表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2650/2685

終戦、その34~発動と覚醒⑮~

「(まぁ、こんなものだな)」


 最後の瞬間があっけないという場面をたくさん見てきた。どれほどの戦士であっても、死ぬときはあっけなく死ぬ。病で、流れ矢で、崩落に巻き込まれて。寝ている間に洪水に巻き込まれて死んだ奴だって知っている。

 最後まで劇的な死に様なんてのは、ほとんどない。まして穏やかな余生なんてものは、夢のまた夢だ。そう肚が括れていたからこそ、笑みがこぼれた。

 思った形とは違ったが、絶世の美女2人の傍で死ぬならこれ以上はなかろうと思っている自分と、まだこの場所では死ねないと思う自分がいる。だから一歩後退したのは、ほとんど反射だったと言っていい。その隙間に、ヴァイカの操る分厚い大剣が全ての種を止めていた。


「旦那殿!」

「!」


 そのヴァイカの大剣にひびが入るのを見て、ベッツが我に返る。もがくことこそ本懐であって、戦場で潔さなど不要と萎えかけた気力を奮い立たせた。

 

「チャスカ!」

「はっ!?」


 叫んだ瞬間、ヴァイカの大剣が砕けてなお種が回転して飛んできた。チャスカが無意識にその時間を巻き戻し、ベッツを守る、ベッツはその一瞬の隙に後方に跳んだ反動を利用して一気に窓を突き破って飛び出し、カラミティと思われる相手の所まで、50歩の距離を3階から3歩で距離を詰めた。

 飛ぶように迫るベッツに向けて、相手の指先がそのまま種に変形して撃ち出されるのが見える。ベッツが大きく横に跳んで避けると、今度は種が食虫植物のように変化して、突然空中で軌道を変えて襲ってきた。

 だがその植物が襲い掛かる先に、既にベッツの姿はない。


「遅いぜ、馬鹿野郎が」


 相手がベッツを見失った瞬間に、ベッツは相手を輪切りにし終わっていた。面で撃たれる矢衾でも防いでみせたことがあるのに、この程度で仕留められるものかよと、ベッツは小さく息を吐いて斬り終わった相手の顔を見ようと振り返った。

 だがそこにあるのは、ただの切り株。


「あぁん?」


 今度はベッツが面食らう番だったが、一度極限まで高まった集中力は、放っておいても次の行動を呼び起こした。

 足が向かうに任せ、空間に対象を定めて剣を振るった。するとそこに、ちょうど相手が雪の下から出現したのだ。今度こそ、ベッツは相手の表情をしっかりと見た。さすがに驚いた表情になるのは、小気味よかった。


「なるほど。やはり脅威ですね」

「何者だ、お前」


 短い会話の答えを待たずして、ベッツが相手の首を落とした。空中に舞う相手が笑いながら、まだしゃべっていた。


「わかっているくせに」

「お前がカラミティだな?」

「私を見つけ、見分け、そしてここまで肉薄する。本物の戦士はこれだから困る。魔法使いよりもよほど相性が悪い」

「光栄だね」


 敵の賞賛を素直に受け取ったベッツだが、またしても斬り終わった相手は切り株に代わっていた。いや、古びた虫塚か。切り口では見たこともないような虫が蠢き、寒さに晒されて活動をやめようとしているところだった。

 そしてかぜの向こうから、再び声が聞こえたのだ。


「(・・・お前とはまともに戦わぬことにしましょう)」

「逃げるのか?」

「(まさか。逃げられるものなら、むしろ逃げてみなさい。お前は圧倒的な戦力をもって潰してあげます)」


 虫の鳴き声のような深いな笑い声が吹雪の向こうに去っていった。ベッツは大きく息を吐くと、後から跳んできたヴァイカとチャスカに間髪入れずに指示を出した。


「救出行動は取りやめだ、いますぐ助けられるだけの人間を集めて、ここから脱出する」

「そんなに急ぐ必要が?」

「ああ、急ぐな。今すぐにでも脱出した方がいいだろうが、どうやら三の門が破られたようだ。合従軍が押し寄せてくるのを、チャスカはとどめてこちらのいうことを聞かせてほしい」

「どうやって?」

「あれとあれと、あれ――ヴァイカの舞で一撃を加えて、弱った建物を一気に老朽化させて倒壊させろ。足止さえすれば、嫌でもやつらはこちらの言うことを聞く。あと、ヴァイカ。ローマンズランドの王城の方に行けるか?」

「この断崖絶壁を自力で登れと?」


 吹雪の隙間からそびえたつ断崖絶壁が見える。だがベッツは当然とばかりに頷いた。


「無理じゃないだろ? 駄目なのか?」

「旦那殿の言うことなら、やりきってみせよう。して、何をする?」

「アルフィリースとその一行を助け出してくれ。あの女がいなけりゃ、そもそも脱出もできんかもしれん。頼むぞ、多分この戦いで一番重要な働きになるかもしれん」

「旦那殿はどうする?」

「ヴァイカとなんとでもして脱出するさ。こちらは構うな」

「心得た」


 ヴァイカは短く答えると、すぐに断崖絶壁に向けて駆け出した。そもそも空を飛ぶように行動できる銀の戦姫ヴァイカに、断崖絶壁はほとんど意味をなさない。すぐにでも登り切ってやると考えて行動に移したヴァイカの前に、大量の蟲が出現して行く手を阻んだ。


「空飛ぶ蟲――なるほど、これは私ではないと突破できないな。ちまちまやるのは性に合わなかったんだ。ようやく戦いらしくなってきたぞ!」


 ヴァイカは咆哮と共に、蟲の群れに突っ込んでいった。



続く

次回投稿は、1/19(金)16:00頃予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ