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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その270~夢の跡と笑う者㉚~

「(手は常にある。常にある、が――)」


 奥の手を使ってもなお、シェイプシフターが倒せるかどうかは未知数だ。そもそも、あれは倒せる相手なのか。

 アルベルトが逡巡していると、レーベンスタインが視線を外して崩れたローマンズランド軍を追撃していった味方の方を眺めている。戦いの中で敵から目を離すような男ではないはずだが、その表情がやがて露骨に曇った。


「しまった・・・貴様、囮か」

「気づかれたか」


 クク、とシェイプシフターが不敵に笑う。2本の剣を手の中で弄びながら、得意げに4人を見回した。


「お前たちほどの剣士を抑えられる逸材はローマンズランドにはおるまい。ゼムスは対抗できるだろうが、それでも2人を同時に相手するのはちと苦しかろう。最強の駒であり指揮官でもある連中が4人もいるのだ。この戦はどうあがいても負ける」

「だとして、ここに我々を一人で引き付けたところで結果はおなじだろう」

「そうでもないぞ? 現に戦況は持ち直しているはずだ」


 アルベルトが戦況を見ると、いつの間にかアレクサンドリアとイェーガーの連合軍は押し返され始めていた。神殿騎士団はまだ押し込んでいるが、逆にこのままでは孤立しかねない。単純な追撃戦ではなくなっているのだ。


「敗走しながら陣形を立て直す、だと? 馬鹿な、先ほどの敗走が見せかけだとでも言うのか」

「いや、戦争はお前たちの勝ちだ。だが俺は負けぬ。言ったはずだ、私は『軍団』だと。全能力を使って顕現できるのは一人分だとしても、指揮や命令程度でよいのであれば、ほら、この通り」


 シェイプシフターが差し出した指先が、何人もの小さな人間のように変形した。この4人は手ごたえから気づき始めていたことだが、こうして目の当たりにするとやはり驚きを隠せない。


「貴様、不定形生物か」

「そういう分類になるのだろうな。あまりお仲間を見かけたことはないが、いわゆる固有種というものなのだろう」


 シェイプシフターは取り込んだ生物の能力、記憶をそのまま再現することができる。そのものが魔術士ならば魔術を、剣士ならば戦い方を。寸分たがわず再現することが可能なのだ。

 取り込んだ生物の数を数えたことはなく、無数の姿と戦い方を模倣、再現することが可能。ゆえに、軍団。それとは別に、もう一つ軍団と呼ばれるにふさわしい能力がある。


「一応この体なのでな、分体を作ることも可能だ。これにローマンズランドの指揮官を乗っ取らせ、指揮をすればイェーガーの伝達能力を上回る軍勢の完成だ。何せ元が一つの体だからな。思考や視界も共有しながら動くことが可能だ」

「それは、つまり――」

「ローマンズランドがどれほど瓦解しようが、私を倒さぬ限り総崩れは難しいぞ? 通常の戦いでは追い込むことはできないことだけは、説明しておこう」


 そう告げて、さも楽しそうにシェイプシフターは高笑いをした。勝ちが勝ちにならない、その事実を告げた優越感を楽しんでいた。

 その高笑いが突如として途切れた。誰もが見逃すほどの速度で、アルベルトがシェイプシフターを串刺しにしたのだ。押しのけた空気の壁が、遅れてディオーレの髪を薙ぐ。

 胸を貫かれて宙に浮かされたシェイプシフターが、一瞬驚いた後でさらに得意げに笑っていた。


「フハハ! 貴様、やはり抑えているようだな? どうだ、全て解き放てば私とよい勝負ができるかもしれんぞ?」

「今は貴様を殺すことができればそれでいい。が、それはどうやら私では無理なようだ。貴様、核まで分裂できるのか」

「ご明察だ」


 通常、不定形生物なるものには体を維持するための核がある。それは一つ、ないしは複数あるのだが、貫けば何らかの反応を見せる。

 アルベルトは、シェイプシフターの核を間違いなく貫いたはずだった。胸だろうとあたりをつけて、一直線に貫きその手ごたえがあった。なのに、その手ごたえが突如として闇に霧散したかのように消えた。

 剣では倒せないかもしれない。そうアルベルトが感じた瞬間、彼にも予想できない救援が現れた。



続く

次回投稿は、9/23(土)21:00です。

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