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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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終戦、その3~潰える者、残される者③~

 本当はアルフィリースの下にすぐにでも馳せ参じたい。だが役割的に、物理的にそれをすることもできない。もどかしい思いに、コーウェンは思わずクラウゼルの方をちらちらと盗み見た。

 その露骨な視線と行為の意味を、クラウゼルは理解できないわけではない。


「・・・なんですか。私はアルフィリースの下にも行きませんし、ここであなたの代わりもしませんからね」

「そこを曲げて何とか~」

「別段我儘でやらないと言っているわけではなく、私がここでアルフィリースに鞍替えするのは簡単ですが、私も矜持と義理はあります。ローマンズランドに敵対するような行動はとても取る気になりませんし、手土産もなくアルフィリースに頭を下げる気もないのですよ」

「ほほう~、じゃあ何かお考えがあるのですね~?」


 意地悪そうに、そして興味深そうに探ってくるコーウェンの視線を、迷惑そうにクラウゼルは正面から受けとめた。


「・・・姿を消す振りをして、少々諸国の流れを探ってこようと思っています。それに、ローマンズランドの捕虜たちが諸国でどのような扱いを受けているかもこの目で見ておきたい」

「あらら~? 情が湧いちゃったんですか~?」

「私は木石じゃないんですよ。私にだって大事に思うことはあります」


 そんな会話をしながら、クラウゼルは指文字でコーウェンに意図を伝えていた。その指文字は賢人会でしか使われないもので、レヌールにも内容はわからなかった。ただコーウェンの表情が一瞬だけ強張ったのを、レヌールは見逃さなかった。

 そうしてまた数日が経過し、アルネリアやアレクサンドリアに協力していた諸国はあっさりと解散していった。最後まで残ったのはアレクサンドリアとイェーガーだけである。そこに何の前触れもなくふらりとラインが合流してきたので、これにはコーウェンも驚いたのだ。


「あらら~? 副長はまだ療養期間中じゃないんですか~?」

「馬に乗りながらのんびり旅を楽しむくらいは問題ないさ」

「回復具合は~?」

「ま、八割がたってところだな」


 ラインがコーウェンの傍にいるレヌールに視線をやると、それだけでレヌールは事態を察し、天幕の外へと下がっていった。この天幕は既に結界の中と同義、話し合いの内容が漏れることはない。


「部隊はどうだった?」

「怖いくらいに策がはまりまして~。イェーガーの損害は微々たるものです~」

「具体的な死傷者は?」

「死者68人、重傷者204人~。療養が必要なほど重態な者はアルネリアの陣払いと共に連れて行ってもらいました~」

「それが誰か、背景は把握しているな?」

「ええ~、もちろん~」

「復帰するならそれでよし、そのまま引退するなら補償してやれ。もし復帰するなら見張りをつけろ」


 ラインの指示は想定の範囲内だったが、念のためコーウェンは質問することにした。


「例の日記、見つかったんですね~?」

「ああ、想像以上にヤバい内容だった」

「誰か見た人は~?」

「まだいない」

「私が拝見しても~?」

「構わん。28頁あたりからだ」


 コーウェンが頁をめくりしばしバーゼルの日記を眺めた。コーウェンが表情を変えないようにそれを読み、しばらくしてぱたんと閉じると、天を仰いで溜息をついた。


「これ~、まずくないですかぁ~?」

「だからお前に見せた。一緒に背負ってもらう」

「これで私も逃げられませんね~。ま、逃げる気なんて最初からありませんが~」

「相手も見逃しちゃくれんさ。まだ誰もその日記の内容は知らないだろう」

「リサとアルフィリースにも見せないといけませんね~」

「それ以外にはまだ、伝えるわけにはいかないだろうな。エクラもだ。あいつは腹芸ができんし、させたくない」

「いざという時に及ぶ影響が大きすぎますね~。イーディオドも巻き込んで国際問題になる可能性がありますから~。あるいは、いっそ全て巻き込むかどちらかですね~」

「全てっていうのは?」

「イーディオド、クルムス、アレクサンドリア、ローマンズランド、その他イェーガーが関わってなおかつ好意的だった国です~」


 コーウェンの言葉にラインが渋い表情となった。何が引っかかったかは、すぐにわかる。

コーウェンは意地悪そうに、目を細めて忠告した。



続く

次回投稿は、11/9(木)18:00です。

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