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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その36~発動と覚醒⑰~

「ではなんですか? カラミティは最初からこの国を自分の手駒とするつもりで関わっていたと?」

「本当の意図は聞いてみないとわからないし、そもそもそんなことをする必要があったかも疑問だわ。ブラディマリアとドラグレオを同時に相手して、なお互角に戦う戦力を有していたのよ? その気になればこんな土地なんて、一呑みなんじゃないかしら。そもそもこの大陸の大魔王だって、元を辿ればブラディマリアの一党じゃないかって話があって、そんな相手にカラミティが苦戦するわけが――」


 その時、アルフィリースが手に取った本から、ひらりと一通の紙が舞い落ちた。その紙を拾い上げて中を見ると、見覚えのある字体でこう書いてあった。「この本を見つけた者よ、国のためを思うなら黙せよ。さもなくば国を破壊したまえ」と。

 しばし固まったアルフィリースに、リサが遠慮しがちに話かけた。


「アルフィリース? どうしました?」

「・・・スウェンドル王の字だわ」

「え?」

「やはり、彼は真実にたどり着いていた」


 手紙の内容は、スウェンドル王が王位を継ぐ前の年齢の時代の手記だった。彼は王位を継ぐ前に真実を知り、王太子でありながら簒奪にも近い強引な手段で王位についた。黙っていても何事もなく王位を継いだはずなのに。

そうまでして強権的な手段に訴える必要性を、彼は感じたのだ。アルフィリースはその本の頁を夢中でめくった。今までにないほどの速度で本を読破したアルフィリースは、最後の頁に別の手紙が挟まっているのを気づき、それも読み終えると大きくため息をついた。


「想像以上だわ・・・」

「何がです?」

「スウェンドル王の先見の明と、その覚悟が」


 アルフィリースはかいつまんで手紙の内容を説明した。聡明で知られた若かりしスウェンドルは、学ぶ過程でローマンズランドの歴史を調べた。その時、6人目の記載がないことに気づいたそうだ。そして、代々の王が隠していた書物と事実に気づいた。

 

――この国は、最初から怪物の苗床として用意されたものだ――


と。


「この国に――この土地にカラミティが目を付けた要因はいくつかあるみたい。南の大陸は精霊が枯れ果て、どこかで移住を迫られていたこと。そこに目を付けたオーランゼブルが、この土地を勧めたこと。強引に制圧することもできたはずだけど、カラミティはより深く人間社会に潜り込むことを選択したのだわ」

「何のために?」

「その時が来たら、オーランゼブルさえも欺くために」



 初代ローマンズランド国王は、全てを知っていたようだ。カラミティが成り済ました女魔術士が大魔王を追い出して国を建国する力を授ける提案をしたこと。その代償として女魔術士は、ローマンズランドの北側に広がる広大な鉱山の採掘権と、土地の権利を永久的に申し出た。寒さが厳しい永久凍土にも近しい土地で、当時はまだ加工技術すら不明な黒緑鋼しか採れない鉱山とは名ばかりで採掘すらもままならない土地の割譲など何の役に立つのかと、訝しみながら。

 初代国王は女魔術士が勧めるがままに人を集め、各国と連合し、軍を興し、多大な犠牲を払いながらも人の世に輝かしい功績を残す王となった。だからこそ、この女魔術士を最後まで信用しなかった。


「初代の王はひっそりと記載を残したの。常に前には出ず、褒賞も名誉も断る女魔術士の目的は何なのかと探り続けた。そしてオーランゼブルの計画さえも知るようになった。いえ、カラミティが抱き込んだのよ。数百年の栄華を約束する代わりに、初代の王に終わりの時も教えた」

「それは、いつ?」

「今年の春」


 アルフィリースの集中が乱れたのか、魔術で灯した明かりが一瞬消えた。すぐにアルフィリースが戻したが、その表情はリサともども青ざめていた。


「代々の王にこの記載は受け継がれ、スウェンドルは予想よりも早くこの書物の存在に気づいた。そして知ったのだわ。おそらくは自分が在位の時に、この国は亡びる運命だとね。彼の苦悩はいかほどだったのかしら」

「だから、予定よりも早く簒奪した? 何のために」

「1人でも多く、何も知らないローマンズランドの国民を生かすため。彼は有能な人材ほど、この国と自分に愛想を尽かしてくれればと願っていた」


 あえて暴君として振る舞い、愛想を尽かさせた。人材を国外から新たに登用することなく、去る国民にも人材も引き止めもしなかった。戦争を口実に、最低限の人材以外を国外に逃がした。何なら主戦力は第一皇子に預けて、侵略という形で国外に脱出させた。


「やり方こそ賛否あれ、彼ほど国民のことを考えた王はいないかもしれない」

「で、ですが、カラミティの監視下でそれほどのことをやり遂げたと?」

「いいえ、カラミティもスウェンドルの行動を黙認した――いえ、協力さえしたのね。自らの体を犠牲とし、交渉したのよ。カラミティは怪物とはいえ、本質は魔術士。対価を提示された交渉ならば、乗らなければならない」


 カラミティは、大量の犠牲を必要としていた。そういった点でスウェンドルとの交渉はもってこいただった。

 カラミティは来るべき時に備え、オーランゼブルに提示されたよりもさらに多くの犠牲を求めたのだ。



続く

次回投稿は、1/27(土)15:00です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カラミティの正体に少しずつ近づいていてワクワクします! 誰が倒すのかなぁ ものすっごい強そうです レイヤーがレーヴァンティンつかってくださると何とかなりそうなのですが、、 後は、アルフィリ…
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