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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その13~ハイランダー家⑪~

「見たこともないくらい酷い顔っすね、姐さん」

「・・・もういい」

「こっちはよくないんすよ。と言いたいけど、よく考えたら俺にも頑張る理由があるような、ないような」


 レクサスは露骨に困り顔をした。レクサスにとってブラックホークは飯の種にしかすぎず、在籍しているのも自らの剣を鍛えるのに丁度よいのと、今までブラックホークでいることで無双できたからにすぎない。元戦災孤児で戦場荒らしのレクサスにって名誉など握り飯一つほどの価値もなく、ブラックホークもちょっと愛着がある仮宿くらいの位置づけでしかない。ベッツとヴァルサスは恐ろしいが、彼らに面と向かって歯向かわない限りは抜けても文句は言うまい。

 なんだったら、己の命すらレクサスにとってはさほど価値がないのだ。取り立てて人生の目標というものがなく、剣の腕に関しては向上心があるものの、それほどのこだわりを持っているわけではない。戦う場所で、状況で、信念で。その剣はいかように輝きもすれば腐りもすることをレクサスは知っている。

 ただルイだけは違った。ルイはレクサスにとって唯一の執着であり、輝きでもあった。それこそ太陽のような輝きではない。そっと野原に離れて咲く、鈍色の花。そんな輝きだとレクサスは思っている。どこかそっぽを向いたようなその輝きがいじらしくて、理由もなくレクサスは気に入っているのだ。

 レクサスはあたまをばりばりと掻いた。全ては後付けだ。ルイのために、この女のために命を張るのに大きな理由はいらなかった。別にルイがハイランダー家に戻り、ローマンズランド側について戦うのなら、仲間を撫で切りにするのも厭わないつもりだった。だがどうにも事情が違うようだ。

 戦場荒らしの出自にも、それなりに矜持がある。戦場そのものを作り出し、人間を食い物にするような怪物には手を貸す気にはなれない。

 そんな悩むレクサスを見て、エルリッヒが嫌悪感を露わにした。


「なんだ貴様は。貴様も薄汚い傭兵か」

「まぁ薄汚い傭兵っすね。だけどそれを言っちゃうと、あんたの姉さんもそうだけど」

「姉さんは薄汚くてもいいんだ。僕がもっと穢してあげるから」

「うわぁ、最低な弟。あんたの方がよっぽど薄汚い騎士で貴族みたいだなぁ。そんなのに姐さんはやれないなぁ。姐さん、弟クンをやっちゃっていいっすか?」


 それでも返事をしないルイに対し、レクサスは首を傾げたあとおもむろにルイを抱き寄せて口づけをした。エルリッヒとレダが驚きで目を見開き、ルイもそれは同じだったが、思わず反射的にレクサスを殴り飛ばしていた。


「何をする!」

「いったぁ~。そう、それそれ! 俺が欲しいのは、それ!」

「気色の悪いことを言うな! 呆けていれば調子に乗って! どうやらわからせないといけないようだな?」

「是非ともわからせてほしいっすね。ただその前に、ちょっとあの弟クンの皮をかぶった化け物を退治しません? ここに援軍は来ないっすから」


 その言葉に、ルイはようやく冷静さを取り戻した。そうだ、他の場所はどうなっているのか。ここに来た他の面子は、ブラックホークは。ハイランダー家が元凶だとして、敵はそれだけではない。

 だがそのことも、レクサスの一言で十分だった。


「ベッツの爺さんから伝言っす。『因縁があるなら全て自分でケリをつけろ、大人だろ?』だそうです。あと、『任せた』とも」

「・・・ふん、やる気にさせてくれる!」

「いや~どうかな~? ただ面倒なだけの気がするな~?」


 レクサスは軽口を叩いたが、他の局面が決して容易くないことを知っている。第三層の各屋敷に、それぞれ数が不明な人質をとって万を超える陸軍が陣取っているのだ。しかもカラミティの虫と、エクスペリオンの魔王化付き。それらを制圧するのに無傷で終われるはずがない。時間もどれほどかかるやら知れたものではない。

 だがスウェンドルのいる王城に攻め上がるには飛竜が最低限必要で、その移動手段を確保するには竜騎士団の詰め所を占拠する必要がある。詰め所だけ占拠しても、撤退のことを考えればそこを維持する必要がある。そしてイェーガーにはイェーガーの仲間を救うという目的があり、そのためには三の門周辺の大きな貴族の館を複数陥落させる必要があった。今頃、ベッツたちは死闘を繰り広げているはずだ。

 ハイランダー家が元凶だとしても、援軍を出す余裕はない。それが正直なところだとレクサスもルイも知っていた。


「姐さん、いつものように。俺が受けて、姐さんが仕留める。息がぴったり合っているとの所を見せてやりましょ!」

「お前と息が合ったことがあるか? 私が合わせてやってるんだ」

「酷い! とどめは任せますが、躊躇したら俺が死ぬんでよろしく!」

「お前も死んだ方がいいかもな? 先ほどされたことは一生忘れん」

「本当に酷い!」


 それこそがぴったり息が合っている、とは誰も言わない。彼らだけがわかっていればいい、いつもの符丁のようなやり取りだった。既に彼らの呼吸はいつものように合っている。ベッツが2人を組ませるのには理由がある。それはヴァルサス以外で唯一、ベッツが鍛錬に値しうる相手だと認めているからだ。絶え間なく強くなるベッツの成長に合わせるように、この2人も成長してきたのだ。



続く

次回投稿は、12/1(金)19:00です。まだ連日投稿続きます。

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