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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その46~発動と覚醒㉗~

「3人とも、無事か!?」

「アンネクローゼ様、ご無事で! こちらはなんとも――遅参、申し訳ございませぬ」


 オズワルドがすぐにアンネクローゼの下へと行けなかったことを詫び、シェパールとクラスターもそれに続いた。

 彼らの態度からは忠義しか感じない。元より女性を侮りがちなローマンズランドの気風において、彼らは他の王族とアンネクローゼを分け隔てなく接してくれた忠臣だ。その忠義にも疑うところがないと、そう思っていた。

 だがアルフィリースを見ていて、考え方が変わった。アルフィリースはカラミティを倒すために、アンネクローゼの友人という立場を利用した。今回の大戦を予期し、自らとその仲間たちを生かすために最も効果的な手段は何かと考えた結果、埋伏の毒としてあえてローマンズランド側に味方をすることにした。おそらくは裏ではアルネリアとも連絡を取っており、下手をすれば戦況を制御していた可能性すらある。

 だがそのアルフィリースとの友情に、嘘偽りがあるわけではない。互いに生き延びるため、アルフィリースは最善の手段を取ろうとした。そして今また、自分たちも生かそうとしているはずだ。目の前にいる忠臣たちもまた同じだと、どうして考えなかったのだろうか。

 アンネクローゼは覚悟を決めた。


「オズワルド、聞きたいことがある」

「は、なんなりと!」

「貴様、この国の末路をいつから予見していた? いや、『知って』いた?」


 アンネクローゼの言葉に、オズワルドの目が驚きに見開かれ、その後すっと冷たい眼差しになった。アンネクローゼをして初めて見る、好々爺とは程遠いオズワルドの冷たい眼だった。


「いつから知っていた、とは?」

「もう惚けずともよい、爺。そなたは父の腹心であり、そもそも王命にて私の教育係となっていたはずだ。遠くさかのぼれば、軍において父を直接指導したのもそなただそうだな? その最も信頼できるであろう臣下を、兄上ではなく私の教育係とした。その事実だけでも、私は気づくべきだった」

「・・・お察しの通りにございます。スウェンドル王はアウグスト皇太子でもなく、ブラウガルド第二皇子でもなく、貴女様こそがローマンズランドの伝統を継ぐものとしてお考えになっておりました」

「それは、私が女だからか?」


 アンネクローゼの目に悲哀の色が浮かぶ。だがオズワルドはゆっくりと首を振った。


「それも否定はしませぬ。ですが外の世界に興味を持ち、ローマンズランドのみならず外との関りを考えて動けるのは貴女だけだと、幼き頃より見抜いておいででした」

「・・・そうか。ではなぜ、事態がここまで窮するまで私には何も言わなかった?」

「貴女が何とかしようとして、この国と共倒れになるのを恐れておいででした。ですが今なら全て言えまする」

「ローマンズランドを見捨てよ、と?」

「有体に申し上げれば」


 オズワルドの言葉には澱みがなかった。国一番の忠臣として自他ともに認められた彼の言葉だ。そのオズワルドをしてこの国がどうにもならぬと言われて、アンネクローゼは思わずめまいを覚えた。最初から、この国はこれほどの忠臣たちにも見限られていた。

 早々に見切りをつけてこの国を去ったアマリナは正しかった。我慢がならぬと飛び出したルイも正解だった。他の数多の有能な臣下たちもそうだ。誰も泥船には乗りたくない。

 自分ひとり懸命に奔走する姿は、さぞかし愚かに見えたろうか。そう呟くアンネクローゼに対し、オズワルドだけではなく、シェパールも力強く否定した。


「そんなことはございませぬぞ、姫! そんな貴女だからこそ、スウェンドル王は後を託すことを決められ、我々もまた納得しました。貴女が王の器にあらざれば、監視をつけて国外へと送ればいいだけのことにございますれば」

「そうですぞ。貴女でなければ、私とクラスターとてこのオズワルドめを置いてけぼりにして、とっとと国外に逃げております。こんな危険な場所に残る必要はありませんからな」

「・・・そうか。貴殿らの忠義、まことに痛み入る。だがそれでもまだ、気になることがある」


 アンネクローゼは空戦第五師団を預かるクラスターの方を向いた。


「クラスター、細君は健勝か?」

「・・・は、おかげさまで」

「そうか・・・たしか貴殿の細君は腑がゆっくりと腐る不治の病と聞いていたが、いつから独力で出歩けるまでに回復されたのだ?」


 アンネクローゼの詰問に、クラスターは答えない。場の空気が一層冷えたのは気のせいではない。懐でオズワルドが剣の柄に手をかける気配があった。抜き放たれる切っ先が誰の喉元に向けられるのか、アンネクローゼでも想像がつかない。

 その時、沈黙と緊張を破るようにキィ、と控えの間と外をつなぐ扉が開いた。顔が見えるほどに空いた隙間からは、予想もできない顔が覗いていた。


「・・・父上?」

「陛下?」


 スウェンドルの顔に驚いたのは、誰しもが同じだった。だがスウェンドルの顔に違和感がある。姦淫と酒に耽溺し、あるいはそう見せかけていて本当は国を憂いたゆえにやつれていたのかもしれないその頬には紅がさし、まるで少年のように輝いていた。

 アンネクローゼの古い記憶にある若い時のスウェンドルよりもさらに活気溢れたような――あるいは幼くさえ見えるその顔が、妙に高い位置から4人を見下ろしていた。



続く

次回投稿は、2/17(土)14:00頃を予定しています。

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