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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その43~発動と覚醒㉔~

 悲鳴すらなく、あっという間に炎によって燃えて崩れ落ちたオルロワージュ。モロテアはアルフィリースのことも忘れて、しばし炎に見入っていた。


「私が、笑っていたですって・・・? どうして、私、笑って――それでもオルロワージュ、私はあなたに侮られたくはない。私は――私は、あなたたちと対等に」

「今!」


 アルフィリースの合図と共に、リサとアルフィリースがモロテアに向かって走り出した。モロテアははっとしながらも対処が遅れ、代わってカーネラがその間にモロテアを庇うように立ち塞がった。

 だがアルフィリースはモロテアに向かう振りをして直前で直角に折れ曲がると、代わりに懐から取り出した光爆弾を投げつけた。アルフィリースとリサは片目を瞑って発光をやり過ごし、音はリサのセンサーで遮断した。

 轟音と光が、何の予備知識のないモロテアの視覚と聴覚を麻痺させる。


「くっ!?」

「逃がさん!」


カーネラは見えないながらも変形した巨体を活かし、出口にぶつかるようにしてアルフィリースたちの脱出を阻もうとしたが、アルフィリースたちはそもそも出口とは反対側に走っていた。そして一つしかない窓に向けて《圧搾大気》を放つと、そちらからなんの躊躇もなく外に飛び出したのだ。

モロテアの視界と聴覚が戻る頃には、破壊された壁から吹雪が吹き込んでいた。予想外の彼女たちの構造にモロテアが下を見ると、そこには本来ないはずの、バルコニーが延長されたような地面ができていた。

一瞬自らの目を疑ったモロテアだが、何が起きたかをしばしの思考で理解した。


「・・・やられた。ここの真下が彼女たちの部屋ね。最初から万一の脱出経路を用意していたのね」

「追いますか?」

「いえ、必要ないわ。どうせこの一帯は私の腹の中も同然。それに、追うのは王者のやることではない。彼女たちには、逃げ惑った挙句私の前に出てきてもらわなければ」


 モロテアが嗜虐的に嗤い、カーネラがこうべを垂れた。


「王様に追わせるわ。その方が面白いものが見れるでしょうから」

「王様に――なぜでしょう?」

「ここから脱出するにはアンネクローゼの竜を使うしかないでしょう。父に追われ逃げ惑う娘――見ものじゃないかしら? それに、王様にも働いてもらわないとね。あそこまで短期間で仕立てるのは、かなりの労力を要したのよ?」

「なるほど、恐れ入ります」

「玩具はつかっていくらだわ。この大地を吹き飛ばしてしまう前に、楽しまなくては」


 モロテアはちらりとオルロワージュが飛び込んだ火のあたりに視線を落としたが、少し顔を顰めただけで足早に歩いてその場を去っていった。そのわずかな表情の変化に、蟲であるカーネラが気づくことは一切なかった。


***


「アルフィ! 生きた心地がしませんでしたよ!?」

「私もよ!」


 アルフィリースとリサは脱出し自分たちの部屋に戻ると、一目散に脱出用の寒冷装備に着替えていた。

 万一を考え、脱出経路を用意していた。カラミティが来た時に備えて、幾通りかの方法を伝えてはいた。それでも上手くいったのはたまたまで、オルロワージュが気を引いてくれなければもう死んでいたかもしれなかった。モロテアの――カラミティの圧は、アルフィリースが想像するよりも数段は上だったのだ。

 既に仲間は光爆弾の爆発と共に脱出すべく、部屋から去っていた。今ここにいるのは、シェバの弟子たち4人と、薬師ライフリング、アルフィリースの傍を離れられない女勇者フォスティナ、巨人族のダロンの計9人である。

 女所帯の一室にダロンが一人いることができるのは彼への信頼が最大限であるからこそだが、同時に魔術がまともに使えない可能性がある環境では、ダロンに腕力で勝るものは独りもいないとの判断から、アルフィリースが依頼したものだった。ライフリング、フォスティナ以外の面子は定期的に入れ替わりをしていたが、ここ20日ほどはアルフィリースの指示でシェバの4人の弟子が常に滞在していた。

 もちろん、狙いがあってのことだ。


「人数の制限がいつの間にか緩和されてよかったですね」

「もう私たちを監視する意味もなかったということよ。あるいはオルロワージュやヴォッフへの洗脳が緩んで、彼らの独断でこうしてくれたか。少なくとも、モロテアはここ最近、他のところで何かをしていたのだわ」

「何かとは?」

「さあ? 本体の所にでも行っていたか、他に用事があったのか」

「あの化け物に用事なんてありますかね? 我々なんて、取るに足らない矮小な存在にしか見えていないと思いますが」

「・・・存外、矮小なのはあちらかもね」

「へ?」


 アルフィリースの発言にリサが間の抜けた返事をしたが、2人は同時に装備を整えていた。元々大した荷物もないが、2人とも装備を身に着けるのが早い。どれほど急いでいようが、薄着で外に出るのは自殺行為に等しいので、彼女たちは何度も着替えの練習をしていたことがここで役に立った。

 2人が部屋の外に出ると、ヴァルガンダが待っていた。3人は駆け足で宮殿の出口を無視して、反対側の階段から階下に向かった。


「よーう、団長の言う通りになったなぁ?」

「ええ、まずいことにね」

「でも、最悪じゃないんだろ?」

「そうよ。まだ最悪じゃない。準備は?」

「もうほとんど終わっているぜ。言われた時にゃ驚いたが、備えあればなんとやらだ。アタシらが仲間でよかったなぁ」


 得意げにニヤつくヴァルガンダの肩を、アルフィリースは軽く小突いた。


「それは素直にそう思うわ、私にはまだ運がある。アンネクローゼやウィラニア殿下、イルは?」

「そっちはダロンとクランツェが迎えに行っている」

「そう。だけど、こっちがまだ大丈夫かどうかはわからないわね?」


 アルフィリースたちの行く手に、壁を突き破るようにして樹木が急速に伸びてきていた。そして伸びた樹のうろや瘤から、ぞわぞわと得体の知れない蟲が湧いてくるではないか。

 その様子を見て、ヴァルガンダが舌打ちをした。


「なるほど。いまだ相手の腹の中ってか?」

「速攻で突破するわ。ヴァルガンダ、出し惜しみは無しで」

「あいよ!」


 アルフィリースとヴァルガンダが戦闘態勢に入ろうとした瞬間、目の前に突き出た樹木が一斉に爆ぜて消えた。吹き飛びながらもまだ息のあった蟲たちだが、アルフィリースたちに襲い掛かる前に、急激にしなびて枯れ死んだのだ。

 何が起きたかをいち早く察したのは、リサだった。


「・・・ドゥームですか。出てきなさい」

「わお、さすがリサちゃん。僕の気配には敏感だね?」


 中空に突如染みのような闇が浮かんだかと思うと、そこからドゥームとオシリアが姿を現した。彼らはいつものように無邪気で悪意のある笑みを浮かべながらも、わずかに緊張感を滲ませていた。



続く

次回投稿は、2/8(木)14:00頃です。

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