新たな仲間、その2~リサの事情~
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「ただいま」
「あ、リサねーちゃんだ」
「「「おかえり~!!!」」」
「元気にしていましたか、このチビども?」
「トーマスがおもらしして大変だったんだよ~」
「じぇいくがとーますをいじめるからいけないんでしょ?」
「ちょっとこずいただけだろ~」
「ふああ~ん! ネリィが私のお人形取った~!!」
「ちょっと借りただけじゃない!」
リサの家は凄まじい騒ぎである。いや、正確にはリサの家ではない。その辺の空き家を勝手に拝借しているだけの、仮住まいですらない状態である。近隣の住人や、土地の持ち主はあらかじめリサがしっかり弱みを握っているため、誰も文句は言わない。街の戸籍すらごまかした。迷惑がられているのはリサの耳にもちょくちょく入って来るが、誰もどうしようもないことも事実である。
ここには孤児ばかりが9人ほど暮らしており、リサ以上の年長者はいない。その年齢は、リサの次に年長のジェイクが10歳、一番年下のトーマスにいたってはまだ4歳だ。なにせ、そもそもリサ自身が孤児なのだから、やむをえない。
リサが必死で依頼をこなすのは、彼ら全員を養う必要があるからである。最初はジェイクを拾ったのだが、年を重ねるごとに人数は増えて行った。そのため、徐々にリサの収入では稼ぎが追いつかなくなってくる。今回リサがアルフィリース達に声をかけたのも、大口の依頼の可能性があったからである。そうでなければ、あのように怪しい依頼に手を出すほど、リサは博打打ちではない。
「とりあえず食べる物を買っておきました。今夜もリサは遅くなりそうなので、ジェイク? チビ共をよろしく頼みます」
「またリサ姉、遅いの?」
「報酬をきっちり受け取らないといけませんので。今回は良い仕事ができたので、収入も大きいでしょう」
リサのその言葉に、子ども達の顔が華やぐ。
「じゃあさ、新しい服買えるかな?」
「生地を買って、自分達で作ったほうが安いよ!」
「そろそろ雨漏りも大きくなってるから、そっちが優先だよ」
「扉もガタが来てるけど」
「わたしのお人形は~?」
「そんなもの我慢しなさい!」
「うわーん! 新しいお人形欲しい~!!」
「・・・わかりました。ミルチェの人形が買えるようにふんだくってきましょう」
「リサ姉、ホント?」
とても10歳にも満たない子ども達が交わす会話での内容ではない。本当は子ども達には何不自由なく育ってほしいと願うリサだったが、自分のセンサーランクではそうもいかない。しかも人探し、物探しの依頼だけでは、中々高収入は得られない。
本当は今回のように街を出る依頼を受ければ高額の収入が得られるのだが、幼い子ども達を何日も放っておくのは心配だった。また自分が盲目の女、しかもどうやら見た目はそんなに悪くない、いや、下手をすればかなり好まれる容姿なのだと気が付いてからは、男と組むような依頼は全て断っていた。自分の身が男であれば、と何度呪ったかしれないリサである。だが子ども達を見捨てるような選択肢もまた、リサには絶対にありえなかった。
そして、ミルチェがリサの言葉に期待を膨らませて、返事を待っている。リサとしては、こういった子ども達の期待を裏切る人間にだけはなりたくなかった。
「リサが嘘を言ったことがありますか?」
「ううん」
ミルチェがふるふると首を横に振る。
「では良い子にして待っていなさい? 明日は休みを取ってあります。久しぶりに皆で過ごしましょう」
「リサ姉おうちにいるの!? やったー!」
「リサ姉にお本読んでもらうの~」
「リサねぇ、ぼくとでーとしようよ!」
「どこでルースはそんな言葉を覚えたの? そういうの、『10年早い』っていうんだよ?」
「ルースがふりょうになっちゃった」
きゃっきゃっと子供たちがはしゃぐ。その光景を感じとり、リサは思わず微笑んだ。これがリサが街を出られない理由だった。だが今回、かなり生活が切羽詰まって高額の報酬を受けたかったとはいえ、なぜ魔王討伐などの危険な任務を受けたのかは、リサにも不思議であった。今までも、少しでも危険なにおいがすれば避けてきたのに、気づけばアルフィリースの裾を引いていた自分がいたのだ。自分の行動、感情が理解できないのは、リサにも初めての経験だった。
そして子ども達の笑顔を見る度に、なぜか胸の奥がもやもやするリサ。どうしてなのかリサは自分にもわからない。気のせいと胸の奥に押しこむには、大きすぎる不快感だった。
その時、不意に背後から声がかかる。
「ほ~う、それがヌシが働く理由か」
「・・・どちらさまで?」
「リサ殿、突然の訪問をお詫びします」
いつの間にか、ドアのところにアルベルトがシスターを連れて立っていた。いや、立ち位置からすれば、アルベルトがシスターに連れられているのか。
「(リサがこんな近くに接近されるまで気付かないとは、何者?)」
「突然の訪問は詫びよう。じゃがおぬしに言っておきたいことがある。無理にでも失礼いたすぞ」
「ここではなんです、奥の部屋へどうぞ。ジェイク、リサはこのシスターと話があります。すぐ済むので、皆とご飯を食べていなさい」
「わかった」
ジェイクと呼ばれた少年が子ども達を連れて移動しようとするのを見て、ミリアザールもアルベルトを促す。
「アルベルト、子供の面倒をみてやれ」
「わかりました」
不安そうに見守る子供達の頭をなでてやり、食事を食べる部屋にリサは促す。そして自分はシスターと共に奥の部屋へ向かった。
「で、どちらさまです?」
「これは失礼をした。ワシはシスター・ミリィ。おぬしに頼みたいことがあって参った。突然の訪問を許されよ」
「正規の依頼ならば、ギルドを通してほしいのですが?」
「正規の依頼として扱ってほしいが、ギルドは通せぬ。その分報酬ははずむつもりじゃ」
「なるほど、魔王討伐はあなたの依頼でしたか」
「さすがに鈍くはないのう」
「当然です」
2人は腹の内を探るように会話を交わす。
「で、依頼とは?」
「簡単じゃ。アルフィリースとミランダに、以後も同行してほしい。半永久的にの。報酬はここのチビ達の面倒を、ワシが一生見ること」
「・・・体のよい人質ですね。依頼というより脅迫ですか?」
リサが目つきを強めてミリアザールの方を向く。実際に見えているわけではないが、目が見えていた時の癖で思わずそうしてしまうのだ。
「これ、そのように物事を斜めに受けとるでない。これはそなたには破格の条件だと思うがな」
「なぜです?」
「親もおらず、下手をすれば戸籍もないお主たちがこれからどうやって暮らす? 子供達はまだ増えるかもしれぬ。だがこの街の依頼だけで、果たして養いきれるかのう? また貴様が家におらぬときに火事でも起きたら? 強盗が入ったら? またお主が依頼先で死んだら??」
ミリアザールが指摘するその可能性は、リサも考えなかったではない。だが解決策もなく、できるだけ都合の悪いことは考えないようにしてきた。そういう点ではいくら大人びて見えようが、リサもまだまだ子どもだったのだろう。
「・・・嫌なことばかり言いますね」
「じゃが一家の長ならば考えて然るべきことじゃ。今は良いかもしれぬ。じゃが学も戸籍も技能も何もなければ、まっとうに働くことはかなわぬ。子ども達が成長し、行動範囲が大きくなるに従って世間を知る、欲も出る、自分を試してみたくなる。じゃが日の目を見れないあの子達は、間もなく犯罪に手を染めるじゃろう。窃盗、恐喝、売春・・・殺人もあるやもしれぬ」
「随分と言いたい放題ですね。そんなことはリサがさせません!」
「いや、防げんな」
「貴女に何がわかりますか!?」
珍しくリサが声を荒げた。
「大人など信用できません! 自分達の都合で子供を捨てる、虐待する。そんな光景はもうたくさん! リサがあの子達を育てきってみせます!」
「じゃがこのままではそれはできんな。今は大きな問題も起こっておらぬようじゃが、一つ問題が起きればこのような生活はすぐに破綻する。むしろ今まで破綻しておらぬのが奇跡じゃわい」
「ならばどうしろと!?」
「じゃからワシが預かると言うておろうが。ワシは親がいない子供達がどうなるか、腐るほど見てきた。それはもう、イヤと言うほどにな。だいたいが野垂れ死に。よくて奴隷として買われて変態の慰み物、あるいは魔物や魔獣に襲われる・・・ロクなもんではない」
「・・・貴女はいったい何者ですか?」
「想像はついておるんじゃないかの?」
ミリアザール不敵な笑みを浮かべる。リサは言葉にすべきかどうか躊躇ったが、沈黙は無駄だと判断した。
「・・・少なくとも、アルネリア教の司教以上。おそらくは最高教主・・・」
「なぜそう思う? ワシはこのような幼い恰好じゃが」
「アルベルトは『ミランダ様』と言っていました。それは、彼が司教以上の身分に敬語を使う立場であることを示します。ですが行動するときの立ち位置や、仕草からはそれほど身分的な違いはないようでした。それが先ほどの彼は忠実な番犬のように、貴女の命令をただ待っていた。それは貴女の立場が司教より高いことを意味します」
「ふむ、で?」
「貴女の持つ気・・・存在感とこれほどの魔力を兼ね備える者がただの大司教程度だとしたら、魔王や魔物など既にこの世から廃絶されていてしかるべきかと。もっとも最高教主が魔物だとは、さすがの私も想像してませんでしたが」
「そこまでわかるか。素晴らしい!」
パチパチとミリアザールは素直に讃嘆の拍手をした。だがリサは先ほどから、だらだらと脂汗をかき始めていた。それはそうかもしれない。最初は分からなかったが、今やリサはミリアザールがどのくらい強いかわかってしまっている。魔王との戦いの副産物とでも言うべきか。昨日戦った魔王など、おそらくは一ひねりにするほどの圧倒的存在感。
このようなレベルの魔物が存在すること自体が既にリサの想像をはるかに超えており、またそんな危険な存在をうかうかと自分の家に上げたことを心底後悔していた。
「(な、なんて・・・なんて魔力と気の量! 昨日やりあった魔王なんて、目の前の存在に比べたら子供みたいなもの・・・このような存在がリサ達を敵視したら、どうやっても生き残るのは無理です。なんとかしてチビ達だけでも逃がさないといけないけど・・・アルベルトがこいつに忠実な騎士だとしたら、もう打つ手が無い)」
リサの頭の中で思考がめまぐるしく回転する。が、どう考えても対策がみつからない。そんなリサの内心をよそに、ミリアザールが言葉をつなぐ。
「そこまでわかっとる者に遠慮は無用じゃな、貴様にもワシの真の姿をみせてやろう。これを見せるのはアルベルトに続いて、貴様が生きている者では2人目じゃ。ミランダにも見せたことはない。喜べ、普通は殺す者にしか見せん」
だがその言葉も、もはやリサには聞こえていなかった。膨れ上がるミリアザールの気を直に察知してしまったのである。なんとか震える足を踏ん張ろうとしたが、遂にこらえきれず、リサはその場にへたりこんでしまった。
「あ・・・あ・・・」
ミリアザールに姿が変形していく。体には金の毛並みを纏い、尾が生えてくる。今回は人相が変わるほどの変身をしてはいなかったが、その姿は明らかに人とは異なっていた。
そしてゆっくり近づいてくるミリアザールが、あまりの気に圧倒されて朦朧とするリサには非常に遠い出来事のように感じられる。やがてリサの目の前まで来たミリアザールから、尾が延びてリサに巻きついてきた。リサは微動だに出来ない。その心中に去来する感情は、成すすべもなくただ怯えることしかできず、子ども達を守ることもできない自分の無力さへの絶望だった。
「(リサは・・・こんなところで死ぬのですか・・・)」
圧倒的な力の前に思考が停止し、何も考えられない。あるのはただ死への恐怖だけ。死に怯えるちっぽけな自分を自覚できるのに、現実感がない。死ぬ時はこんなものなのかもしれない。リサがそう思ったとき、
ふわり・・・
と頭をなでられた。リサが何が起こったかわからず、きょとんとする。
「む、ワシの尻尾は気持ち良くないかのう? 結構自慢なのじゃが」
「・・・は?」
「おぬし、ワシに何をされると思うておったのじゃ?」
「・・・紛らわしいです、コンチクショウ」
リサがはぁ~、とため息をつく。
「てっきり殺されるかと」
「その気なら、挨拶ぬきでやっとるわい。相手に信頼してもらうなら、まずこちらから善意を見せないとのう」
「それもそうですね。ところで、なぜ尻尾ですか?」
「おぬし、頭をなでてくれるような人物はおるかの?」
「いや、貴女の言ってる意味がリサには不明です」
「子ども達はお主に甘えれば良い。じゃがお主は誰に甘える? まだ誰かに甘えてもよい年頃じゃろう」
リサの目が大きく見開かれる。そのような言葉をかけられたことは、かつて一度もなかった。誰かに甘えてよいなどと考えたこともない。実の親ですら、そうさせてくれなかった。リサの目に熱いものがこみ上げてくる。
「な・・・ぜ・・・」
「んー? いや、使い魔を通してお主を見ておって心配になってな。昔ワシがつらい時に、こうやって頭をなでてくれる者がいた。ワシにとってはとても幸せな記憶であり、その者がおらねば今頃ワシは魔王と呼ばれる立場になっていたじゃろう。ずっとその者の傍におれればよかったのかもしれんが、あいにくとそのような時間は長くなかった。ま、こういうのは順番なのじゃろう。だからお主にも自分を見守る者がおることを知って欲しかったのだよ。このままでは子ども達よりお主の方が早くダメになる。もっとお主は好きに生きてよいのではないか?」
「もっと自由に・・・」
リサがその言葉を噛みしめるように繰り返した。
「それにやがては子ども達もお主の手を離れていく。育てる者は、そのことを踏まえて育てねばならん。子ども達がきちんと自立できるようにな。ワシらの役目は、子どもが自らの未来を掴めるように選択肢を用意してやることじゃよ。そのためにはまず、お主が自分の人生を掴みとらんとな」
「そう・・・ですか・・・」
「ところでワシの尻尾は気持ち良いかの?」
「はい、とても・・・」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
ミリアザールがふっふっふっ、と自慢げに笑う。リサはしばらくなでられるがままにしていたが、疑問があったので聞いてみようと思った。
「聞きたいことがあるのですが、よいですか?」
「うん? まあモノによるが」
「なぜ魔物が教会の教主などに?」
魔物は人間とは相いれないとリサは思っていた。それは全世界共通の認識であろう。まさか人間の最大勢力の一つの長が魔物などと、信じることができない。
「話せば長いが・・・まあ、隠すほどのことでもない。ワシは非常に希少な種じゃ。今ではワシ以外の仲間は死に絶えた。ワシらの毛皮や尻尾は非常に貴重じゃとされてのう。また魔物としても大した力を持っておらんかったため、人間からも魔物からも狙われ続けた」
昔を思いだすミリアザール。彼女が生まれたころには、既に種は滅びに瀕していた。
「もう随分前のことじゃが・・・そんな中でもワシはさらにはみ出し者でな。尻尾の数がワシらは普通4本なのじゃが、ワシだけ5本あった。それだけの理由でワシは同族からも迫害対象になったよ。もはや総勢100体もおらぬほどに少なくなっておったのにな。実につまらんことよ。人間も魔物もどこの世界も同じじゃ。人とは違う者を恐れ、蔑む」
「・・・」
「仲間に追われ、魔物に追われ、人間に追われ・・・気がつくとワシは人間の村に迷い込んでおった。そこでも散々追い回されて力つきてな。ここまでかと覚悟を決めた時に1人の女性にかばってもらった」
「人間に?」
リサの言葉にミリアザールはしっかりと頷いた。
「そうじゃ。その女は、当時まだ魔術という概念が普及していないにもかかわらず、回復魔術を使いこなしておってな。村人からは非常に大切にされておった。まぁそれ以上に、人柄が素晴らしかったのじゃが。ともあれワシは彼女に助けられ、とても大切にされた。よく彼女の膝の上に乗っかって頭をなでてもらったよ。そのうち村人もワシに良くしてくれるようになってな。ワシは初めて自分の居場所を得られた気分じゃった」
「・・・」
「そんな折、その女に花を摘んでやろうと思い、森に半日ほど入っておった。そして帰ると、村は魔物に襲われて全滅しておった。魔物が憎かったが、いかんせんワシは当時弱かった。何もできず逃げ出し・・・そしてなんとか生き延びたワシは修行を積み、数十年後、その魔物達をこの世から種族ごと根絶やしにした。じゃが・・・」
ミリアザールが一間おく。
「すべて終えてむなしいだけじゃった。村人達がかえってくるわけでなし、当時の生活が戻るわけでもなし。人生の目的も無くし、1人になったワシは本当にやることもなくなり、そこかしこを放浪するうちに行き倒れの人間を助けてな。それがワシに非常に感謝しよるのじゃ。魔物のワシになぜ? と思ったが、ワシは自分の姿をよく見ると、いつの間にか人間と同じになっておった。ずっと村人の仇を討つことばかり考えておったからか。理由はわからんがの」
「自在に?」
「ほぼ、な。さすがに骨格を変えるのはかなり力を要するから、気安くはできんが。顔形はワシを助けた女がどうやら元になっておるようじゃ。ともあれ、ワシはそれから人助けをして回るようになった。その男もワシに付いてくるようになってな。初めての部下じゃった。それからワシと行動を共にするものは次々と増えていき、紆余曲折を経て今のアルネリア教になった」
ここまでの話を聞いて、リサは納得がいった。アルネリア教がゆきずりのように成立したとは驚きだが、やっていること自体は間違ってはいないだろうとリサは思う。
「なるほど」
「じゃからワシにとって孤児を助けるなぞ、日常茶飯事なのじゃよ。心配はせんでええ。孤児でもきちんと教育を施し、機会を与えれば立派に成長する。アルネリア教に仕えんでも、他の国でも士官の口はある。孤児から騎士になった者、町を作った者、なんなら国を興した者までおったな。ラザール家の初代も孤児じゃしの」
リサは言葉がなかった。ミリアザールは気の遠くなるような年月、人間の守り手であり続けたのだ。そしてこれからもそうだろう。彼女なら信頼できるかもしれない。初めて信頼する目上の者が魔物とは、実に皮肉なものだが。いや、既にアルフィリースも信頼しているか、自分は。
「で、ワシのことはしゃべったが、自分のことはどうじゃの? どうせ誰にも話したことがあるまい。話すなら今がよい機会じゃとは思うがな」
「聞きたいですか?」
「まぁ、実のところどっちでもええんじゃが。しかし話さんと、お主の心が均衡を失う気がするよ。どうやらお主の過去は重荷になっており、自分で処理しきれておらんようだからの。自分では気づいておらん、いや、わざと意識しておらんのか」
「貴女、センサーですか?」
「年の功じゃよ! カッカッカッ」
快活に笑う魔物。でも彼女ならば誰よりも信頼できるかもしれない。それにきっと自分は彼女に似ているんだ。リサはそう思い自分の過去を思い出す。中原に珍しく、しんしんと降る雪の中で独りぼっちだった自分。そうか。もう私の心をあの場所から解放してやるべきなのかもしれない、とリサは思うのだ。
「つまらないリサの過去でよければ、ぜひとも聞いてください」
「よかろう。ゆるりと聞こうぞ」
自分より小さいミリアザールに頭をなでられる。
そうして、リサは自分の一番古い記憶を思い出していた・・・
続く
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