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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その226~裏切り者と渇く者51~

「どうした、2人とも?」

「王妃様、迂闊だぜ?」

「通路が綺麗すぎるね、間違いなく最近誰かが通っている。クエステル、本当に誰もこの通路の存在は知らないのかい?」

「馬鹿な! ここを知るのは――」

「先頭、代わりますね」


 クエステルの反論を待たずして、バネッサが前に出た。その途端、階段状になっている上から敵が押し寄せてきた。


「やはりばれてる!」

「こんな狭い所で!」

「副長、突破でいい!?」


 一同が驚愕し、対策をどうするかを講じる前にバネッサが一人目の敵を打ち倒していた。流れるように敵の攻撃を受け、首の骨を折り、するりと入れ替わるように一歩階段を登る。

 敵は後から後から押し寄せてくるが、ラインの決断は速やかかつ、一つしかなかった。


「任せる! なんとしても突破だ!」

「承知!」


 バネッサが舌なめずりをする。既に一人目の敵が体を白い灰に変えつつある以上、敵は人形で確定。人形と言えどこの狭さとなると技量の差はさほど重大ではなく、物量と質量がものを言う。

 人形では手ごたえがなさ過ぎてつまらないと考えていたバネッサだったからこそ、この逆境を楽しんでいた。安全に、確実に敵を排除できるにこしたことはないが、あまりに緊張感がないと、不意の一撃を食らいやすい。人形相手なら、このくらいの逆境ハンディがあった方が実力を十全に発揮できる。


「燃えるねぇ」


 人形はそれしか行動パターンがないかの如く、狭い場所では上段切りか、突きしか選択してこない。それでも上から体重を乗せて襲い掛かってくる具足付きの相手を、バネッサは器用にトンファーを零距離で操りながら、彼らの急所に滑り込ませていく。

 後ろで待つイメルがとどめを刺すまでもなく、相手が次々と白い灰に還っていった。


「お見事だね! 仕事がありゃしない」

「そりゃあどう、もっ!」


 イメルの褒め言葉に返事をする余裕すら見せながら、バネッサが10体以上を始末した時に後ろに向けて声をかけた。


「あと残り、どのくらいだい!?」

「半分くらいだ!」

「んじゃあ、15体も倒せばいけるかしら?」


 バネッサがさらに気合を入れ直そうとしたところで、次の敵の背後にいる男の雰囲気が違うことに気付いた。量産型の質の低い剣ではなく、それなりに業物の取り回しやすい短剣を2剣で構えている。明らかにこの通路での戦い方を意識した装備。

 その男が前にいた人形兵士の背中を蹴り、バネッサに押し付けた。不意の行動に、バネッサは本日初めての後退をした。


「私を下がらせるとは、ちょっとした屈辱じゃないのさ!」


 もちろん一度空いた間を利用して、バネッサが当身を人形兵に食らわせる。格闘家で言うところの「寸勁」にも等しい攻撃は一撃で人形兵を絶命させていたが、その体が白い灰に還る前に、体を挟むように次の敵とバネッサの攻撃が交錯した。


「シイッ!」

「おおっと!」


 攻撃速度だけ見ても、かなりの手練れ。武器の取り回しの性質からも、相手は人形兵の体を避けるように斬撃を回してくるが、バネッサのトンファーではそうもいかない。

 不利と見たバネッサが守勢に回った。十数合、敵の攻撃を捌くことにのみ専念する。


「騎士の戦い方じゃないねぇ、君!」

「・・・」


 会話する余裕すら見せるバネッサに対し、ひたすら無言のまま斬撃を放ち続ける相手。その斬撃が50を超えたあたりで、敵が一度階段を上り、背後にいた人形兵の胸倉を掴んで前に引き倒そうとした。


「隙!」


 引き倒される相手の頭の上を飛び越え、そのまま壁を蹴りあがるようにして頭上から回り込むバネッサ。そのバネッサの身軽さを見て、初めて敵が不敵な笑みを浮かべた。


「馬鹿め、そこでは細かい姿勢制御もできまい!」


 落下してくるバネッサに向けて男が剣を振るった。バネッサの顔を左右から両断したと思われた剣は、空を切った。

 あるべきはずの手ごたえがないことに、男の目が驚愕の事実を認識した。バネッサは垂直のはずの壁で、なんと後退してみせたのだ。恐るべきは、それを可能にする野生の獣に劣らない柔軟な筋肉か。

 

「なんて女だ。だが、俺の目的は――」


 それが、どこか諦めの境地のような、乾いた笑みを浮かべた男の最後の言葉になった。バネッサは強敵の顔面を一撃で砕くと、その勢いそのままに人形兵を全て片づけて一気に上まで駆け上がった。



続く

次回投稿は、6/21(水)5:00です。不足分連日投稿です。

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