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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その52~発動と覚醒㉝~


「何なの、いったい?」

「初代から引き継がれる国王の日記にあった、このローマンズランドの真実。それはつまり――」

「この大地にはカラミティが根付いている。つまり、この土地で育った者はすべからくカラミティの恩恵という呪いを受けているのさ。それが意味するところはすなわち、全ての者がカラミティの一部を取り込んでいるからいつでも彼女の操り人形になりえる、というところかな?」


 困惑するアルフィリースにアンネクローゼが説明しようとして、ドゥームがその言葉に横やりを入れた。アンネクローゼは憮然としながらも、端的に言い表したドゥームの言葉に頷いてみせた。


「そのとおりだ。なぜ知っている?」

「黒の魔術士の中では、土地の汚染が僕の仕事でね。その過程で、諸国に対する工作員であるヒドゥンとはやり取りすることが多くあったんだけど、あらゆる国にあるべき彼の工作がローマンズランドだけにはなかった。つまり、必要がないということだ。理由がわかったのは、それでもごく最近だけど。それと同時に、カラミティの弱点にも気づいた」

「弱点?」

「彼女の目的は新たな土地への移住と、力を取り戻すこと。それだけなら、ここまで念入りにやる必要はなかったはずだ。だが彼女の力の影響を受けない者がわずかながらいた。魔術の素養を持つ者や、あるいは特殊な体質の者。そう、たとえば初代国王のように竜と意志を交すことのできる特性持ち、とかね」


 ドゥームはカラミティが蟲を人間に寄生させ、操る様を直に見ている。その際に、カラミティが自ら言っていたことだ。操るには相性もある、と。

 長い時間をかけて馴染ませたとして、完全に操作できるのは一瞬にしかすぎない可能性もある。さきほどシェパールが我を取り戻したのは、その一例かもしれない。

 ドゥームはなおも続けた。


「オーランゼブルは上手くカラミティを利用しているつもりでいたから気づいていないかもしれないが、カラミティは精神束縛なんて最初から受けちゃいない。オーランゼブルはカラミティのことを単なる樹と蟲の化け物くらいにしか考えていないかもしれないが、御子の素質を持った人間が半ば以上怨霊と化して、さらに複数の王種を取り込んだ化け物だぜ? その危険性はアノーマリーが一番に気づいて、対策をうった。その一つがエクスペリオンの摂取で、魔王となりつつも一時的にカラミティの支配から逃れることができる、というものだ」

「でも、完全じゃないのでしょ?」


 飛竜に鞍を乗せ脱出する準備を整えながら話を聞いているアルフィリースの指摘に、ドゥームは渋々頷いた。


「そうだね、完全にカラミティの支配から逃れるだけの特効薬を作る時間はなかったようだ。だが同時にわかったこともある。カラミティは完全に女王支配の生物で、カラミティさえいなくなれば、その効果は解けるということ。そして女王支配の生物はすべからく、距離と支配力に影響がある。ローマンズランド国外に脱出すれば、カラミティの影響はほとんどなくなるのではないか、ということさ」

「おなじ仮説を父スウェンドルも立てていた。だからこその遠征軍、国民の疎開だったと」


 あえて暴君として振る舞い、国民に愛想を尽かさせた。それを娘にすら言えない苦悩を、スウェンドルは日記に綴っていた。

 血を分けた者からの冷たい視線程、こたえるものはないと。しかしそれが王としての在り方だとも書いていた。


「そう。つまりは本体さえ叩いてしまえば、この戦いは終わる。それでいいかな、カラミティ?」


 ドゥームが上空に向けて語り掛けた。すると、尖塔のところに立っていた人影が、滑るように空から降りてきたのだ。

 背中から生えた蔓で体を支え、モロテアが目の前に降臨した。その表情はまだ人間のものだったが、醜く歪み始めていた。


「おしゃべりな男は好きじゃないわ」

「それ、オシリアにもよく言われるよ」

「なら、少しは黙ったら?」

「答え合わせをしてくれたらいいよ?」


 ドゥームの言葉に、カラミティは髪をかきあげながら答えた。


「そうね。まぁ正解だと言っておきましょう。弱点のない生物なんていない。逆に言えば、弱点があるからこそ生物と言えるかしらね?」

「そうだねぇ。ただその弱点、思ったよりも脆いかもしれないよね?」

「あら、どうしてそう思うの?」

「ヒュージトレント」


 余裕たっぷりに答えて見せたカラミティに対し、ドゥームが皮肉めいた嫌味で応える。ドゥームの言葉に、カラミティは再び顔を歪ませた。


「ダルカスの森のヒュージトレントがどうかしたの?」

「あれ、ダルカスの森なんて言ったっけ? よくあんな小さな南の森のことをご存じで」

「・・・大樹の化け物のことくらいわかるわ」

「嘘つきなよ、あれは君の分体だったんだろ? あるいは、いざという時の予備」


 ドゥームの言葉にますます表情を歪めるカラミティ。ドゥームの顔もまた、邪悪に歪み始めていた。



続く

次回投稿は、3/3(日)13:00です。

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