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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その4~潰える者、残される者④~

「クルムスだけ特別扱いはしませんからね~」

「んなっ! 馬鹿、そうじゃなくてだな!」


 大陸広しといえども、面と向かってコーウェンを馬鹿呼ばわりできるラインは希少な存在だと、コーウェン自身も認めている。しかもそれほど心地悪くないのだから不思議なものだと、コーウェンも苦笑した。

 アルフィリースや自分の策略と五分に話すだけの視点と割り切って考えるだけの思考回路や冷静さを持ち合わせながら、同時に赤レイファン話題を出した途端に赤面するようなこの素直な反応ができるのだから。

 

「ひょっとして、アルフィリースはこれも予想していたのか? だからレイファンと土地の割譲に関する交渉をしていたと?」

「まさかぁ~。アルフィリースだって未来を見通しているわけじゃありませんが~、信頼しておもねることと~、全てを始めた者としての責任を分散化することは別だと考えているだけでしょう~」

「表面の単純さとは裏腹に、疑り深い奴だなぁ。だがその気質が今は俺たちの助けになるかもしれん。話はどのくらい進んでいる?」

「実はそれこそもう支部の建設が始まっているはずでしょう~。アルフィリースは時間があるときにラキアを駆りだしてレイファン王女と交渉をまとめていましたから~。ローマンズランドに向かう前に~、整地のための人足は現地に集合して作業を開始していたはずですから~」

「知らなかったぞ?」

「そりゃあそうです~。私もローマンズランドに彼女が向かう直前に聞かされたくらいですから~」

「ちょいちょいイェーガーを空けていたのはそのせいか」


 改めアルフィリースの周到さに恐れ入ったラインだが、そのおかげで次の一手が打てそうだ。


「じゃあさっそくそちらも使えるかどうか、視察するのか?」

「その時間がないかもしれないので~、保養地という名目で負傷者の療養とその管理として~まずは2000名ほどそちらに送って拠点の管理に充ててみようかと~」

「結構だ、早いほどいいかもしれん。あと一つ、リディルの行方は知れないな?」

「ええ~。いなくなったことはレヌール率いるセンサー部隊も把握していましたが~、特に監視するように伝えていなかったのでそのままですし~。そもそも人間離れした速度で動くので追跡は空でも飛ばない限り不可能です~」

「まぁそれはいい。で、残された竜が暮らす場所に関してだが、ちょっとした交渉をディオーレ様とまとめてきた。これは竜たちにも相談したいことだが、代表はここにいるか?」

「すぐに呼べますが~、何の交渉ですかぁ~? まさか~、こっちに急いできたのもそれがあって~?」


 コーウェンの言葉に、ラインが一段と神妙な表情で応えた。


「アレクサンドリアとイェーガーの連合軍で、ローマンズランドに攻め込む交渉だ」


***


 東の戦場が落ち着き、次の動きが起ころうかという動きと相反するように、ローマンズランドの国内――スカイガーデンの戦闘は激化していた。

 春も近いと思われていた季節にこれほどの暴風が吹くのは珍しいことだった。ローマンズランドにも風水師はいるが、彼らをしてこれほどの予想を立てていたわけではない。隣同士の建物に行くことすら躊躇われるこの吹雪の中、アリスト率いる魔晶石ロードストーンの全身鎧を装備した神殿騎士団の小隊が一つずつ館を襲撃していた。


「一階、制圧終わりました!」

「二階はまだ戦闘中! 要救助者と虫に支配された敵の区別がつかない状態です!」

「やむをえまい。その場に伏せて降服せぬ者、少しでも動く者は全て首を刎ねろ!」

「はっ!」


 センサーがいれば、こうはならなかったかもしれない。だがイェーガーの中でも腕の良いセンサーは全て東の戦場に駆り出されており、リサはこの場にいない。神殿騎士団のセンサーは虫に支配されたかどうかの区別はつかず、加えて会苦スペリオンが蔓延した状態では、もはや正常かどうかも区別をつけることは困難だった。

 そしてレクサスが懸念した通り、アリストは冷徹な判断をとった。


――疑わしきは全て処分。


 愚かなローマンズランド陸軍も、その相手として招聘されてしまった傭兵の女たちも、たまたまその館の持ち主であった貴族も、その召使たちも。館はたちまち血の海と阿鼻叫喚の渦となり、一つ終われば次の一つ、その次へと恐怖と殺戮は伝播していった。

 アルネリアの神殿騎士団は全身鎧のためその表情すら伺えず、ただ命じられるがままに容赦のない殺戮を繰り返していた。

 そんな虐殺が行われているとはまだ知らず、目標とする館へと向かう者がいた。ブラックホークの2番隊隊長のルイであった。



続く

次回投稿は、11/10(金)18:00です。

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