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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その47~発動と覚醒㉘~

突如として来訪した父王の様子がおかしいことに。それ以上に壮健そうな父王を見た喜びもあったのか、思わず歩み寄ろうとしたアンネクローゼの前に一歩を踏み出して彼女を押しとどめたのは、オズワルドだった。

 オズワルドがゆっくりとアンネクローゼに向けて首を横に振るのを見て、我に返るアンネクローゼ。思わず迂闊な行動をしようとした自分を戒める。

 そんなオズワルドに気づいたのか、スウェンドルが朗らかに笑いかけた。


「おお、オズワルドではないか! いや、しかし老けたな? いつから髭まで白くなったのだ?」

「・・・お戯れを、陛下。もう10年以上前にはこの姿でございますれば」

「うん? 何を言っているかわからんが、まだ陛下と呼ぶには早い。即位の儀式はこの後に控えているのだからな。それまでは皇子と呼べ。凡百の父王といえど、臣下のそなたがかように呼べばさすがに不敬になろう。これから貴様には末永く俺を支えてもらわねばならぬ。こんなつまらぬところで失いたくはないからな!」


 生気に溢れてはいるが、話の辻褄が合わぬ相手にアンネクローゼも怪訝そうにスウェンドルを眺めるだけとなった。かつて年嵩の女官から、皇太子だったころのスウェンドルは今の姿からは想像もつかないほど無邪気で悪戯好きだったと聞いたことがある。気質でいえば、ウィラニアが一番似ているとも。彼の発言はまるで皇太子だった頃のようだ――そうシェパールが背後で呟いたことに、アンネクローゼは心の中で頷いていた。

 そのスウェンドルが、はたとアンネクローゼの存在に気づく。


「そこな女は誰だ?」

「何をおっしゃいますか。この方は――」

「いや、皆まで言わずともよい。またあたら美姫をあてがう相談をしていたのだな? 俺には心に決めた女がいる、そう言ったはずだが?」

「いえ、そうではなく」

「まぁ先輩でも指導役でもあるオズワルドの面子を潰すわけにはいかぬから、無下にはせぬが。だがこの暴君と名高い男の傍に一度でも上げられたという噂が立てば、姫の今後にも関わろう。それがどこの令嬢であるにしろ、だ。正妻を迎えた後ならば後宮に入れるという手段も取れるだろうが、それまでは控えておけ」

「・・・はっ」


 これはかつて、本当にあったやり取りなのかもしれない。困惑しつつもどこか懐かしむ様子すらオズワルドとシェパールは見せる。だがもっとも背後に控えるクラスターだけは、まるで敵でも見据えるように鋭く、しかし殺気を押さえてスウェンドルを睨み据えていた。

 アンネクローゼの知るスウェンドルであれば、そのような殺気を向けられて黙っているような性格ではない。だが今は脇が甘いというべきか、隙が見え隠れしている。威風はそのままに、才気煥発な様子を節々に見せながらどこか頼りなげであるスウェンドルを見て、思わずアンネクローゼも苦笑しそうになっていた。

 次の言葉が放たれるまでは。


「とはいえ、だ。王城まで招き入れた者をそのまま返すというわけにもいくまい。何かしらの役に立ってもらわねばならぬが――ああ、そうか。苗床にして保存しておけばよいのか」

「・・・は? スウェンドル陛下、今なんと?」

「苗床だ。何かおかしなことを言ったか? それならばいつでも孵化させることができるし、正妻を迎えてから立場を公表しても問題はない。それに、国母の一人として名誉の死と一族への保障を与えることもできる。うむ、我ながら名案だな!」


 そう頷いた瞬間、ややスウェンドルの背丈にしては高いところにあった頭の位置がさらにすぅーと上に滑るように上がり、扉が押し開かれてその体が部屋の中に入ってきた。

 その姿を見てアンネクローゼは「ひっ」と小さな悲鳴を上げ、オズワルドもシェパールも、思わず数歩を跳びずさるほどに驚いた。

 既にスウェンドルは頭以外人の姿をしていなかった。まるで蟷螂のような胴体に武器を模した前足を複数本と、天井にも届くほど長く伸びた首ではるか上から4人を見下ろしていた。その体の周囲にはほとんど無音で羽ばたく人の頭ほどの昆虫が飛び回っており、それらがキィ、と鳴いたかと思うと、胴体に巨大な目玉を出現させて部屋の周囲をぎょろぎょろと見回していた。

 それに呼応するように、スウェンドルの側頭部に、無数の目が出現して一斉に4人を見下ろした。


「ふぅむ、奥の間にさらに2人ほど気配がしたと思ったが。気のせいか?」

「へ、陛下。その姿は――」

「ふむ、いかんな。気が逸ったか。即位前にこの姿を晒すことになるとはな。俺もこんなことで気が急くとは、まだ若気の至りが消えぬらしい。知ってのとおり、まもなく私は王になる。貴様らになら、この姿を先に見せておいてもよいかと思ったのだがな」

「それはいったい、何の王になられるのです?」


 ここまで一言も喋っていなかったクラスターが、初めて口を開いた。可能な限り殺気を押さえながらも、鋭さの消えぬ詰問のような口調だった。

 スウェンドルは腹心であったはずのクラスターの顔がわからぬのか、首を傾げながらも質問に答えた。


「当然、ローマンズランドの王にして、蟲の王だが?」

「誰の祝福を受けて?」

「当然、絶対女王カラミティである」

「成程」


 その返事の途端、クラスターが剣を抜いてスウェンドルに躍りかかった。その速度はあまりに早く、アンネクローゼはまったく反応できなかった。もしクラスターがそのつもりなら、自分の首はとうに落ちていたことに今気づいた。

 スウェンドルはそれほどのクラスターの剣をなんなく受けながら、実に不思議そうにその顔を正面から見据えて呟いた。


「貴様の顔には見覚えがないな。強いて言うならエルデスト家の当主に似ているが、はて?」

「それは父だ。あなたを戦場で庇って死んだ、私の父だ! その功績で私は後釜として師団長に就任し、あなたに忠誠を尽くしてきた!」

「何を異なことを。フォルン=エルデストはまだ生きて――いや、まて何かおかしいな?」


 簡単にクラスターを弾き飛ばすと、スウェンドルは首を曲げて悩み始めた。やたらに長い首が90度回転し、昆虫のように複眼で無機質に変化した眼がクラスターだけではなく4人を同時に観察していた。


「――そなたら、誰だ? 我が臣下に貴様らのような者はいないが。さては、曲者か?」

「オズワルド殿、打ち合わせのとおりに!」

「応! 姫様、失礼!」


 クラスターの言葉と共に、オズワルドがアンネクローゼを抱え上げシェパールが先行して走り出した。

 抱え上げられたアンネクローゼが見たのは、姿を魔王へと変化させていくクラスターである。



続く

次回投稿は、2/22(木)14:00頃の予定です。

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