表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2670/2685

終戦、その54~発動と覚醒㉟~

「――ざぜ、るが」


 頭の上半分がなくなったモロテアが、樹液を噴き出しながら掌を組んで魔術を唱えた。


棘私刑ソーンリベンジ


 雪中から突き出た棘が、飛竜たちを串刺しにした。アンネクローゼの飛竜であるドーチェとアルロンに迫る棘をオシリアが念動力で止めたのは、単に自分が近かったのと彼女の腕が2本しかないからだった。

 いち早くドゥームとアルフィリースが火の短呪をモロテアに向け、あっという間に炎の中に彼女は笑い声と共に消えた。


「ち、反動カウンター型の魔術かよ。それならたしかに発動を防ぐのは難しいな、やってくれる!」

「リサ、何頭生きてる?」

「・・・駄目ですね。ドーチェとアルロン以外は全滅です」


 リサが首を振って飛竜の全滅を確認した。その報告に、初めてアルフィリースの表情が蒼ざめた。


「・・・ガルチルデ、シェバの絨毯には何人まで乗れる?」

「乗れて6人、小柄な者に限ればな。それ以上は重量超過だ。特にそこのダロンは乗せられないだろう」

「イル。幻夢の身を使ったうえで竜に変身したとして、何人背中に乗せられると思う?」

「え・・・自信ないよぅ。やったことないから、バランスが取れないかも。やっぱり一人が限界だと思う」


 突然話を振られたイルマタルだが、正直に答えた。アルフィリースの表情を見れば余裕がないことはわかったが、曖昧な返事をアルフィリースが好まないこともよく知っているからだ。

 ふぅー、と息を吐いてダロンがその場にあぐらをかいた。


「団長、俺は置いていけ」

「それは駄目!」

「だが、現実問題として脱出手段がない。俺一人で飛竜一頭が必要だ。俺が乗れば、どう考えても頭数が足りん。ならば一人でも多くを生かすべきだ」

「だけど!」

「非情な決断を下す最初に覚悟は決めたはずだ。俺もここに来た段階で覚悟はしている。なに、元々がピレボスの出身だ。この中で一晩明かしたとしても、そうそう凍死はせぬ。それに、粘っていれば助けが来るかもしれぬだろう」

「ふふ、ふふふ・・・そんな時間があると思う?」


 突然笑い声が周囲から聞こえた。声の出どころを見れば、雪の中から斬り飛ばしたはずのモロテアの頭の上半分が覗いていた。

 それだけではない。ボコ、ボコと雪がいくつも盛り上がると、次々とモロテアの顔が出現したのだ。アルフィリースたちがその異様に後ずさると、雪中から傷一つないモロテアが複数出現した。

 舌打ちをするのはドゥームである。


「やっぱり。その体は枝葉のようなものだと思っていたけど、事実その通りか」

「そうね。斬られようが燃やされようが、私自身は痛くも痒くもないわ。さぁ、そして時間がないわよ?」


 モロテアの言葉と共に、感じたことがないほどの地響きが鳴り始めた。最初は静かに、そしてゆっくりと大きくなる地響きは、今までにない大きな揺れを想起させた。


「こ、これは――竜脈が活性化している? 予定より早すぎるわ!」

「アルフィ、まずいですよ。今すぐに脱出しないと、おそらくはここの地面は割れます! いえ、そうでなくとも雪崩が起きるでしょうね。雪の上にいる我々には致命的です」

「ドゥーム、あなたはこのことを予測していたでしょう? 土地の汚染が仕事だから、オーランゼブルの儀式魔術に気づくこともできたのでしょうし、私に協力して竜脈の流れを歪めたのもあなたですものね? 協力感謝するわ。それに免じてこの場は見逃してあげてもよくてよ? さっきの攻撃も忘れてあげるわ」


 ほほほ、とカラミティが笑った。その賞賛にドゥームは肩を竦めるのみだ。


「そりゃどうも。それにしては扱いが酷くない? 報酬もいただいてないような気がしますけど?」

「生かしておいてあげている、それだけでも十分ではなくて? それに竜脈の位置を教え、オーランゼブルに内密で動き回るあなたの補助をしてあげたわ。それに蟲や樹を介して、土地の汚染を行うあなたを手伝ってあげた。オーランゼブルからの命令以外でも、あなたを手伝ったはずよ。それの何が不満なの?」

「随分と傲慢だなぁ。あ、じゃあ報酬代わりに聞きたいことがあるんだけどさ。いいかい?」

「よくてよ」


 アルフィリースたちの焦る様子を見て溜飲が下がったのか、先ほどとは違い余裕たっぷりな表情を見せるカラミティに対して、ドゥームはあくまで自然に質問した。


「君の復活を手伝うようにしたんだけどさ、やっぱり人間やこの大陸の生物を滅ぼす気持ちに変わりはない?」

「当然だわ。私はそのためだけに生きてきたのだもの」

「君を貶めた連中は、全て僕でも憐れむくらいの死に方をした。それでも気持ちは晴れない?」

「ええ、ちっとも晴れないわ。まだ聞きたいの?」

「そうか・・・なら最後の質問だ。サイレンスにも聞いたんだけど、君のその怒りは君のものかい?」

「・・・どういう意味?」


 カラミティが得意げな表情をやめ、困惑したように笑みを消した。対するドゥームの表情は、いつになく真剣だった。



続く

次回投稿は、3/5(火)13:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ