表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2545/2685

開戦、その219~裏切り者と渇く者㊹~

「散開!」


 ルナティカの声に反応するように精鋭たちが散った。敵はどうやってこちらを認識しているのか不明だが、それぞれ散開した傭兵たちを個別に認識しているようだ。傭兵たちの間合いの取り方が絶妙なせいで、どこから攻撃すべきか悩んでいるようで、せっかく手に取った武器もどこに向けるでもなく狼狽えているようにすら見える。

 その相手の動きを見たルナティカの判断は早い。


「レヌール! 弱点を!」

「前から3本目の右脚の、付け根!」


 はっとしたように反応したレヌールの声とどちらが早いか、ルナティカが飛び出した。リサなら何を言うまでもなく教えてくれただろうし、それと同時に武器を一閃させれば終わっていたはずだ。この普段との手順の違いが少しだけルナティカの動きを鈍らせたのか、敵の反応が間に合う。

 相手は体をうねらせるようにして弱点を隠し、同時に波のように動きながらルナティカをすれ違うようにして攻撃してきた。


「ちっ」


 人間ではありえない動きと攻撃に、ルナティカが一度距離を取る。先制攻撃で一撃でおらわせていれば相手がなんであれ苦戦もないものを――ルナティカの焦りを悟ったのか、老練の傭兵が命令を代わりに出した。


「各自、敵を逃がすな! 等間隔で並んで囲め!」


 仲間の動きが早い。隙のない包囲網に相手の動きが止まる。そしてルナティカとエルシア、わずかに遅れてレヌールがはっとした。


「まずい!」

「やばっ!」

「後ろに飛んで!」


 悲鳴のようなレヌールの叫び声にわずかでも反応が遅れた者は、体が「ずれ」た。敵は体節のような体を固定するために使っていた金属のようなものを薄く広く伸ばして弾力にとんだ薄い剣のようにすると、瞬間的に体の外にそれをずらし出して、自らを大きな戦輪チャクラムに見立て、その場で高速で一回転したのだ。

 急速に円が拡張したこと、そして相手の攻撃力を読み違えて防御した者は、全てその場で絶命した。無事な者は半分の10名。空いた防御網の穴を見て、敵が一直線にそちらに向かった。


「逃がすかぁ!」


 果敢に襲い掛かるエルシアと、ワヌ=ヨッダの戦士。飛びかかるワヌ=ヨッダの戦士は大柄で、敵も一本の脚ではなく、3本の脚で蹴飛ばしてようやく距離を離した。

 そしてエルシアは弱点を狙うと見せかけ、地面で支えにしている方の脚の付け根を狙った。見事に決まった突きが、敵のバランスを崩す。

 巨大な百足のようになった敵がぐらりとすると、天井の梁にしがみついて体を支えようとする。そこを逃さずロゼッタの特殊兵が、棘付きの捕縛縄で敵を天井の梁に括り付けた。棘が天井の梁に食い込みそう簡単に外れないとわかると、百足のようになった敵は部屋を崩しかねない勢いで暴れ始めた。


「う、わわ」

「まずい、部屋が崩れます!」


 レヌールの言葉に傭兵たちが一度部屋の外に向かう。その後ろで、ルナティカが腰のポーチから黒い球を取り出した。


「全員待避して」

「ルナティカさん、何を?」

「やっぱり私、集団戦に向いてない。御免」


 ルナティカを気遣うレヌールを外に押し出しながら、エルシアは珍しいものを聞いたと思った。ルナティカが誰かに謝るなんて、初めてではないのか――

 ルナティカが黒い球に指を複雑に滑らすと、球に赤い線が浮いた。そして赤い線が1本ずつ減るのを確認すると、ルナティカはそれを敵に投げつけたのだ。


「離れて」

「どのくらい遠くに!?」

「可能な限り!」


 ルナティカの言葉に従い、傭兵たちは全力で走った。だが3つも数えない間に、足が宙をかいた。戦場での経験豊富な彼らをして、初めてのことだった。


「ええっ!?」

「何かに掴まって、早く!」


 ルナティカには珍しい焦り。爆弾か――そう皆が考えたが爆裂音はなく、むしろ後方に引き込まれる。エルシアが後ろを見ると、先ほどまでいた王の部屋が漆黒の球体に包まれているのが見えた。


「ルナティ、あれ何!?」

「知らない!」

「巻き込まれたら、どうなるの?」

「肉片一つ残らない!」

「うええ!」


 エルシアの悲鳴は、後方に引き込まれる巻き起こった空気の渦に飲み込まれて消えた。得るネリアの地下にあった遺跡から持ち帰ったあれが何かを、ルナティカは知らない。使い方はレイヤーに教えてもらったし、よほどのことがないと使ってはいけない切り札だというのもわかっている。

 敵を倒すだけならできたかもしれない。だがこれ以上被害を出さず、そして何が起きていたか、誰が関わっていたかの痕跡を残さず敵を始末するにはこれしかないと思った。味方が死んだことで、その痕跡を辿られイェーガーにあらぬ疑いをかけられることは、絶対に避けねばならない。

 レイヤーは言った。この武器なら派手だけど、確実に痕跡を残さず対象を消滅させることができるよ、と。彼はなんと言っていたか――


「たしか――亜小規模超重力場プレ・マイクロブラックホール

「何―?」


 ルナティカの叫びは隣のエルシアにも届かず、聞き返そうとすることには突然の後ろからの衝撃に、全員が吹き飛んだのだった。




続く

次回投稿は、6/7(水)7:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ