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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その230~裏切り者と渇く者55~

 ディアリンデは殺気だっているわけではないが、威圧感をそのままにその場でゆっくりと全員を見据えた。動かないでいてくれたのは正解だ。もし一歩踏み出ていたら、圧を受けた反動で誰かが反射的に飛び出していてもおかしくなかった。

 ディアリンデは、その威圧感に見合った厳かな声をゆっくりと発した。


「――1つの申し立てがあった。そなたたちがこの国の混乱の元凶になっているという話だ」

「馬鹿な! 我々は王に連なる正当な王家と、それを補佐する一団だぞ!? それがどうして混乱の元凶になる!」

「その王も王妃も、人形だったようだが?」


 ディアリンデの鋭い眼光がイメルを刺すように捉えると、イメルがぐっと言葉に詰まる。イメルもまたディアリンデには強く出られないのか、それ以上は何も言えないでいる。

 互いに年の頃は近いのか、壮年から初老にさしかかろうという年に見えるディアリンデ。白髪混じりの髪と髭をたくわえたディアリンデは、まさに灰色の巨大な狼のように見える。多くの土地で灰色から銀色の狼は精霊の代行者として神聖視される傾向にあるが、目の前のディアリンデも同様に感じられすらする。

 ディアリンデは第二王妃クエステルの方を見ると、少しだけ困惑したように続けた。


「そこな第二王妃も、もはや人形かそうでないかと見極めるだけの術を我々は持たぬ――となれば、争いの元凶になりそうな者は、すべて混乱が治まるまで一時投獄するか軟禁するのがもっとも安全な策だと考えるのは、道理ではないかね?」

「それはそう――かもしれませんが。先ほどの物の見方をあなたに告げた誰かのことが気になりますわ」

「誰が告げたかは関係がないのだよ、第二王妃殿。提案があり、それを考慮した結果我々はその可能性を否定できないと判断した。我々がこのアレクサンドリア存続のために組織されていることはご存じのはず。ここは穏便に同行していただけないだろうか」

「嫌だと言ったら?」

「当然、実力行使になる」


 周囲の騎士たちが一歩踏み込み、クエステルの周囲にいた者たちが武器に手をかける。一触即発の空気の中、ラインが冷静に一歩前に出た。


「あ~、ちょっといいか?」

「そなたは誰だ?」

「誰でもいいだろ、あんたら風に言うと。それよりも俺の発言の方が大事――あんたらが一考する余地さえあれば」

「・・・なるほど。聞こう」


 ディアリンデは顔色を変えずに告げ、周囲の騎士たちに手を出さぬように手をすっと挙げた。


「俺らを投獄、あるいは軟禁して事態が改善したり解決するなら、それはそれで構わない。だが、相手の企みだけが上手くいくような事態は避けたい。その誰かさんも一緒に投獄することは可能か?」

「――否、だな。相手は既にこの戦いの収拾に向けて動いている者だ。その者を投獄するなら、この事態が終息しない可能性が高くなる。それは我々の本意ではない」

「我々も事態の解決に向けて動いているんだが?」

「証拠があれば信じよう」

「ならば逆に聞くが、俺たちがあんたらを信じる証拠とやらはどこだ? その誰かさんの手先でないという証拠は?」

「貴様、我々を愚弄するか!」


 ラインの挑発ともとれる言葉に、周囲の騎士たちが色めきたった。ディアリンデの隣の騎士も剣に手をかけている。ディアリンデはまだ殺気立ちはしないが、目の鋭さが一段増した。


「――アレクサンドリアの創立より、当主たる私が率いる派閥は常に中立かつ公正だ。それでは証にならんかね?」

「何を信じればいいか、人生で本当に信じられるものはそう多くないもんでね。特にかつて心から信じていた国に裏切られた身としては。どうして今が初めての裏切りでないと言い切れる?」

「それももっともな理屈だ。ならばどうする? 我々を力づくで退けるか?」

「それはあまりやりたくない。あんたたちが本当に信じられる騎士たちなら、この国が正常になった暁には根本を支えることになるだろうからな。ここであんたたちを切り捨てれば、その損失を取り返せない可能性がある。だから、俺が取る選択肢はこうだ」


 ラインが指笛を吹くと、空から女が一人飛んできた。どこから降りてきたのか各々が驚く中、地面を破壊することすらなくひらりと優雅に地面に降り立つと、まるで踊り子か娼婦のような恰好をした女がラインに向けて艶やかに片目を瞑って見せた。


「やっとお声がかかったわね。待ちわびたわ」

「出番がないにこしたことはなかった。準備は?」

「できているわ。始めるわよ?」

「頼む、ネフェニー」


 ネフェニーと呼ばれた女は、ラインをはじめとした一団を庇うようにレイドリンド家の前に立ちはだかった。ネフェニーという女を見て、ディアリンデがいつでも剣を抜くように構えたのがよくわかる。もしネフェニーが少しでもおかしな動きをすれば、いつでもその首を落とす準備があったろう。

 だからラインは先に仕掛けておいたのだ。ネフェニーはあくまで合図と保険。本当にやりたいことは、既に始まっていた。



続く

次回投稿は、6/29(木)4:00です。この時間に需要があるのか…

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