表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2639/2685

終戦、その23~発動と覚醒④~

「パルパルゥ・・・!」

「功名心しか頭にないような女だ。お前らじゃわからんかもしれんが、若い時のミストナにそっくりだでなぁ」

「いかに功名心が強かろうが、今のフリーデリンデは全て贄とでもするつもりか? 仮にも仲間だろうが」

「そうしてもいいと思っているだろうし、ミストナも同じようなことをしたさ。だが前と違うのは、そいつも・・・ぐふっ」


 ドードーが大量の血を吐くt同時に、急速に目から光が失われていく。もう時間がない。

 何事かを言おうとするサティラを制し、ドードーがゼホに告げた。


「納得しろとは言わん、だが呑み込め。そのうえで、どうするかはお前が決めろ」

「・・・わかった」

「お前が今やるべきことは2つある。一つはカトライアを助け出せ。鉄鋼兵が生き延びるにはそれしかない、いや、なくなった」

「なぜだ? 俺たちは忠実に、ローマンズランドの命令を実行してきたんじゃないのか? いや、待てよ」


 鉄鋼兵に利用価値があるなら、こんなことにはなっていないのか。では、この惨劇を起こした奴は、鉄鋼兵すらどうでもよいと思っているのだ。だから、この惨劇が起きた。

 利ではない、戦後のことも考えていない。ただ憎い、無性に憎い。だれでもいいから殺してやりたい。そんな怨念めいた怒りをこの現場には感じている。

 ゼホが何を言わんとしたいか、ドードーにはわかったようだ。


「俺も、スウェンドルも、ミストナもパルパルゥも。カラミティを勘違いしていた。あいつはローマンズランド以外を滅ぼしたいんじゃない。ローマンズランドも含めた全てを滅ぼしたいんだ。ひょっとしたら、自分も含めてな。もう俺たちは用済みになった。アルフィリースの仲間になりそうになった俺たちは、もはや不要だ。カトライアもそう判断されたかもな」

「アルフィリースを?」

「それが2つ目だ。アルフィリースを何としても助け出せ。理由はわからんが、カラミティはアルフィリースを恐れている。もしこの先カラミティを止められるとしたら、アルフィリースしかいない」

「それほどあの女傭兵が重要か?」

「俺たちがこんな目にあったのが良い証拠だ。カラミティが手づから殺しに来るくらいには、俺たちも警戒されていたのさ」


 ドードー自身も完全に理解はしていないが、そういうことなのだろうと感づいていたし、納得もしていた。ドードー自身、最初に見た時になぜだか一生勝てそうにもない相手だと思ったのだ。戦うよりは仲間でいた方が得策で、それにその方が面白そうだと直感した。そしてなぜか、それはゼホにも理解できるような気がした。

 ゼホは手帳を閉じると、懐にしまい込んだ。読みたくはないが、この先必要になるものには間違いない。今はたしかに、それよりもやるべきことがある。カトライアを始めとした部隊アフロディーテの女性たちはもっともこの第三層で身を犠牲にしているはずだ。限界など、とうに迎えているだろう。助けるなら一刻も早く行動に移す必要がある

 今やローマンズランドも自分たちの立場を保障してくれない以上、天馬騎士の助け失くしてここから脱出することは不可能だ。いかに傭兵とはいえ、このまま合従軍が攻め込んできたら有無を言わさず制圧、殺戮される可能性がある。それまでに脱出する算段が必要だ。時間はあまりない。

 ドードーの流れ出る血が止まりかけていた。傷が塞がったのではなく、血が流れ出きったのだろう。腹を押さえていた手は床に垂れ、既に口をきくのも無理そうだ。これが大陸に名を馳せた傭兵の末路とはなんとも悲しいことだが、これこそが因果応報だともいえるのかもしれない。傭兵の死に際としてもっとも多いのは野垂れ死に。いつだかベテランの傭兵が酒の席で冗談交じりに言っていた言葉を、ゼホは思い出した。

 ゼホの母親は、常にゼホに「世に向かって胸を張れる人間であれ」と言ってきた。病で早逝したが、ひょっとしたらドードーの裏取引のことも感づいていたのかもしれない。もう顔も思い出せなくなりつつ昔のことだが、息子に野垂れ死にしてほしくはなかったのだろう。無論、ゼホもそのつもりはない。

 ゼホはドードーの最後を看取ってから行こうと考えていたが、まだドードーは何事かを言おうとしているらしい。その言葉を聞こうと、サティラが彼の顔に耳を近づける。そして何事かをつぶやいた後、ドードーはこと切れた。ゼホは祈る精霊を持たないが、せめて散っていった仲間の元に行ければいいと思って祈った。

 だがサティラの方が茫然として、ドードーの死体を見下ろしている。普段と違う様子のサティラに、ゼホが戸惑う。


「――いけない。こうしている場合じゃないわ! 皆に伝えないと!」

「どうした、何を親父は言ったんだ?」

「カラミティの正体を!」

「何を今さら。オルロワージュ以外に誰がいるというんだ。本人がそう認めていたと、アルフィリースも言っていたそうだが?」

「違うって、オルロワージュじゃないって。この吹雪も何もかも、最初から関係なかった。カラミティは最初から――黒の魔術士も、ローマンズランドも、自分すらも欺いていたのよ!」


 悲鳴に近いサティラの声と同時に、三の門の方で大きな爆音が聞こえた。吹雪の向こうにうっすら見える黒煙が何を示すか、わからないゼホではない。崩れる三の門は同時に、ローマンズランドの終わりの始まりを示しているのだ。



続く

次回投稿は、12/23(金)18:00予定ですが…いけるか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ