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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その57~発動と覚醒㊳~

***


「ドゥーム、本当に彼らを手伝うの?」

「そうだけど?」


 オシリアの言葉に、逆に驚いたように目を丸くして返事をしたドゥーム。だがオシリアはその言葉が額面どおりではないことも知っている。


「けど? 何かあるんでしょう?」

「ただしもしかしも、もちろんあるよ? 竜脈を使って邪魔するのなんて、まさに焼け石に水だね。そんな無駄なことはしない。コツコツ積み重ねるのは思ったより嫌いじゃないけど、どうせなら一番おいしいところを狙いたい」


 さも当然といった様子で肩を竦めたドゥームを見て、オシリアは安心した。善行を積み重ねる悪霊なんて、存在意義に反してしまう。下手をすれば行動するたびにその存在が希薄になり、最悪消滅する可能性すらあると思っていた。

 既に転移の魔術で近場に移動したドゥームの前に、ケルベロスがのそりと出現した。その顔は煤に塗れ、咳払いで黒煙を噴き出している。


「ゲホッ、グエホッ! 酷い目にあったべぇ」

「んだんだ、危うく生き埋めだったなぁ」

「グルル・・・」


 普段反抗的な真ん中のポチでさえ、ダグラとドグラに合意していた。そんなケルベロスを見て、ドゥームは顔を顰めた。


「唾を飛ばすなよ、汚いな。その口を閉じろ」

「そんなこと言ってもよ、肺に煤がたまると病気になるんだぞぅ?」

「知ってるか? 馬鹿は病気にならないんだぜ?」

「んなわけないだ! そもそもオラたちはわりとインテリだっぺ!」

「純度70%のウォルフラム鋼の展性と延性を考慮した場合、10人分の人間の鎧を作るのに必要な採取量は?」

「純度70%だと展性は元のサイズの30倍だども、硬度の問題で留め金に使える金属が限られるだ。同じウォルフラムで加工するとして、熱加工が必要な工程から全身鎧は適していなぐて、せいぜい胸あてが限界。つまい、子どもの掌に乗る程度の採取量で足りるべぇ」

「ちっ、知ってたか」

「一般教養だなぁ、その程度」


 オシリアとポチは何のことやらわからず混乱していたが、ドグラとダグラはふふんと得意げに鼻を鳴らし、ドゥームは苦笑いした。研究の際にアノーマリーの助手を務めただけあって、ケルベロスの知性は並みの学者よりも群を抜いている。見た目とは違うことを、当然ドゥームは知っている。

 そのケルベロスだからこそ、わかることがある。


「だども、予定よりも崩落が少ねぇんじゃねえのか? もうちょっときっちり竜脈を塞いでおかねぇと、この辺の大地が丸ごと崩落しかねねぇぞ?」

「そうなんだよね・・・君が失敗するとは思えないし、そうなるとグンツかミルネーがやらかしたか」

「すまねぇな、旦那。発破の設置をとちったぜ」


 そこにまったく悪びれていないグンツがミルネーを伴い、謝るように手を上げて合流してきた。ミルネーが蒼ざめているところを見ると、失敗したのはミルネーだろう。

ドゥームもこの2人にはそれほど期待していなかったし、そもそも人間の発破を使って物理的に崩落を起こすことが完全に上手くいくとは思っていなかったので、さほど何も感じることはない。

ただ、グンツがミルネーを庇うような態度をとることが増えた気がする。良くない兆候ではあるが、それもまた一興かと捨て置くことにした。


「そうか、まぁそれならそれでいいや。逆に面白くなるかもしれないし」

「どういうこった?」

「まぁそれは結果を見てのお楽しみってね。それと、ディッガーどもはどうした?」

「あの蚯蚓みたいな魔王か? まぁ命令だけして滅茶苦茶に地面の下を掘らせたから、潰れたんじゃねぇの? 生きてるのもいるかもしれねぇが、まずかったか?」

「いや、発破の設置に使った人間があらかた死んでいるのならいい。君の配下のスリーズバグは?」

「奴らは数人だけで、ほとんどは奴らを使って集めた浮浪者や、食いっぱぐれた連中だな。スカイガーデンの外にもたくさんいたろ? ああいう連中の中から適当に見繕って、飯と適度な金を与えりゃ、喜んで死んでくれたさ」


 得意げにからからと笑うグンツに、ドゥームは顔を顰めた。


「喜んではないと思うが・・・計画を行うのに必要な人数は残っているのだろうね?」

「クズなんざいつだって、掃いて捨てるほどいるのさ。ただあれほど目端の利く腐れ野郎どもは、そんなに多くはないかもしれないがな。たまに俺もドン引きの屑っぷりだ」

「まぁいいさ、手綱だけは握っておけよ。次の策は間髪入れず行うし、タイミングと時期が重要だ。次の作戦であ勝手は許されないぜ?」

「わかってるよ。次の場所にはもう移動させて、下見を行っている最中さ。準備は念入りにさせている。俺もこの後合流予定だ」


 グンツはこう見えて、悪だくみには抜け目がない。それに、屑にしかわからない道義とやり方というものがあるらしく、そういった意味ではグンツは超一流の屑だった。

自分では駄目だが、グンツが直接指揮するのなら大丈夫だろうとある程度安心できる。


「ならいい。ここは任せておけ」

「大丈夫かよぉ? 作戦はいいが、皆失敗して人類全滅、なんてのは御免だぜ?」

「そんな面白くない結末を、僕が許すと思うか?」

「思いはしないが頼むぜ。もっと俺は楽しみたいんだからよ」

「わかってる、僕と君はその点で趣味が一致しているからね。楽しめること請け合いさ」

「ならいいんだよ」


 グンツはそれだけ確認すると、あっさりとミルネーを引き連れてその場を後にすべく背を向けた。ドゥームに向けて堂々と背を向けることができるのは胆力ではなく、同じ趣味と嗜好を持った友人という信頼が彼らの間にあるからだ。

 悪の友。そうオシリアは考えていたが、一礼して去ろうとするミルネーを見て、オシリアはドゥームにも聞こえないように声をかけた。


「お大事に、ミルネー」

「・・・失礼する」


 ミルネーは少し驚いたような表情をしたが、足を止めることはなくその場を去った。その気持ちがオシリアにはなぜだか痛いほどわかったが、誰にも伝えるつもりにはならなかった。



続く

次回投稿は、3/8(金)13:00です。

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