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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その66~発動と覚醒㊼~

「(これが里の掟――夫の忠告を聞かなかった罰、か。因果応報にしても、厳しいな)」

「何やってるのさ、グレイス~」


 グレイスが諦めかけたその時、相棒の間延びした声と、それに似つかわしくない凄まじい蹴撃が飛んできた。

 たしかミレイユは「錐」と呼んでいたか。つま先に力を集約し、急所を的確に突く蹴り技。薄い鎧程度ならば無数の穴を空けるミレイユの蹴りが、ダロンの側面から急所に何発も命中する。

 脳を揺らした感覚が足に伝わる。だがそれでも、ダロンの攻撃は止まらなかった。


「!? こいつっ!」


 グレイスに向けて振り下ろされた攻撃が巻き上げたのは血飛沫ではなく、雪煙だった。住んでのところで、魔晶石でフル装備をしたアリストが割って入ったのだ。魔晶石でフル装備した状態では筋力も飛躍的に上昇し、並みの巨人ならば凌駕するほどの筋力を誇るものだが、アリストの剣と全身が軋みを上げてようやくダロンの戦斧を受けとめていた。


「なんとか、なりましたか」


 アリストが持ちこたえていると、ダロンの戦斧にひびが入った。その瞬間ダロンがとびずさり、アリストが押し返す。その隙に神殿騎士団がグレイスを助け出した。

 まだダロンの没頭は解けていないのか、小さく唸りながら涎を垂らしている。もはや相手がグレイスだとわかっているかどうかも不明な様子で、アリストは神殿騎士団に距離を取るように命じたが、その前にミレイユが立ちはだかった。


「アリストの旦那、ワタシがやるよ」

「よろしいのですか?」


 面体の下でも驚きを隠せないアリストの声色に、凶暴な笑みでミレイユが返す。


「さっきの攻撃、何発かは急所に入れた。グレイスには悪いんだけど、後先考えず殺すつもりでやったんだ。それがまるで効いていないだって? このままじゃあ、ブラックホークの突撃隊長の沽券に関わるし、良いとこを見せておかないとね。それにさぁ・・・」

「それに?」

「ずるいぞぅ、グレイス。こんなうまそうなのが旦那なら、なんでワタシに紹介しないんだ? ちょっとくらい味見させろよぅ」


 ミレイユの口調が舌足らずになっていた。良くない兆候だとグレイスはミレイユを制止しようとして、その手が空を切った。既にミレイユの目が深紅に染まっている。凶暴な「三月ウサギ」がその顔をのぞかせていた。


「いいじゃん、いいじゃん! 必要とあれば妻も手にかけるその苛烈さ、好みだねぇ! 狂戦士ぶりが輝いているじゃんよ!」

「グレイス殿、いいのですか?」

「・・・ああなっては少々のことではどちらも止まらんさ。しばし好きにさせるしかないだろう」

「ですがしかし、友人と夫では?」

「では神殿騎士殿が止めてみるがいいさ。私はあの2人の間に割って入る自信も度胸もない」

「む」


 諦めたようなグレイスの表情に、アリストはそれ以上の言葉を持たなかった。アリストにも神殿騎士団の統括という責務がある。その責務を超えて、いわば傭兵同士の諍いを止める必要があるかと考えたのだ。

 いかにダロンがイェーガーの隊長でも、ミレイユが仲間のブラックホークの突撃隊長でも、任務に比べれば「どうでもいい」ことでしかない。それに、魔晶石のフル装備といえど、あの2人を殺すのではなく止めるとなれば、どれほどの労苦と消耗になるのか。

 どうでもよくないとすれば、自らの血も騒ぐことくらいか。


「いかんな・・・」

「アリスト隊長、何か?」

「いや、少し距離を取るぞ。巻き込まれてはかなわんからな」

「はっ」


 アリストの欲望が部下に聞き取られることはなかったが、彼らが下がるのを待たずして戦いは始まっていた。

 雪の上で、足跡すらなくミレイユが一歩で距離を詰める。ミレイユの蹴りをダロンが受けたのと、ミレイユが蹴った地面に小さく雪が跳ね上がるのがまったく同じだった。



続く

次回投稿は、4/27(土)12:00予定です。

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