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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その268~夢の跡と笑う者㉘~

「ぬっ!?」


 シェイプシフターの背中に、馬蹄の音と同時に衝撃が走った。確認するより早く、防衛本能が攻撃を受け流した。そうでなければ深手は間違いない一撃だった。


「なるほど、この間合いでも駄目か」

「貴様は――」


 長槍を携え、黒い鎧を身にまとった騎士。その姿にはシェイプシフターも覚えがあった。


「その姿、カラツェル騎兵隊の黒騎士――なるほど。貴様が今のオーダインか」

「今の――とは、また妙な物言いだ。まるで他のオーダインを知っているかのような口ぶりだな?」

「知っている、と言ったら?」


 その言葉に、オーダインがひゅん、と槍を回して尖端をシェイプシフターに向けた。


「なるほど、先代たちと比べて私の槍の冴えはいかほどであるのか、気になるところではあるな。貴様にさえずってもらおうか?」

「確認するまでもない、お前が一番だ。馬上槍をここまで自在に扱い、私の虚を突けるのだ。人馬一体のその技術が超常の技術でなくて、何だというのだ。それでも、初代には遠く及ばんがね」


 その言葉に、兜の奥に隠れたオーダインの表情が強張るのがシェイプシフターにもわかった。面と向かって劣っていると言われれば、当然騎士ならば誰しもそのような反応を見せるだろう。

 だがシェイプシフターにとって、その反応は不思議なものだった。なぜなら彼もまた初代オーダインをよく知る者だったからだ。


「初代オーダインはそもそも馬上槍を得意としておらず、地に足をつけて戦うのが奴本来の戦い方だ。技術そのものが違うものを、どうして一様に比べられようか。だがしいて言うなら、奴の槍はそれこそ現実のものとは思えなかった。私が微塵にも反応できなかったのだ。奴がその気なら、私は死んでいてもおかしくなかった」


 シェイプシフターが語る言葉に興味があるのか、リアンノ率いる一団が魔術攻撃を仕掛けそうになるのを、オーダインが手でとどめていた。


「いまだにその槍を剣で破る術は思いつかん。ああいうものを至る、と呼ぶのだろうな。それでもなお未完成と言い張った奴に、近づける者などいるのなら見てみたいものだ」

「・・・私では、無理か?」

「誰であっても無理だろうな。一つ一つの動作に必死が籠る。この槍を外さば、この命捧げんとして振るわれる槍ぞ。そんな覚悟で武器を振るうほど狂っている者が、そうそういてたまるものか。それが人間だとしたら、どんな生き物よりも恐ろしいだろうさ」

「ならば、やり方を変えねばなるまい」


 オーダインが槍を掲げると同時に、周囲を囲んでいた騎士たちがさっと引きあげていく。そして四方からは、それぞれ別の格好をした戦士たちが現れた。レーベンスタイン、ディオーレ、アルベルトの3人が。

 その威容に、満足気にシェイプシフターが微笑んだ。全員のことを知っているわけではないが、どれほどの強者が出現したかはシェイプシフターにもわかっている。


「ほう、随分なもてなしようだな?」

「騎士よりも騎士らしいと呼ばれる我らだが、本質はやはり傭兵でな。第一に依頼達成を考えねばならんし、何より貴様の危険さを肌で感じて理解しているつもりだ。ここが戦争の分岐点だ。卑怯と呼ばれようが、貴様はここから逃さんぞ」

「良い判断だ。それに卑怯とは思わんし、これくらいが丁度よい。どれ、かかってこい。何なら、まとめて相手になるか?」


 シェイプシフターが挑発するように手をこまねくが、誰もそれに応じない。シェイプシフターが不満そうに首を傾げた瞬間、地面から槍のような錘が前触れなく隆起する。


「魔力の集散がなければ完璧だが?」


 シェイプシフターはそれらを歩くようにして苦も無く避け、あるいは打ち払い、嘲笑うようにディオーレに向けて歩いていく。悠然と向かうシェイプシフターに向けて、ディオーレは焦るでもなく、むしろうっすらとほほ笑んだ。シェイプシフターがその笑みにぴたりと足を止めると同時に、横からアルベルトが猛然と斬りかかった。

 シェイプシフターはアルベルトの剣を片手で打ち払おうとして、途中で両手に切り替えて受けた。受けたシェイプシフターの足元が沈み、足先が地面にめり込む。剣は折れんばかりに軋み、筋肉が悲鳴を上げてもシェイプシフターの表情はまだ涼し気だった。


「おお、人間にしては剛力よ――いや、混じっているな貴様。その恰好、神殿騎士団の団長か。そういえば神殿騎士団の初代団長は――」


 シェイプシフターが昔をふと思い出そうとしたところに、アルベルトが無言で圧力を上げた。膝が折れそうになるのをぎりぎりで堪えながら、シェイプシフターは口を歪めた笑った。


「貴様、少しは会話を楽しまんか」

「生憎と、口下手だ」


 ようやく反応したと思ったら背後から斬りつけられるのを感じ、シェイプシフターは転がりまわるようにして脱出した。完全に虚を突かれた一撃だったので、膝をついていたら間違いなく背中を斬られていただろう。

 レーベンスタインがアルベルトに並び立つようにし、横目でその無表情を見た。



続く

次回投稿は、9/21(木)21:00です。

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