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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第二章~手を取り合う者達~
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難題、その5~再会~

「まあミランダの頼みもあるし、以前ミランダの事を頼んだ手前もある。無利子で300万、そなたに貸し付けてもいい。なんなら大口の依頼などの橋渡しもしてもいい。こう見えて諸国に発言権や貸しがあるからのう」

「本当!?」

「ただし」


 ミリアザールが掌をアルフィリースに向けて、彼女を制する。


「貸し付ける前に一つこっちの依頼も聞いて欲しい。なに、そう難しくもない」

「やっぱりそう来るわよね。で、何かしら?」

「うむ。恥ずかしい話しじゃが、最近このアルネリアでは奇妙な事件が頻発しておってな」


 ミリアザールの額に皺がよる。それだけ困っているという事なのだろう。


「行方不明の者が定期的に出ているのじゃ。まあそれなりに大きい都市じゃからそんなこともあるのじゃが、今までは年間に数名程度じゃった。それがここ二月ほどで、既に10名を越えておる」

「たまたまじゃなくて?」

「為政者に『たまたま』で済まされたら、行方不明の本人も、その家族や友人も浮かばれんであろうよ。アルネリアは安全性と戸籍の管理は大陸では随一を謳っておるぞ?」


 そう言うミリアザールの表情は真剣そのものだった。その表情に、アルフィリースもまたミリアザールに対する評価を多少改めた。口調や正体はどうあれ、彼女はやはり統治者なのだ。


「じゃあ行方不明者の捜索に協力したらいいということ?」

「ああ、リサが主になるだろうがな」

「失せ物、探し人は私の最も得意とする所です。一発でずばっと、まるっと解決しちゃいましょう・・・と言いたいところですが」


 リサがち、ち、ちと指を横に振る。


「アルネリア教会ならばそれなりの裏方もいるでしょう。例えば楓のような者も多数いるはずです。それが、この膝元であるアルネリアで何も掴めないと?」

「これは痛いところを突く」


 ミリアザールが眉間にしわを寄せて渋い顔をした。だがその発言はやはり至って真面目なままだった。


「恥ずかしい話じゃが、なぜか正体がつかめない。いや、容疑者に関しては実は絞り込んでおる。じゃが、証拠が無い。それにお膝元じゃからこそ、堂々と口無し共を動かすわけにもいかん。ここの事件はまず市井の役人が解決し、それでだめなら外部の志願者で構成される周辺騎士団、そして神殿騎士団の順番に動く。その神殿騎士団ですら存在をほとんど知らない連中――口無しが動けば、より面倒なことになることもあろう。彼らは最終手段よ」

「なるほど、そういう話でしたらこの私が最適なのも頷けます。いいでしょう、ばっちり引き受けました」


 リサが親指を立てて「任せとけ」と主張した。そうしていつくか細かい話を決めた後、戻って来た梔子が別の客の来訪を告げる。


「教主、お客様がお見えに」

「おお、そうか。そういえば夕刻から話し合いの時間じゃったな。呼んでくれ」

「席をはずしましょうか?」

「いや、よい。貴様達にも懐かしい顔じゃろう」

「?」


 そう言って入って来た客は、アルフィリースもよく知る人物であった。


「失礼いたします、フェンナ=シュミット=ローゼンワークスとその他数名、入ります」

「フェンナ!?」


 お辞儀をして入ってくるフェンナに、彼女が顔を上げる前にアルフィリースは飛び付いた。


「ア、アルフィ?」

「元気にしてた!? 無事だとは聞いていたけど、久しぶり!」

「私は元気に・・・く、苦しい」


 そしていつものように、アルフィリースの力一杯の抱擁による犠牲者が一人。彼女はやはり何も学んでいなかった。


***


「じゃあシーカーにも行方不明者が?」

「ええ。最初は私達が疑われたのだけど、シーカーにも行方不明者はいまして。それも複数名」

「そのことで、フェンナとも対応策を練っていたのだよ」


 アルフィリースをフェンナから引っぺがして、一段落ついたミリアザールがお茶をすすりながら答える。どうやら事態はアルフィリースが考えるよりも深刻であるようだった。


「なら、すぐにでもリサが動いた方がいいですね」

「それもそうじゃが、まずは長旅の疲れを癒すがよかろう。今までの経過は今日中にまとめて書面に起こしておく。それを聞いてから動いた方が早かろう。それに、愛しのジェイクにも会いたいのではないか?」

「ぶふっ!」


 珍しいことに、リサがお茶を噴き出していた。もちろんその被害を受けたのはアルフィリースで、ルナティカは流石しっかりと避けていた。


「ちょっと、リサ!?」

「あ、いえ。まあ水も滴るイイ女ということで」

「滴っているのは水ではなく、茶」


 ルナティカの冷静な否定にも、リサは動揺を隠せないでいた。彼女がここまで動揺するのは珍しい。その様子をニヤニヤしながら見つめるミリアザール。


「ちょうど今日の授業が終わる頃であろう。イライザにでも案内させよう」

「必要ありません、既に場所は感知済みですから。ルナティカを伴って私は行きましょう。では私はここで失礼を」


 そそくさと出て行こうとするリサだが、ルナティカがその足を止める。


「リサ、出て行く前に一つ」

「? 何か?」

「フェンナ、だったか?」

「あ、はい」


 突然ルナティカに名前を呼ばれたフェンナが、びっくりして居住いを正す。ルナティカはその後ろにいる女性を指さしていた。


「シーカーというのは、体の中に虫を飼うのは普通か?」

「は? 一体何を・・・」


 フェンナが質問の意味がわからず言葉に詰まる中、既にルナティカ、ミリアザール、梔子が動いていた。そしてフェンナの後ろの女性も。

 ルナティカの動きは速かった。フェンナを後ろから羽交い締めにしようとする女性の両手を片方はへし折り、片方には短剣を突き刺していた。そして一瞬のひるみを見逃さず、その首をへし折ったのだ。フェンナは梔子が庇い、女とフェンナの間にはミリアザールが割り込んでいた。

 そして首を折った女を蹴飛ばすルナティカ。ルナティカの動きの早さをミリアザールが褒める。


「よく気付いたな」

「体幹の筋肉の動きがおかしかった。それでしばらく観察していたが、体の中に大きな虫がいるかのようだった。それだけだ」

「よくぞ気づいて・・・リサでも気づかなかったのに」

「よくわかったわねぇ」


 首が折れてあらぬ方向を向いた女から声が聞こえる。首が折れたまま女は立ちあがり、うつろな目でアルフィリース達の方を向いた。その不気味な光景に、一同が警戒心を上げる。


「私の寄生、見破られたことはないんだけどね?」

「見る者が見ればわかる。センサーはごまかし慣れているだろうが、私はそうはいかない。それにあえて言うなら」

「あえて言うなら?」

「口から異臭がした。有り体に言えば、臭い」


 その瞬間、虚ろな眼の女の焦点が一致してルナティカを睨みつけた。


「・・・その言葉をこの短期間で二度も言われるとはね。人間は度し難いほど腹立たしい生き物だわ」

「それはこっちのセリフじゃ、女。貴様が連続行方不明の犯人かの?」

「それは・・・」

「半分だと思う」


 ルナティカの言葉に、女も含めた全員がぎょっとした。対するルナティカは極めて冷静だったが。皆が驚く中、ルナティカは冷静に語り始める。


「ここに来る途中、奇妙な人間を見た。普通の人間は話す時、動く時、黙っている時、何か動作を変える時、体に微弱だが確かな変化が訪れる。私が見たのは道端で会話をした後急に用事を思い出したのか、突然走り始めた人間だった。だが、彼は走っていてもまるで心拍も、呼吸も何も変わらなかった。あれは人間じゃない、人間の体の作りに反している。きっと人間のふりをした何か。犯人かどうかは別として、捕まえる価値はある」

「なるほど、それは興味深い話じゃ。ではまずこいつを締め上げるとしようか」

「・・・何者よ、あなた」


 驚愕に見開かれる女の瞳。その瞳に映る、銀の髪の少女。端麗な容姿に、冷たい茶色の瞳。刺すような視線が、女を射抜く。


「ただの殺し屋。それ以上も以下もない」

「・・・貴女の顔は覚えたわ。覚えておきなさい」


 その言葉を言った瞬間、ミランダとエルザがアルフィリース達を庇うように防御魔術を使った。同時に、女が自爆する。

 飛び散る血煙に、一瞬全員の視界が遮られた。


「くっ」

「マスター!」


 叫んだのはミランダ。だが彼女の心配もよそに、ミリアザールには当然のように血の一滴すらもついていなかった。


「心配無用。あの程度で手傷を負うワシではない」

「ならいいけどさ。それにしても、躊躇なく自爆したね」

「所詮捨て駒なのじゃろう。一部は確保したがな」


 ミリアザールが左手に掴んだ虫の一部を全員に見せた。ミリアザールはあの一瞬に、虫の一部を女から引き抜いていたのだった。そして異変を感じた神殿騎士団や女官達が走って駆けつける。



続く


次回投稿は、9/22(木)18:00です。

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