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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その241~夢の跡と笑う者①~

***


「おーい、ユーティ~。どこー?」


 エルシアはもはや相方にも等しくなった水の妖精を探して、アレクサンドリア市街に布陣したイェーガーの陣内をさまよっていた。平時なら許されることではないが、多くの市街が人形兵と反乱軍の激闘で焼け落ち、復旧も兼ねてイェーガーは例外的に滞在を許されている。もちろん戦乱を収めた功労者を風雨に晒すわけにもいかないという配慮もあるが、まだ人形兵が完全に死滅したかどうか定かではないことが直接の原因だ。

 結局、女王依存ではない人形兵は自らの手ですべて死滅させる以外の方法はなく、イェーガーのセンサーたちが判別して一体ずつ処分するしかなかった。戦いが終わって10日以上経つが、レヌールの復帰にはまだあと10日ほどかかりそうと衛生兵が判断され、人形兵の処分は遅々として進んでいない。彼女さえ復帰すればより早く人形兵の処分は進むだろうが、そのころには東で戦っているディオーレの部隊と、人形兵との決着もつくだろう。

 エルシアがこうして一人で市街を歩くのはいまだ危険が伴うが、今のエルシアならそうそう人形には遅れをとらない自負がある。現にこの10日で3回襲撃されたが、いずれも苦もなく撃退した。エルシアにとっては強敵との連戦を思い起こせば取るに足らない出来事なのだが、周囲から見れば鮮やか極まりない撃退だったことを彼女自身がわかっていない。

 中隊長になったエルシアは通常なら200人ほどの部下を率いるが、まだ経験が浅いとして50人程度の部下に人数を制限してもらっている。その代わりにエルシアが指揮しやすいよう、年若い傭兵で部隊は構成されており、自然と新兵を受け持つことが多かった。すると前線よりも中陣から後陣を任せられることが多くなり、新兵は怪我人も多いことから衛生兵とともに陣内を駆けずり回る羽目になる。

 思ったように戦えないもどかしさと、同時に大きな部隊を動かすためにどんなことに配慮し、どんなことを知っておくべきか、エルシアは身をもって学んでいた。そういえばレイヤーは戦いの時には輸送隊や物資の搬送をしているからこういった仕事もしているのだなと思いつつ、それにしては一度も見かけないなと、頭の片隅で不思議に思っていた。その疑問も、あまりの多忙さにすぐに押しつぶされてしまうわけだが。

 エルシアはユーティの気配を辿り、陣を出てアレクサンドリアの王宮へと向かった。まだ城門はレギレンドが破壊したままなので、威厳も何もあったものではない。エルシアはイェーガーの身分証を見せると、そのまま瓦礫を踏み越えて王宮内に入った。しばらく歩くと、会議室の傍にある控室のようなところに、ラインとユーティ、そしてコーウェンとレイヤーがいたことに驚いた。


「あれ? どうしてここにレイヤーがいるの?」

「そりゃあこっちのセリフだぞエルシア。呼んでもないのに、どうやってここに来た?」

「ユーティの気配を辿って?」

「何それ怖い」


 ユーティがラインの頭の陰に隠れたが、ラインはそれを鬱陶しそうに追い払って話を進めた。


「レイヤーには届け物を個人的に頼んでいたんだ。こいつは口が堅いからな」

「ふぅん。それはいいとして、いつ頃ここから離れるの?」

「なんでだ?」

「アルフィリースの応援に行かなくていいの? あるいは、ローマンズランドを迎撃するんでしょ? アレクサンドリアの外で迎撃するなら、早い方がいいんじゃない?」


 エルシアの意見にラインが少し驚いたような表情をし、コーウェンが面白そうにくすりと笑った。


「どうしてそう思うのですかぁ~?」

「いえ、なんとなくだけど。大した根拠なんてないわ」

「強いて言うなら~?」

「気配?」


 エルシアはうなじをさすった。どうやら何かを彼女なりに感じていると悟ったのか、レイヤーの目が一瞬だけ鋭くなってそしていつもの無表情に戻った。


「ここら辺が昨晩から落ち着かないのね。最初はなんだろうと思ったけど、アレクサンドリアに攻め込む直前と同じような感じだから・・・ひょっとしたら大きな戦いがまた迫っているのかなって」

「一応は国境沿いにもセンサーを配置していますので~、状況は把握していますがまだ余裕はあります~。だからご心配なさらず~。今度はアレクサンドリアの精鋭と~、余力のある傭兵たちを選抜してそちらに向かう予定です~」

「私は?」

「できればここで負傷兵をお任せしたいと思っていましたが~」


 コーウェンはそこまで言ってから、言葉を切った。エルシアの目を見れば、彼女が何を言わんとしているかは聞くまでもなく、わかってしまったからだ。


「ついてくるおつもりですね~」

「駄目かしら?」

「いえ~。できればこちらからお願いしたいかと~」


 コーウェンはそう言ってからラインの方をちらりと見た。ラインはそれだけでコーウェンの意図を察したのは、ふぅ、と息を一つ吐いてから淡々と事実のみを告げた。


「俺はしばらく休養だ。ローマンズランドとの戦は任せる」

「え、なんで――」

「全治一か月」


 ユーティが冷めた言葉で告げた。一か月――つまり、45日もかかるということだ。そしてユーティの態度を見る限り、ラインはレヌールよりも重態であることがすぐにわかった。



続く

次回と行は、7/21(金)1:00です。

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