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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その28~発動と覚醒⑨~

***


「さて、ここに来たのは良いが・・・この惨状はどういうことだ?」


 ファーシルは転移魔術を何度か使用し、ローマンズランド近隣の場所へと密かに転移した。そこから自身が乗れる程度の山岳に住む巨鳥と交渉し、自らの脚として使用することにした。

転移魔術の連続使用で、おおよそ自身の半分近い小流オドを使用してしまっている。一休みしてから現地に向かうか、あるいは式獣を製作することも考えたが、どちらも正解ではないような気がした。


「オーランゼブル様の工房ではわからなかったが、この精霊のざわめきは普通ではないな・・・急いだほうがよさそうだ」


 体力と魔力の回復は後回しとして、式獣を製作する時間とオドは節約することとした。改めて考えると、一瞬で一行を運べる程度の式獣を作成し、それを何日も維持して先頭までこなすライフレスは種族を超えて化け物じみていると思う。


「オドからマナへの干渉や、魔術の種類や使い分けなどで私の方に一日の長があるとは思うが、あのオドの総量だけは真似できぬ。オーランゼブル様も、オドの総量ではライフレスに及ばぬとおっしゃっていたしな。まぁ、魔術の真髄とはあのような力押しにあらず、自然との一体化とは考えるが。そういった意味では実に人間らしく、魔法使いとは対極に位置する魔術士ではある」


 自然との融和を考えたかつての魔法使いや導師とは異なり、自分の肉体を魔力回路に変換してまで延命にこだわった人間の魔術士。純粋に天才と執念の産物だとは思うが、ファーシルの理想とする在り方とは全く違う。

 どちらかというと、アルフィリースなる女傭兵の方が自らの在り方を理解してくれそうだった。彼女は自然の中で精霊や魔獣にも親しみ、必要に応じて交渉することもあるという。自然との調和。それこそが、あるべき魔術士や魔法使いの在り方ではないのだろうか。

 だがファーシルはそこまで考えて気づいた。それが理想であるなら、オーランゼブルのように竜脈を捻じ曲げるような術式は、間違っているのではないのか。自然のあるべき主宿命さだめを、いかにハイエルフとはいえ捻じ曲げようとするやり方は、諫めるべきではないかと、ふと考えた。

 以前はこういった疑問をもつことなどなかった。だがピートフロートの「なぜ、どうして」を考えるうちに、オーランゼブルのやり方に疑問を持つようになったのは事実だ。もっと昔、幼かったころにはもっと疑問を持ってオーランゼブルに問いかけたような気がする。だがそんな時のオーランゼブルの答えは、いつも同じだった。


――全て私に委ねて、お前は言われたことを実行するがよい。咎も責も、私の一人のものだ――


 ゆえに考えることは諦めてきたが、そんな彼の思索を引き戻したのは現実の喧騒と悲鳴だった。

 いつの間にか、眼下にはローマンズランドの戦場があった。吹雪は強く、視界を遮っているが、視界だけではなく生命力やオドの流れでものを見ることができるファーシルのはさほどの影響はない。それに、吹雪も防御魔術で遮っているので、魔獣ともども凍てつくこともなく快適だ。

 とはいえ、喧騒はともかくどうして悲鳴が聞こえたのか。再度耳を澄ませて、ファーシルは答えを知った。


「喧騒は戦争そのものとして――啼いているのは精霊の方か」


 精霊が啼くという事象はほとんど見たことがないが、『虚ろ』が出現する直前ならありえたことだ。気づけば、周囲の吹雪も徐々にだが治まっている気がする。巨鳥に聞けば、この時期は風が強く、自分たちの種族でさえも冬の間は巣ごもりが普通だという。かつて山の尾根を覆うような巨大な個体がいた時にはまた違ったそうだが、普通は寒さで羽が凍ってしまうか、強風で羽が折れるそうだ。今は魔術で支障がないが、このくらいなら自分だけでも飛べなくもないだろうと。

 ファーシルは周囲一帯の様子を探った。魔術の起点となるべき場所はかつてのアノーマリーの工房のはずだが、そこには既に起点はなかった。その代わりとなる起点の反応が、そのすぐ近くに設置されていた。そして同時に、終点となるべき魔術の場所がごく近くに設置されていたのだ。


「馬鹿な・・・そんな術式は組んでいないぞ!?」


 オーランゼブルの組んだ魔法はあくまで循環式の川のようなものだ。そこに犠牲となった人間の生命力を投下し、流れを強く澱みなく補強する。その魔法陣を発動させるための起点はあったとしても、流れに終わりはない。終わりを作ってしまえば決壊する堰のごとく、流れ始めた膨大なマナが一点から噴出されることになる。

 天変地異が起きる。ファーシルの背中に大量の汗が流れた。そして刻々と弱まる吹雪から感じる限り、オーランゼブルに報告に戻るような時間はない。オーランゼブルの懸念は嫌な方向で当たっていた。だがここに来るまで、それほど重大な事態だとは思ってもいなかった。オーランゼブルの魔術の精度が悪いのか、それとも予想外の事態が起きているのか。

 ファーシルはまず事態の把握に努めようとした。『虚ろ』が発生しそうな気配は不思議とない。戦場で大量の精霊が消耗されれば『虚ろ』が発生することもあるが、それがないのだ。ならば弱まる吹雪はなんなのか、精霊が啼くのはなぜなのか。

 焦って考えがまとまらないファーシルに、頭上から彼の疑問を知り尽くしたかのように答える声があった。



続く

明日も投稿できたらしますね。まだ不足分を補う必要がありますので。

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