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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2610/2685

開戦、その284~夢の跡と笑う者㊹~

***


 時を置かずして、ローマンズランド軍への凶行とでもいうべき刑罰が執行された。

 多くの将兵が捕虜となることは承知していたので武装解除に応じ、十数名の少数に小分けして収容されるところまでは承知したが、その後でアルネリアが宣告した刑罰にローマンズランド軍は一瞬の絶句。直後、憤怒の声が溢れた。

 多くの者が刑の執行に納得などせず、ついに抵抗しては無残な死体と死に顔を晒し始めた。ローマンズランドの兵士は生来大柄な者が多く、素手であっても抵抗すれば危険とみなされた為、檻に入れられた上で槍や弓矢で刑が強制的に執行されることもあった。当然仲間や上官を庇い傷ついた者も多数でたが、彼らに対しては何ら手当が施されることはなく、苦しんだ末に死んでいった者が多数おり、連合軍の陣内は阿鼻叫喚の渦と、怨嗟の声で満ちていった。

 そして一番悲惨だったのが、飛竜の処刑だった。最初は大人しく引かれて動いた飛竜も、仲間が次々といなくなって帰ってこないことをおかしいと思ったのか、はたまた風に乗って流れてくる仲間の血の臭いを嗅いだのか。途中から冷静さをなくした飛竜たちは繋がれたまま暴れ始めたので、最後には軍を出動させて戦闘態勢で討伐のように飛竜を処分した。

 処分された飛竜は一万頭以上となり、全ての飛竜の処分が終わったのは日が暮れる頃となった。彼らを燃やすための火は三日三晩燃え続け、中には飛竜の喉元にある火を吹くための火腺に引火して定期的に爆発を起こしたので、アルネリアを始めとした連合軍はそれらを見張るために寝不足になってしまった。

 その様を眺めていたローマンズランド軍は怨嗟の声を始めこそ上げていたが、何ら状況が変わらないことを悟ると、今度はただ黙ってその様を恨みを込めて睨み据えた。

 その様子が不気味でかつ鬼気迫る表情をしていたので、多くの将兵はローマンズランド軍の捕虜に近づくことすらせず、遠巻きに警護をし、食料を彼らを収容している檻の中に投げ入れることしかできなかった。

 彼らの様子を、当然ディオーレやオーダイン、それにレーベンスタインもつぶさに見ていた。ローマンズランドのこれまでの横暴とやり口に関して彼らも思うところがあったわけだが、それにしてもアルネリアの苛烈なやり方を見て、彼らも全くの平静で見過ごしていたわけではない。

 特にディオーレは、その感情を一人押しとどめることが無理だった。あるいは幼くして国の重責を背負ったかつての自分と重ねたのかもしれない。


「貴殿ら、ここまでやる必要があったと思うか?」

「それは人間としての意見ですか、それとも軍人としての意見ですが、ディオーレ殿?」

「どちらもだ」


 ネリィは既にこの現場にはおらず、誰かが代行でこちらに来るとのことだが、それまではこの現場は宙ぶらりんの状態で放置された。既に沙汰は終わったとでも言いたいのか、ネリィは飛竜を燃やしていた火が消えると、さっさとこの場を去ってしまった。

 彼女が最高司令官だったわけではないが、自分より年嵩の騎士たちに指令を次々と下す様に、誰もが彼女が司令官であるように意見を求めた。そしてその判断が苛烈であること以外、誰も彼女の意見に異を唱えなかったのも事実だ。

 現に、ローマンズランドの将兵以外で、この軍には何ら問題は起きていない。それはディオーレですら認めていることだった。

 ただ最後、去り行くネリィにミルトレなる騎士が意見し、激しく食いついていたのをディオーレは見た。話を聞くにアルネリア内のグローリア学園ではミルトレの方が先輩のようだが、現在の立場はネリィの方が上。それでも、人として譲れぬ一線をどう思うのか、ということを責めていたような気がする。

 軍人としては、ミルトレの判断は甘いとディオーレは思う。だが学園を卒業したばかりなのか、あるいはまだしていないのかの年齢の少女が下す判断としては、適切とはいえないだろう。むしろ失敗し、あそこで自分やレーベンスタインがたしなめるくらいが丁度よかったのかもしれない。

 その考えはオーダインも同じなのか、ディオーレの心中を推し量るかのように答えた。


「この局面だけを見れば、否だ。だがローマンズランド本国での戦を経験した身としては、是だ」

「それほどに西の戦は酷かったのか?」

「ああ、酷かった。聞けば、あのネリィという少女は西にも従軍していたそうだ。ならばローマンズランドの非道さも目にしたことだろう。合従軍にも色々とあったことは認めるが、それにしてもローマンズランドの人望のなさは極まっていた。戦闘の前に、王都の住民の半分が脱出したのだからな。どのみち、国としては長くなかったはずだ。その現実が、彼らを追い詰めたとはいえ――」

「貴殿、言っていることと表情がちぐはぐだぞ」


 口では苛烈な現実を肯定しながらも、苦しそうな表情をするオーダインを、レーベンスタインがたしなめた。高潔な騎士は、少しだけ眉をひそめただけで冷静に告げた。



続く

次回投稿は、10/25(水)19:00頃を予定しています。

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