終戦、その18~ハイランダー家⑯~
「ミラ、余計なことは思い出さなくていい」
「いや、でも・・・そもそも、どうしてルイ姉さんがここに? レダ姉さんは? エルリッヒは?」
「私は依頼でここに来た。レダ姉さんとエルリッヒは・・・実家で私たちの帰りを待っているさ」
ルイの言葉にミラも何か腑に落ちないものを感じたようだが、それを口にすることはなかった。ミラは愚直だが、鈍感ではない。しばしもの言いたげな目つきでルイを見つめた後、ふぅと息と小さく吐いた。
「傭兵として来たということ? ハイランダー家の一員ではなく?」
「そうだ。私はハイランダー家とは縁を切った人間だ。今更ハイランダー家のために働く気はないし、働けば迷惑となるだけだろう」
「ローマンズランドのためになら?」
「故郷に思うことがないわけではない。だから戻ってきた」
「傭兵としての依頼で?」
「・・・素直に言ってしまうと、傭兵として戻ってくるために依頼を受けた。そんなところだ」
ルイの言い方に、ミラがどこかおかしそうに相好を崩した。
「ルイ姉さん、変わったわ」
「そうか?」
「雰囲気が丸くなったし、無駄な気負いがなくなった。昔はレダ姉さんの代わりを務めようと、無理しているように見えたから」
「・・・レダ姉さんの代わりなんて、土台無理だったのさ。わかったのは、ローマンズランドを去ってからだった。どこまで行っても、私は私でしかなかった」
ルイの言い方に、ミラも力強く頷いた。
「同感だわ。私も最近ようやく、そう思えるようになってきた」
「そういえばスウェンドル王の親衛隊になったそうだな? あの王様に思うことがないわけではないが、おめでとうと言うべきだろうか」
「コネではなく実力で出世したと思うから、それに関してはありがたく賞賛を受け取るわ。でも私が護るべきは王ではなく、ウィラニア皇女殿下だと思っているの。そしてそれが王の意志でもあると理解しているわ」
「どういうことだ?」
ミラはかいつまんで親衛隊に任命された経緯と、それにまつわるスウェンドルやこれまで起きたことを説明した。その話を聞いて、レクサスやジェイクですら思わず顔を見合わせていた。
「・・・その話を聞いていると、スウェンドル王は全て知っていて、甘んじて愚王の誹りを受けていたように聞こえるな」
「あるいは本当にそうだったのかもしれない。そして王は自分ではなく、アンネクローゼ殿下とウィラニア殿下を護るようにと言っていた」
「第一皇女と第三皇女は?」
「既に国外に退去済みよ。他の王族も、ブラウガルド第二皇子以外は全て遠征に出立されたか、退去されている」
「ローマンズランドから退去? どこにだ?」
「グレナダ国のはずよ」
「・・・馬鹿な」
歪んだ表情のルイを見て、ミラが首を傾げた。
「何かおかしいの? 従属国の一つのはずだけど」
「グレナダ国は第一皇女の母――つまり亡くなられた前皇妃と激しく正妃の座を争った女性がいた国だ。スウェンドル王は丁重に扱っていたが、亡くなられた皇妃はグレナダをこれ以上ないくらいに冷遇していた。私も見たことがあるほど、公式の宴でも蔑まれていたほどだ。そんなところに皇女を預ける? 暗殺しろと言っているようなものだろう。しかもグレナダは歴史上、最後までローマンズランドの支配に抵抗していた国だ。力でもって屈服させられ、代々王族に連なる女性を差し出すことを忠誠の証として受け取ってきたはずなのに、今の後宮にはグレナダ出身の女性はいないはずだ。つまりは――」
「――第一皇女を人質にして、反乱を起こせと言っているようなものよね?」
「そうとしか考えられんな」
「ちょっといいっすか?」
ミラとルイの会話に、レクサスが割って入った。
「この状況下で、グレナダがローマンズランドに反乱をしない理由がない。つまり、そう王様が仕向けたって理解で合ってます?」
「合っているだろう」
「つまり、スウェンドル王は相当前からこうなることを予見していたってことっすよね?」
「馬鹿馬鹿しいが、そうとしか思えない」
「国の崩壊を王が画策した――となると、第二皇女と第四皇女を手元に残す理由はなんです?」
「そこまでは知らんよ。それこそスウェンドル王に聞かねば」
「いやいや、大事なことでしょ。皇女2人を助けるのはまだありとしても、火中の栗を拾う真似になりかねない。下手したら、俺ら反逆罪に問われかねないっすからね?」
「そうは言われてもな」
「・・・多分、この国が終わる瞬間を間近で見せたかったんだと思う」
突然ジェイクが呟いた。予想外のその言葉に、一番くってかかったのはミラである。
続く
次回投稿は、12/14(木)19:00です。