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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第二章~手を取り合う者達~
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難題、その12~竜の事情~

「あ、あ・・・なんでここにっ!」

「こういうところにいると予想できてしまうのが、我が姪ながら悲しい限りです。まったく、またふらふらと一人で出歩いて!」


 現れたのは、蒼天を想起させる青髪の女性。透き通るような髪色と、人間離れした高貴さに思わず賭場の者達の視線がその女性に集まる。その中を悠然と歩く女性は賭けに負けた女性につかつかと近寄ると、その耳をつまみあげた。


「また賭場で遊んでいるのですね、ラキア!? こういう場所に出入りするのは止めなさいと、あれほど言ったでしょう?」

「そ、そんな事言ったって・・・楽しいんだから仕方がないじゃない!」


 ラキアと呼ばれた女性は、自分を掴む手を振り払いながら怒り始めた。余程賭場に来るのが楽しみだったのか。目には少し怯えの色が見えつつも、するらすらと言い訳しながら怒りの色を露わにする。


「ノーティスおじさんも言ってたじゃない、こういうのが人生の楽しみだって! そりゃあ自然と戯れるのも嫌じゃないけどさ、毎日毎日そればっかりじゃあつまらないんだもん! 刺激が足らないのよ!」

「あの不良の言う事を真に受けて・・・この不良娘にはもう一度お説教が必要ですね!?」

「私の親でもないのにそういうこと言うのは止めてよね、マイアおばちゃん!」


 その一言が妙に賭場に響くと、はっとラキアは我に返った。その瞬間、マイアが少し俯いたのを見てラキアはがたがたと震え始めた。

 その光景を見ているのはアルフィリースとグウェンドルフである。先ほど宿泊場所にやってきたマイアをここまで案内してきたのはいいが、全く何が起こっているのかわからない。いや、グウェンドルフだけは全ての事情を察しているかのように、眉間に指を当てていた。


「ラキア、言ってはならない一言を・・・」

「え?」


 グウェンドルフがぽそりと言った事をアルフィリースが聞き返す暇もなく、マイアから静かな殺気が場に放たれ始めた。美しさからは似合わぬその殺気に、その場のならず者達がマイアからじりじりと距離を取り始める。

 その肩を振るわせるマイアを見ながら、急に借りてきた猫のように大人しくなったラキアが、先ほどの言葉を取り繕おうとするが。


「ふふ、ふふふふ」


 マイアは嫌な笑いを浮かべていた。それを見て汗をかき始めるラキア。


「あ、あのね? さっきのは私とマイアお姉ちゃんの血縁関係を端的に露わしただけであってね? 決して歳の事を言ったわけでは・・・」

「誰がおばあちゃんですってぇ!?」

「そこまで言ってない!」


 時はすでに遅かった。この後、賭場は血の雨がふる惨劇の場と・・・まではいかないが、ラキアにとっての修羅場であったのは間違いがなかった。


***


「うう・・・ぐすん」

「だから貴女はあれほど私が・・・」

「まあまあ。その辺にしてあげなよ、マイア。ラキアも反省しているだろう」

「いーえ! だから貴方は甘いというのです、グウェン! だいたい貴方だって・・・」

「し、しまった」


 お尻百叩きどころではすまずに泣き始めたラキアを庇おうとしたグウェンドルフだったが、今度はグウェンドルフがマイアに怒られ始めた。どうやらマイアの怒りは先ほどよりはマシなものの、まるで収まる気配がない。マイアの剣幕に、さしものグウェンドルフもたじたじである。余計な事を言ってしまったと、後悔するグウェンドルフ。

 場所は既にアルフィリースの宿である。なぜかあの後、マイアとラキアはアルフィリース達が帰る方向に付いてきたのだった。なぜそうなったのかは誰もわからなかったし、マイアがラキアを怒鳴りながら歩いていたので聞けなかった。最初は何事か反論しようとしたラキアも、何か言うたびにマイアの怒りを買うだけだと気が付き途中からは反論を止めたものの、既に怒り頂点に達していたマイアの説教は延々と続いていた。そして終わらぬ説教に、ついにラキアはべそをかき始め、アルフィリース達は周囲の視線が痛く、一緒に泣きたかった。まだこれが夜更けなので幸いしたのだろう。

 賭け事の最中はあれほど堂々として見えたラキアの姿も、地面に正座させられて頭ごなしに怒られては、威厳も何もあったものではない。その光景を不思議そうに見つめるアルフィリース達。


「なんでこんなことになったんだっけ?」

「さあ? 私にもわかんないよ」

「だがアルフィリース、もしや彼女達は」

「エアリーもそう思った? 私もそうだと思うし、それしかないよね。グウェンドルフにあれだけの口がきけるんだから」


 そっとアルフィリースに話しかけるエアリアルに、アルフィリースが同意する。その時、宿の部屋の扉が開いた。


「ただいまリサが帰ってきました、出迎えやがれ下僕共、と」

「どんな横柄な『ただいま』だよ」

「誰が下僕だ、誰が」


 人間の姿になっていたインパルスとロゼッタが思わず突っ込んだが、リサはマイアとラキアにいち早く目を向けた。もっともリサの事だから入る前には気がついてはいたはずだが、二人の存在に割と驚いてはいるようだった。その傍にジェイクがいることを考えれば、ある程度目端の利く者はすぐに察したのである。

 そしてリサの帰還と共に、ちょうどマイアの言葉が切れる。そこにすかさずリサが横やりを入れる。


「なんですか、これは。新人による、新人のための、新しいプレイ?」

「そんなわけはないでしょう。私達もよくわかりはしないけど、グウェン? そろそろ話してはくれないかしら」

「あ、ああ。いいだろう」


 その言葉にグウェンドルフもほっとしたのか、気を取り直して話し始めるところだった。


「彼女達は――」

「真竜よね? もうバレているとは思うけど」

「・・・恥ずかしながら、その通りだ」


 アルフィリースの言葉に意外そうな反応を示す者はあまりいなかった。グウェンドルフと対等に話すマイア。アルフィリース達にとって、おのずと答えは一つである。その事にあっさり気が付かれたグウェンドルフは多少悲しそうな顔をした。


「まったく・・・人間にこれほど簡単に正体を晒すわけにはいかないというのに。いかに私の恩人といえどね、もう少し真竜としての矜持を持ってほしいものだ。そういう意味では私よりも君の方が自覚があっただろうに、君ともあろう者がどうしたんだい、マイア」

「聞いてくれる、グウェン兄さん」


 これまた先ほどまで威厳と怒気に満ちていたマイアの表情が一転、少女のようになる。


「ラーフォンったらひどいのよ? 私はそろそろ子どもが欲しいって言ったのに、私から仕掛けたら『俺は疲れているから寝る。それに女がはしたないことを言うな』ですって! 考え方が古いのよ、もう!」

「いや、そっちではなくてだね・・・」

「ラキアのこと? この子ったら、私の妹がちょっとこの大陸を留守にしているのをいいことに、すぐに人間に変化して賭場に行くのよ? 私の言う事なんてちっとも聞かないし、私もう悲しいやら情けないやら腹が立つやらで・・・」


 そのまま言いたい事を言い切ったマイアがしくしくとグウェンドルフの前で泣き始めたので、グウェンドルフも困ってしまった。グウェンドルフは慣れた手つきでマイアの頭を撫でると、彼女にだけ聞こえるように何かを耳打ちしているようだった。その光景をただ困惑に彩られて見つめるアルフィリース達。

 そしてしばらくの後。



続く


次回投稿は、10/2(日)16:00です。

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