からの魔物が頻発し、森を挟んで4つの国が隣接する地帯のため、クルムスの国境警備の兵や傭兵の姿がここかしこに見える。そういった武装した連中が多い割には辺境で自然が多いせいか、ほのぼのした雰囲気が町全体に漂う。兵士達も堅苦しい恰好はしておらず、そのあたりで野菜売りの露店の店主と座って話しこんだりしている。平和なクルムスの人の気質なのかもしれない。とてもエルフの里に攻め込むような人間達には見えなかった。

 とりあえず情報収集のため、アルフィリース達は町に来ている。一応フェンナにもフードをかぶせて同行させているが、町に物々しい雰囲気はなさそうだ。特にクルムスが兵士を動かしたような気配はない。


「この穏やかな雰囲気・・・クルムスではなかったか?」

「しかし可能性は一番高いと思います。他の三国からシーカーの里に入るのは、地形の関係でかなり難しいですから。ダルカスを資源として利用しているのが、そもそもクルムスだけだと聞いていますし」

「もう少し探ってみましょう」


 ニア、フェンナ、ミランダが色々話し合っている。その辺の軍事事情に疎いアルフィリースとリサは、いまいち話についていけない。


「もうちょっと私も、色んな国や土地について情報を集めないとダメね・・・」

「リサも同感ですね。これからは諸国の情報についても敏感にならなくては」


 アルフィリースとリサがそんな考えに耽っていると、横の通りに人だかりができているのが見えた。


「ねぇ、何かしらあれ?」

「さぁ。行ってみましょうか」

「厄介事だとひしひしと感じるのは、リサだけでしょうか」


 ともあれ全員で近づいてみると、どうやら人が倒れているようだだ。男のようだが、顔は見えない。なぜだか、ミランダが妙に顔を輝かせている。



続く


閲覧・評価・ブクマありがとうございます!


次回投稿は11/1(月)12:00です。


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