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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その62~発動と覚醒㊸~

***


「アルフィ、ここから3つ目の建物、4階の端になります!」

「まだ生きているかしら!?」


 弱まったとはいえ、まだローマンズランドの北風の中、雪の上を走るのは簡単ではない。アルフィリースとリサは雪かきもろくに行われず、新雪が積もった道を可能な限り急いでカトライアの救出に向かっていた。

 リサがセンサーで探る限り、まだカトライアらしき人間の息はある。アルフィリースが重要人物として選択した人間の気配と特徴は、特に念入りに覚えておいた。だがその彼らもおおよそが既にセンサーの範囲に入っていなかった。つまりは、既に死んでいるということだ。

 特にミュラーの鉄鋼兵の主だった面子は、ほとんどがその気配を感じることができなかった。リサはそれを口にすることはなかったが、リサの様子をちらりと見ただけでアルフィリースは察したようだ。


「・・・思ったよりは生きてないのね」

「はい。想定の中では、悪い方でしょうか」

「それでも、想定の中では中程だとは思っているわ。最悪、カトライア『だけは』守るように、彼女たちにはお願いしているから」

「彼女たち?」

「行けばわかるわ。まだカトライアが生きているなら、彼女たちも生きているはず」


 アルフィリースの自分を納得させるような言い方にリサは不満を持ったが、それを指摘することはしなかた。アルフィリースが誰よりも追い詰められているはずだからだ。

 そうして凍り付いた雪が溶け始める中、ままならない動きを強いられるアルフィリースの頭上から、飛び降りてくる影があった。


「アルフィ、上です!」

「誰!?」

「ドライアン王です!」


 リサの言葉と共に、目の前の雪が爆発的に舞い上がった。アルフィリースの目の前に降り立ったドライアンは、憤怒とも寂寥とも見えない表情でアルフィリースを見据えた。

 言いたいことは散々ある。だが何から言うべきか、剛毅なドライアンですら決めかねているようだった。

 だからアルフィリースから先に口火を切ることになった。


「何の用かしら、王様? やるべきこと、成すべきことは先にお話ししてあったはずだけど?」

「・・・それはわかっている。だが俺の足が気づけばここに向いていた。俺にもここに来た理由がよくわからん」

「・・・獣王の勘ってことかしら?」

「そうだろうな」


 ドライアンにはグルーザルド全軍の指揮をお願いしてあったはずだ。それは最悪、ロッハやチェリオなどの獣将や、ブラックホーク4番隊のゼルドスでも可能だと思っていた。

 だがドライアンの本能は、グルーザルド全体の指揮ではなくこちらに来るべきだと告げたという。それだけ自分が危険に晒されているのだとアルフィリースは考えると、背筋がぞわりと泡立つような悪寒にとらわれた。

 アルフィリースはそれを悟られないように周囲を盗み見たが、ドライアンはゆっくりと首を上げて上空を見つめていた。


「アルフィリースよ。ここからお前が考えていることはフリーデリンデ天馬騎士団の団長代行カトライアを救出し、天馬騎士団の協力を得てここを脱出する。それで合っているか?」

「え、ええ。そのつもりだわ」

「その策は半分崩壊しているぞ」

「なんですって?」

「主たる輸送部隊――5番隊ダミアーは裏切り者だ。奴らの協力を得ることはできん」

「・・・そんな、馬鹿な」


 アルフィリースの表情が揺れるのを、ドライアンは初めて、リサは久しぶりに見た。フェンナの故郷、ミュートリオでライフレスと戦った時でさえ、ここまで動揺した表情になったことはなかった。それだけ余裕がないということなのだ。

 だが逆にドライアンは安堵したようにふっと口の端を歪めた。


「少し安心したぞ。そなたもそのように動揺することがあるのだな?」

「・・・茶化さないで頂戴。もし部隊ダミアーが裏切っているのなら、ここから脱出する人間はかなり限られるわ。第三層が崩壊するまで、あと一刻あるかどうかもわからないのよ!?」

「かもな。だから俺がここにいるのだろう。少なくとも、お前のその小賢しく回る頭で最後まで足掻くがいい。そのための時間は作ってやる」

「何を――」


 アルフィリースとリサがつられた見た上空に、魔王と化したスウェンドルがゆっくりと降下してきていた。彼は遥か上空から羽を生やして下半身をまるで竜のように変化させ、巨大な竜騎士のようないでたちでアルフィリースたちを睥睨していた。

 その様子を見て、ドライアンは何が起きたかを本能的に察したようだ。


「・・・どうやらあの愚か者の相手は俺のようだな。ここに足が向いた理由がわかったぞ」

「敵は上空よ? いかにあなたでも、さすがに分が悪いのでは?」

「なに、分が悪い戦いなど若い時分に何度も経験しているよ。こう見えて、戦闘経験はそなたよりもだいぶ上だ。俺を気遣うよりも、自分の成すべきことを成しに行け」

「・・・わかった。お願いするわ」


 アルフィリースはドライアンに後を託すと、再びリサと共に走り出した。その際にリサが振り返り、ドライアンに礼をして去っていく。

 その後ろ姿を見ながらドライアンは建物の上に向かうべく地面を蹴って飛び上がったが、思わず独り言をつぶやいていた。


「さて、実は策も何もないのだが・・・奴にどのくらい理性があるかで決まるな。仮に冷静なままだとしたら――とても勝てる気がせんな」


 そう頼りない言葉とは裏腹に、ドライアンの表情は久しぶりの戦士としての戦いを前にして凶暴に口の端を歪めていた。



続く

次回投稿は、4/17(水)12:00予定です。

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