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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その51~発動と覚醒㉜~

***


「アルフィリース! ウィラニア!」

「姉様!」

「来たわね」


 顔面が蒼白になりながらも走り寄るアンネクローゼを見て、アルフィリースは内心で胸を撫でおろしていた。

 イルマタルとウィラニアが仲良くしていることを知っていたので、万一の際にはイルマタルにはウィラニアの身の安全を確保するように伝えてはいた。イルマタルの隠形は非常に精度が高く、集中していないとアルフィリースやリサですら欺くことがある。その技術をもってすれば、万一の際にウィラニアを連れて脱出することはたやすいと考えられた。

 ましてイルマタルは真竜。その気になれば、空を飛んで逃げることもできるのだ。余裕があればアンネクローゼも連れてきてほしいとお願いしていたが、イルマタルはウィラニアしか連れてこなかった。それだけ切羽詰まった状況だとわかったので、アルフィリースはまんじりともせずアンネクローゼの脱出をぎりぎりまで待っているつもりだった。

 竜舎の竜たちとは、万一に備えて前もって交渉をしておいた。本来ならば絆を結んだ竜騎士以外は背に乗せないはずだが、既に相方を失くした竜も多いのか、竜たちは交渉に応じるように羽ばたいて応えてくれた。魔物とは違う、退化しながらも知恵も誇りもある竜だから、交渉が思ったよりもすんなりといったことに拍子抜けすらしたほどで、それを咎める者が誰もいないことからもまっとうなローマンズランドの騎士が残っていないことは明白だった。

 即時脱出を主張する仲間に対し、アルフィリースは限界まで待つように告げた。むろん、理由がある。アンネクローゼの愛竜であるドーチェとアルロンが、一点を凝視して微動だにしなかったのだ。アンネクローゼは無事だと竜が告げる以上、アルフィリースもそれを信じていた。

 意外だったのは、ドゥームが辛抱強くその様子を見守っていたこと。アルフィリースに確信があることを察したのか、ドゥームもまた何か言いたげなオシリアを制して黙って待っていた。そして今、アンネクローゼが無事合流してきたのだった。

 ウィラニアの無事な姿を見て安堵し、その体を抱きかかえるようにするアンネクローゼをアルフィリースがたしなめる。


「御免、まだ予断を許さない状況よ。すぐ飛ぶわ!」

「わかっている。だがそこのダロンも乗せるとなると、ドーチェとアルロンだけでは足らぬぞ?」

「前もって交渉はしているわ。それにそこのウィラニアは――」

「大丈夫、姉様! ここの竜たちは皆私に協力してくれるわ!」


 ただ事ではない状況を察したのか竜舎も騒然としていたが、ウィラニアの指笛一つで一斉に飛竜が彼女の方を向いた。そして本来ならば絶対にやらないはずの、柵を壊す行為をもって彼女の命令に応えてみせた。


「ここにいる20頭、全て協力してくれるわ姉様!」

「なんと・・・」


 かつて初代国王が操った飛竜は一頭ではなく、複数の飛竜の間を飛び移るようにして戦ったと呼ばれている。史上最高の竜騎士と呼ばれたアマリナをもってさえ「物語だからな、誇張だろう」と評したその才能を、ウィラニアはたしかに引き継いでいた。

 これならば脱出できる。その確信は、響いた声にすぐにかき消された。


――逃がさないわよ――


 地中から響くようなその声と共に、それまで静かに控えていたシェパールが突如剣を抜いて飛竜たちに襲い掛かり、その羽の付け根を正確に傷つけはじめた。

 何をしているのか一瞬呆気にとられた中でもライフリングが一番最初に反応し、シェパールに向けて燃焼剤を投げつけるも、火だるまになりながらなおもシェパールは止まることなく飛竜を襲い続ける。


「止まらない!」

「私がやる!」


 突然の凶行を止めるべくアルフィリースが剣を抜いて斬りかかったが、シェパールは一息で竜舎の天井に飛び上がり、背中で張り付くようにして全員の様子を窺った。そしてまたしても一番遠い飛竜に襲い掛かり、その喉笛をかききった。

 このままでは脱出する方法が失われる――そう思われた時に、行動に移したのはなんとドーチェだった。仲間であるはずの飛竜ごと、シェパールに向けて火箭を放ったのだ。

 竜舎の壁を突き破り、火箭が炸裂する。乾燥していたせいか、気温がそこまで低くないせいか、竜舎にあっという間に火が燃え移り、ギギ、と嫌な軋みを見せ始める。


「崩れるぞ!」

「脱出!」


 アルフィリースと飛竜たちは竜舎から必死の思いで脱出した。天井が崩れ落ちそうになるのを、ドゥームが悪霊を盾状に変形して支える。盾が恨めしそうに叫ぶのを、ドゥームは皮肉めいた表情で笑い飛ばした。


「熱いのかい? それとも、悪霊の分際で人助けすることが悔しいのか?」

「今のうちに飛竜を!」


 半数近い飛竜を脱出させた直後、竜舎は崩れ落ちた。だがシェパールはなおも絶命することなく、転がりまわりながら雪で炎をかき消し、なおも剣を構えた。

 意識をカラミティに乗っ取られたか――そう考えたアルフィリースが魔術を使おうと構えた途端、シェパールは自らの胸に剣を刺した。


「なっ・・・」

「シェパール、そなた!」

「・・・姫様・・・まことに、まことに申し訳なく・・・これが、ローマンズランドの現実にございます」


 そのまま血を吐きながらよろよろと崖の方に後退すると、シェパールは空に向かって叫んだ。


「ローマンズランドの全てが貴様の言いなりだと思うな! 軍人の矜持を見せてやる!」


 そのまま一息に剣を引き抜き、自らの首をかききりながらシェパールは崖下に落下していった。アンネクローゼはウィラニアの目を塞ぎながら、その死に様をしかと目に焼きつけた。



続く

次回投稿は、3/2(土)14:00です。

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